インスタグラム が動画なら、ディスポは写真で勝負:「動画vs写真という構造で捉える風潮には疑問がある」

DIGIDAY

「インスタグラムは写真よりも動画を優先させるのではないか」とユーザーが憂慮するなか、同社代表のアダム・モッセーリ氏が2022年7月26日、ユーザーの不安を取り除こうと動画でツイートした。このツイートに乗じて動きを見せたIT経営者がいる。ディスポ(Dispo)の共同創業者でCEOのダニエル・リス氏だ。メガネをかけて、黄色いスウェットを着た同氏は、2日後の7月28日、モッセーリ氏のクローンかと見まがうような姿で、自らTwitterに動画を投稿し、写真重視のSNSを探す人たちに向けて的を射たピッチを行なった。

「そもそも、ディスポでは動画アプリさえ提供していない」とリス氏は動画で説明し、他社のアプリがユーザーよりも広告主をいかに優先しているのか匂わせた。「まずディスポの場合、思い出作りや、友だちに見せたり、映えを楽しんだり、気分を盛り上げたりするために写真を使ってもらおうと考えている。次に企業として重視しているのは、楽しいことと心の健康だ」。

キャッチフレーズは「good vibes only(人生、イイ感じ))」で、ディスポーザルカメラ(使い捨てカメラ)をもじった「ディスポ」を社名に掲げた同社は、2021年夏に再ローンチしてからというもの、他社のアプリがこぞって動画への投資を増やすなか、依然として写真共有にこだわり続けている。しかしながら、この大きな賭けで、写真市場の空白を埋められるのか、巨人たちと対決できるのか、続々と現れるライバルたちと競争できるのか、しっかり稼げるのか、その青写真は「現像」してみなければわからない。

写真で楽しみたいという声が再び上がるも

競争が厳しく、ユーザーの傾向があれこれ変わるため、どのSNSアプリも、「何者でもなくなるのか、クローンになるのかの危うい狭間に立っている」。クリエイティブエイジェンシーのチェイル・ダラス(Cheil Dallas)でイノベーション戦略の責任者を務めるコーリー・オースティン氏はそう話す。

7月にディスポの動画を観た米DIGIDAYはリス氏と連絡をとり、同社の逆張り戦略や、2021年の様子について話を聞いた。リス氏はインタビューで、同社が注目しているのはこれからの写真フォーマットあり方だけではないと話した。人々が希望するオンラインの時間の過ごし方を提案しようとしているのだという。リス氏いわく、ディスポやビーリアル(BeReal)、ポパラッツィ(Poparrazi)などのような、ユーザーの規模が小さなスタートアップ企業は、相互に協力しあえるところは協力し、何億人、それどころか何十億人もユーザーを抱える既存の大手企業に対して、束になってかかっている。

「現在、要となる理論的な疑問、構造的な疑問のひとつが、『SNSはエンターテインメント的なものなのか、それとも、人と人とのつながりを構築するものなのか』である」とリス氏は米DIGIDAYに語った。「いわゆるお楽しみクラブなのだろうか? リアルな世界のコミュニティをオンライン版にするということなのだろうか? 写真は1枚であれアルバムであれ、そのときどきの瞬間を捉えたものだ。写真にはその人の思い入れがある」。

ほかのアプリはお互いのいいとこどりで、なんとかユーザーに自社アプリを使ってもらおうと必死だが、ディスポは我が道を行く(最初のローンチは2021年2月)。前日に撮影した写真をゆっくりとデジタルで「現像」し、1日1回午前9時に見られるようにする。このアプリにはさまざまなファインダーがあり、ユーザーはそれほど編集の手間をかけずに写真の見た目を変えることができる。レトロ感や本物感などトレンドを試すことが可能だ。写真は「ロール」で、プライベート用、公開用など分類できる。

「写真で楽しみたいという声が再燃しているが、なかなか手ごわい」とリス氏は話す。「この1年半のSNSの様子を見ればわかるだろう。ある投資家からはこう言われた――『写真共有の戦いがまた戻ってきたね。でも今回の戦いはアイデアが勝負だ』」。

アルゴリズムを超えた、新たなアングルで心機一転

Facebookやインスタグラムとは違い、ディスポはアルゴリズムでコンテンツの順位をつけていない。リス氏は、そのおかげで、TikTokのようにプラットフォームで何百万人ものフォロワーを獲得するレースや、ランクが高くなるような写真を作るレースにこだわらずにすむ。その代わりに着目しているのは、大学の学生社交グループのような、さまざまなリアルライフのコミュニティに基づく小さなグループを育てることだ(リス氏によると、ユーザーの約90%が24歳未満)。2021年、ディスポはアンバサダープログラムを用意した。学生が申し込めば、このアプリの使用を大学内で推進したり、さまざまなコミュニティを運営したりするのに役立つ。ディスポには、文化を象徴する瞬間別、テーマ別、出来事別、都市別のロールが用意されている。それ以外にも、コミュニティ独自でロールを作ることもできる。

「動画vs写真という構造で捉えるのはどうなんだろう、とさえ思う」とディスポのコミュニティ担当バイスプレジデントのTJテイラー氏(前職は会員制SNSプラットフォーム、ラヤ[Raya]のコミュニティディレクター)は語る。「とはいえ、人物の人となりをそのまま感じられることも重要……どんな形態であれ、今求められているのはこうしたリアルな感覚なのだ」。

大半のSNSアプリに比べて、ディスポの規模は依然として極めて小さい。リス氏によると、これまでのダウンロードは800万件で、月間のアクティブユーザーは100万人だという。最も数字が伸びたのは2022年5月で、夏休みに先駆けて、54万を超えるダウンロードを記録した。しかし、先月7月のダウンロードは12万件にとどまった。ディスポの規模はこのようにわずかなものだが、巨人たちは同社を競合相手と評している――少なくとも法的観点においては。たとえば、Meta(Facebook、インスタグラム、メッセンジャー[Messenger]、ワッツアップ[Whatsapp]の親会社)は、自社が市場の独占などしていないという証明を展開しつつ、2022年4月にはディスポをはじめとする複数のSNSアプリ企業に対して証人喚問令状を送付している。

ディスポは2021年2月の会員制ベータ版リリース時、すぐに注目を集め、ダウンロード数も伸びた。これは共同創業者デビッド・ドブリック氏の高い人気のおかげでもある。同氏は短編動画Vine(バイン)やYouTubeのスーパースターで、使い捨てカメラで撮影した写真をインスタグラムに投稿したところ、セレブたちがこぞって同じような写真を投稿しはじめたため、2019年にアプリを考え出した。好評を博していた最中、ディスポとはまったく関係のない問題で騒ぎとなり、ドブリック氏はまもなく同社を退くことになった(2021年3月、同氏のVログチームの元メンバーが、2018年に行なった女性への性的暴行で告訴されている)。

ディスポが2021年6月に再ローンチしてから1年以上が経過した。再ローンチでは投資ラウンドのシリーズAで新たに2000万ドル(約26億円)の資金を調達し、顧問として著名写真家のアニー・リーボヴィッツ氏やレイブン・バローナ氏、NBAスター選手のケビン・デュラント氏やアンドレ・イグダーラ氏、女優ソフィア・ベルガラ氏、モデルのカーラ・デルヴィーニュ氏が名を連ねる。

「私たち皆をワクワクさせたディスポの『北極星』は、『live in the moment(今この瞬間を楽しむ)』というミッションであり、ディスポがコミュニティの共感を得ているということだった」とリス氏は話す。「たとえ報道のとおりだったとしても、毎日ディスポを使って、楽しい、イイ感じだと思うティーンズや大学生たちが当時も何十万人といた。何よりもその事実のおかげで、目標を見失わずにいられた」。

アート業界にも広告業界にも刺さるメトロ感

これまでのところ、ディスポは広告を打っておらず、コラボも限られたブランドだけだ。ほかのSNSのように、収益化の前にユーザーの増加を考えていることもその理由に挙げられる。たとえば、YSLビューティ(YSL Beauty)とコラボしたMATTE CAMでは、インフルエンサーたちがディスポで撮影して、さまざまなSNSプラットフォームでも同じ写真を投稿していた(このファインダーは今でもディスポに残っている。ただし、YSLのロゴは一切なし)。また、映画会社パラマウント(Paramount)とのコラボで何作か映画のプロモーションを手伝ったり、ロラパルーザ(Lollapalooza)やアウトサイドランズ(Outside Lands)のような音楽フェス専用ロールを作成したりしている。

ディスポは広告収入がないため、資金の大半はさまざまなベンチャーキャピタルから調達している。これはまさに、アーリー期のスタートアップ企業の典型である。同社はまだマーケティングに力を入れていないが、広告主のなかには、積極的にキャンペーンをかけていないにもかかわらず魅力を感じている企業もある。また、写真と小規模なコミュニティ、レトロ感のあるスキューモーフィックデザインにターゲットを絞ったことで、ディスポは差別化に成功したと指摘するマーケターもいる。ほかにも、信頼できるカジュアルなコンテンツを探しているユーザーにピッタリな場所である点を好むマーケターもいる。

「TikTokが文字通りこの分野の巨人として君臨しているので、こうしたWeb 2.0のプラットフォームの一部で行われてきた保守的な動きを受け入れざるを得ないといった状況だ」と大手エージェンシーVMLY&Rでエクスペリエンスデザイン担当ディレクターを務めるルーク・ハード氏が話す。

ロンドンを拠点にするインフルエンサーマーケティングエージェンシーのクール(Coolr)傘下にあるクールスタジオズ(Coolr Studios)で責任者を務めるベン・ジョーンズ氏が指摘するには、本当の試練は、ディスポがインスタグラムから、より多くのクリエイターを引き抜けるかどうかにかかっている。ブランドはクリエイターについていくものだからだという。また、そもそもユーザーの習慣性を狙っていないアプリが継続的に使われるのか、疑問を呈する声もある。そう話すのはIT調査会社ガートナー(Gartner)のディレクターアナリストのクラウディア・ラッターマン氏だ。同氏いわく、ガートナーのパートナー企業が集めた一部のデータによると、ディスポのユーザー定着率はほかのSNSアプリほど高くないという。

「いったんユーザーの注目を引いたら、今度は『すごい!』と思わせなければならない。アプリは準備万端で、性能も高くなければならない」とラッターマン氏は話す。

「デジタルはフィルムの足元にも及ばない」

デジタルネイティブの写真マニアなら誰もが、市場の空白を埋めるのはディスポだと考えているわけではない。南カリフォルニア大学を卒業したばかりのオリビア・フラリー氏は、昨年まだ大学に通っていた頃にディスポをダウンロードしたが、それ以来、大して利用していないという。いつも本物のカメラをいつも持ち歩いていたので、ディスポのファインダーよりも実際にプリントしたもののほうが好きだった。

現在、Z世代が経営陣を占めるマーケティングエージェンシーJUVコンサルティング(JUV Consulting)でマーケティング担当シニアディレクターを務める同氏は、ブランドが求めているのは、ビンテージ感やナマ感のあるコンテンツだという。それに、実際のフィルムを何十本も現像すれば、確かに高くつくかもしれないが、今でもまだデジタルでは足元にもおよばないとフラリー氏は考える。

「『ポラロイドがいい』、『フィルムがいい』、『価格を考えると、とても手が届かないけれど、これがいい』と私たちは考える」とフラリー氏。「でも多くの場合、現像された写真と同じように見せるアプリやフィルターなど手頃なオプションでは満足できない。というのも、レトロ感を求める根底には、フィルターや編集や、フェイクっぽさを生み出してきたインスタグラムの文化をどうにかしたいという思いがあるからだ」。

[原文:Dispo hopes to stand out with photo as social media giants compete with video

Marty Swant(翻訳:SI Japan、編集:分島翔平)

Source