生き物と暮らす限り、必ず訪れる別れ。それは言葉では表現し尽くせない悲しみで、普段社会でバリバリ活躍しながらも深刻なペットロスに陥った人を何人も知っている。
いつか来る最後の日を想像しては、自分を奮い立たせ、覚悟を新たにしている人も多いのではないだろうか。
けれど我々は大事なことを見落としている。自分が死ぬパターンもあるんじゃね?
・「ねこヘルプ手帳」(税込850円)
愛猫家のあいだで静かな話題となっている商品がある。それがこちら「ねこヘルプ手帳」だ。
見た目は人間の「お薬手帳」や「母子手帳」にそっくり。イラストレーターのオキエイコ氏が、自身の飼い猫への思いをもとに考案したそう。
自分が外出先で意識不明の重体になったり、最悪のケースになったりして、意思表示できなくなったときに「家に猫がいるからよろしく!」と知らせるための手帳だ。カバンに入れて携帯したり、車のわかりやすいところに入れておいたり……といった使い方が想定される。
我が家では自動給餌器やスマート家電を駆使し、万が一のときには人間なしでもしばらくサバイバルできる環境を整えてある。が、それでも飼い主の外出時は窓の外を眺めて、じっと帰宅を待っているフシがある。
もし2日目になっても3日目になっても飼い主が戻らず、いつまでもいつまでも待っていたら……。想像しただけで涙がぶわっと大洪水だ。
気まぐれだと思われがちな猫だが、実は人間のかけた愛情を何倍にもして返してくれる生き物。そして、人間より根気強い生き物でもある。きっと、ずっと待ち続けるだろう。かわいそすぎる……!
いまここにある命に感謝がこみ上げ、顔をうずめたらクモの子を散らすように逃げられた。塩対応か。
・さっそく書いてみよう
筆者になにかあったとき、誰かが助けに駆けつけてくれるように、さっそく書いてみよう。
と思ったら、しょっぱなからつまずいた。生年月日も年齢もわからない! ノラ猫や保護猫出身だと、正確な誕生年がわからず「だいたい○歳」と勝手に思っているだけなのだ。同棲相手が秘密を抱えていることに気づき、「私、この人のことなにも知らない……」と寒くなるサスペンスドラマのよう。
過去にも保護した猫があまりにも小さかったので、成長途中の若猫だと思い込んでいたら、10歳超の老猫だったことがあった。ノラ暮らしだと栄養不足で大きくなれないから、サイズが当てにならない。
しょうがないので生年月日は飛ばして、猫種は「雑種」と……。でもこれも出生の事情を知らないから憶測だ。100%正解だと思うけど。
少なくとも血統書付きではないだろう。お目にかかったことはないが、「登録番号」とかあるらしい。証書をもらえるのかな?
体重……もわからないけれど、これは簡単。人間が抱っこして体重計にのり、その後に人間分を引けばいいのだ。
検査や予防接種の履歴も記載できる。本当に母子手帳のようだ。ペットのいない人からすれば、ごっこ遊びのように見えるかもしれないが、書いているこちらはいたって真剣。
後半では日々の健康記録をつけられる。食欲や排便、通院などを記録する。しかしこれは難関だ……!
多頭飼いだと便や尿が区別できず、飼い主でも正確に「誰の何回目か」を把握できていない。匂いをかいだだけで、どの猫のウンチかわかればいいのにと、いつも思っている。
さらに、本当は定期的に健康診断を受けるのが理想なのだけれど、ノラ出身は通院が地獄。「ここで連れて行かれたら舌かみ切って死ぬ!」という勢いで抵抗し、飼い主でさえ無傷でいられない。安全な診察のために洗濯ネットに入れる裏技があるのだが、ネットをびりびりに引き裂くほどなのだ。
手帳記入のために昔の資料をあさっていたら、保護主さんからのメモで「とにかく病院が嫌いです」「診察台で暴れます」という申し送りがある。当時からだったかー!
とはいえ、これは言い訳に過ぎない。頑強な男児であることに甘えて、健康状態を正確に把握できていなかったなぁ。反省だ。
最後のフリーページは、検査結果を貼るなど自由に使えるようになっている。筆者は覚え書きも兼ねて「どういう医療を受けさせたいか」を書いた。
というのも、過去に飼っていた猫の晩年、病院で人工給餌をしたことを(空腹状態が続くと肝リピドーシスという危険な状態になる)いまでも正しかったのか迷っているからだ。たしかに命は長らえたのだけれど、苦痛を引き伸ばしてしまったのではないかと……。
ちなみに最初のページには、事情を伝えて欲しい「代理人」を記載する。手帳を見つけた人が、実際に自宅に来られるわけじゃないからだ。
猫たちに親切にしてくれそうな人を指定しよう。家中の壁紙をはいでも、高価な猫グッズをガン無視しても、瀕死のセミをいたぶっても、自動給餌器に振動を与えるとエサがこぼれ出ることを覚えてヒマさえあればガンガンしていても、可愛がってくれる人に……。
ああ、また泣けてきた……!
長生きして欲しくて手を伸ばしたら、またもや汚いものにでも触れたかのように逃げられた。塩対応か。
・ほかの動物バージョンもあり
普段はあまり考えないけれど、大事なことが詰まっているこの手帳。たしかな反響があったようで、続編として犬用の「いぬヘルプ手帳」と、うさぎや鳥などエキゾチックアニマル用の「どうぶつヘルプ手帳」の製作が発表されている。小動物は猫よりもずっと短時間で衰弱してしまうから、切実な問題だろう。
また、車に貼れる「猫が家にいます」ステッカーも販売中。交通事故に遭ったときなどの備えだ。
猫バージョンの手帳では、記載できるのは1冊につき1匹なので、多頭飼いの場合は複数冊が必要。ちょっとでも気になった方はぜひ取り寄せてみて欲しい。何カ月後か、何年後か、役に立つ日が来るかもしれない。
参考リンク:もしもショップ:helmo(ヘルモ)
執筆:冨樫さや
Photo:RocketNews24.