経済回復につながるイノベーションを政府が推進する「6つの方法」とは?

GIGAZINE
2022年07月31日 12時00分
メモ



新型コロナウイルス感染症(COVID-19)や世界的な景気後退の中で、政策立案者や科学・産業界のリーダーは経済回復を促進する新たなイノベーションに期待を寄せています。そんなイノベーションを政府が推進する「6つの方法」について、オーストラリア連邦科学産業研究機構(CISRO)のシニアリサーチコンサルタントを務めるアリシア・キャメロン氏が解説しています。

6 ways governments drive innovation – and how they can help post-pandemic resilience
https://theconversation.com/6-ways-governments-drive-innovation-and-how-they-can-help-post-pandemic-resilience-186910

◆1:産業集積地を設ける
キャメロン氏は、ハイテク産業の集積地であるシリコンバレーのようなクラスターやハブを作ることがイノベーションを促進すると主張しており、実際にハイテク企業の集積地が国家競争力を向上させるという証拠があるとのこと。「産業クラスター(より一般的には産業都市)はイノベーション・生産性・スキル開発・新企業を生み出す中心地です。クラスターは企業間の競争と協力を支援し、地元のサプライチェーンを構築し、ジュネーヴの時計やサヴィル・ロウのスーツなどの地域ブランドを創出することができます」と述べています。

いくつかの政府は公的研究機関と協力して科学技術クラスターの構築を目指していますが、成功した事例はわずかです。一方、既存または新興の産業クラスターに財政的なインセンティブを与えて加速させる試みはより成功例が多いとのことです。

◆2:文化やライフスタイルのサポートを強化する
これは、地域のライフスタイル・文化・公共サポートを強化することにより、革新的な起業家が生まれやすい環境を構築するというアプローチです。いくつかの都市再生プロジェクトでは住民間の相互作用や会話、グループ学習を促進し、人々の知識共有と創造的なパートナーシップを生み出すことが目的とされています。しかし、ライフスタイルの向上が必ずしもイノベーションにつながるわけではなく、場合によっては高級志向が進み、生活コストの増大といった弊害が出る可能性もあるとキャメロン氏は指摘しています。


◆3:スキル主導のアプローチを採用する
イノベーションを促進する別のアプローチとしては、希少性の高いスキルを身につけた人材を地域に集める方法があります。これは優秀な移住者を地域に集めるインセンティブを設けるか、地元住民の教育に力を入れることで達成可能です。

しかし、スキル開発だけに焦点を当てて継続的な雇用や機会が確保されていない場合、熟練したスキルを持った人々はより自分にふさわしい場所へと移住してしまいます。そのため、スキル開発を地域における機会創出と一体化させることが重要だとのこと。

◆4:中長期的なミッションに資金を提供する
ミッションベースのアプローチは、中長期的な課題に取り組むために民間および公的資金をプールすることで実現されます。最も有名な例としてはアメリカで1960年代~70年代に進められた「アポロ計画」が挙げられ、ミッション達成に向けた取り組みの中でさまざまなイノベーションが生まれました。

これ以来、社会的使命を掲げた政府および企業活動は一般的となっており、有名なものでは二酸化炭素排出量ゼロの取り組みやSDGs、ワクチン開発を行う製薬企業研究機関に資金を拠出する国際基金・CEPIなど、さまざまな活動が政府および民間の資金で支援されています。


◆5:資金提供や投資を加速させる
イノベーションの促進において重要な要素の1つが、大学や研究機関、研究開発を行う企業に対する資金提供の増加と新技術の商業化です。国が発展するにつれてリスクの高い研究開発への支出は低下する可能性がありますが、さらなる進歩は新しい技術を創造するリスクの高いプロセスからもたらされます。政府以外で新興企業の拡大に重要な役割を果たしているのが、ハイリターンを狙って積極投資を行うベンチャーキャピタルですが、これらの企業が注目する産業はIT・製薬など一部にとどまるため、政府による投資も重要な鍵を握っています。

◆6:テクノロジー分野に政府が資金提供する
ドローン・IT・ブロックチェーン・ロボット工学などの新たなテクノロジーに政府が資金を提供し、革新的な地元企業と早期に関係を結ぶことで、能力開発や技術の共同開発といったメリットが政府にも生まれます。実際にこのアプローチは、シリコンバレーを含む世界規模のイノベーションのホットスポットで採用され、大きな利点をもたらしてきたとのこと。欠点は他の分野に回す政府資金が減ってしまい、失敗した時のダメージが大きいことであり、政府には正確に技術を評価する能力が求められるとキャメロン氏は述べています。


キャメロン氏が挙げた例はいずれも、イノベーションと経済回復のための「魔法の弾丸」ではなく、どれか1つを実施したからといってイノベーションが生まれる保証はありません。重要なのは生産性や技術開発、将来の市場に目を向けつつも地域の状況に細心の注意を払い、すべてのアプローチをバランスよく組み合わせることだとキャメロン氏は主張しました。

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