これが地元もてなしツアーだ!
ライター同士で地元を紹介し合う地元もてなしツアー。横浜市戸塚在住の月餅さんに愛犬の散歩コースを案内してもらった。
でかい惣菜、短い信号、知らない進学校、『ださセーヌ川』と、地元ならではの毒と謙遜とホスピタリティを中華鍋にぶち込んでおいしいチャーハンを作るようなエキサイティングな散歩だった。
愛犬の与太郎はずっとかわいかった。
人気企画・地元もてなしツアーとは
もし地元に人が来たとしたら連れて行きたい場所、そんなとっておきの場所を案内しあうホスピタリティ無駄遣い企画。第3回はトルーと月餅さんの組み合わせです。
今回は月餅さんガイドでトルーさん執筆
案内する人:月餅
案内する場所:戸塚
案内される人・執筆:トルー
犬大丈夫
事前に月餅さんから「犬は大丈夫ですか?」と聞かれていた。愛犬の与太郎と一緒に散歩コースを案内してくれるそうなのだ。
もちろん大丈夫だ。犬大丈夫。
犬は好きだし、記事に出てくる愛犬に会わせてもらえる、というのも地元ツアーならではだと思う。楽しみである。
まず人気のジェラートを買う
戸塚駅の地下改札で月餅さんと待ち合わせた。与太郎は地上で待っているらしい。
与太郎のところに向かう前に、駅直結のトツカーナモールというショッピングセンター、そこにあるカナールというケーキ屋さんに連れてきてもらった。
確かに大きい。陳列もワイルド。
月餅さんは「おいしそうなんだけど食べ切れなさそうで買ったことないんです」と言っていた。この肉屋さんは早くミニジャンボメンチカツを開発した方がいい。
「ミルク」という飾り気のないフレーバーが、人気No.2として売られていた。おいしさへの説得力がすごい。No.1はティラミスだった。
記事で見るより小さい犬
地上では与太郎が待っていた。
人見知りせず僕にも撫でさせてくれる。思っていたより小さい。芸能人を街で見ると想像よりちょっと小さいあの現象が起きた。
豆柴なんだそうだ。写真を見ていた時はそんなに小さく感じなかったな。
与太郎かわいい、小さい、ジェラート濃い、おいしい、と情報が多くて忙しい。
そういえばさっきも「ジェラートおいしそう」と「惣菜でかい」を同時に受信していた。
工作用のハサミで草を切る人は怖い
おいしい、かわいい、おいしい、かわいいが済んだところで散歩を始める。
恥ずかしながら僕は戸塚への前情報がほとんどなかった。戸塚というと「ヨットスクール」を思い浮かべてしまうが、あれは愛知県知多郡というところにあって戸塚区とは関係がない。
箱根駅伝で「戸塚中継所」という単語をよく耳にするが、調べたらあれは確かに横浜市戸塚区のことだった。中継所の戸塚。
石碑を見ていたら、ここから少し離れた草むらで、ハサミで草を切っているおじさんがいて怖くて逃げたという話を聞いた。ハサミが園芸用ではなくて、工作用の小さいハサミだったのがすごく怖かったらしい。
工作用のハサミで草を切るの、確かにわけが分からなくてすごく怖い。月餅さんが無事でよかった。
月餅さんが無事でよかった。
この恐怖体験を皮切りにローカルで個人的な情報が続く。これが地元もてなしツアーだ!
信号が短い、病院が古い
月餅さんから聞いた珠玉のローカルネタ6つを紹介したい。
1.短い信号
あるよね、そういう信号、と思っていたら渡っている途中で点滅しだした。本当に短い。
2.分からない進学校
本当だ。誇らしげに書いてあるが分からない。月餅さんも就職を機に戸塚に住みだしたので地域の学校には馴染みがないそうだ。もちろん実際に、誇り高い進学校だ。ちょっと調べたら分かる。
3.古い病院
4.与太郎の好きな消防署
与太郎、嗜好が少年っぽくてかわいい。
5.与太郎が嫌いだけど好きな動物病院
授業は嫌いだけど友達がいるから学校は好き、みたいなことか。与太郎のキャラクターが分かってきた。
6.アルバイト募集
どの店でなんのバイトを募集しているのか分からない。あんな風に看板みたいにしちゃったらバイトが見つかったあとどうするんだろう。そういう名前のお店なのかな。
ださセーヌ川
こんな風に小さな話を聞いていたら柏尾川の沿道に出た。
いつもここで友達と会って遊ぶのだそうだ。足取りがウキウキしていて、感情がこんなに分かりやすいのかと感心した。
地元ツアーのためにいつもより早い時間に散歩をしてもらっているから、友達とは会えなかった。ごめんよ。
与太郎はめげずに色んな草むらに顔を突っ込んで匂いを嗅いでいた。
沿道は、ギターを弾く人、ラジコンで遊ぶ人、ダンスを練習する人、お酒を飲む人などが間隔を空けて思い思いに楽しそうにしていてとても雰囲気が良かった。ヤギを散歩させる人もいるらしい。
月餅さんがこの様子を「ださセーヌ川ですよね」と言った。
セーヌ川はフランスの河川で観光名所である。柏尾川の様子を見て別にダサいところなんか何もないのだけど、セーヌ川の優雅で楽しげな雰囲気とは通じている気がするし何よりインパクトがすごいので頭に刻み込まれてしまった。「ださ」の部分は地元ならではの謙遜というか、奥ゆかしさである。
そういえば僕が地元を案内した時、土地のうんちくを「いや、分かんない。間違ってるかも」で締めたら「嘘ブラタモリ」と言われた。月餅さん、とっさに強いおもしろワードを作る才能がある。
唇を噛んだ
川沿いを歩いて駅周辺に戻ってきた。
今日も飲む予定でいてくれたのだけど、満席だったので諦めた。唇を噛んで、口の中が血でいっぱいになった(ウソです)。
これも時間がずれたせいだろうか。重ね重ね申し訳ない。川辺を歩いたあとの地元のビールはきっとおいしいんだろうな。この時の僕たちは口から血を流すしかなかった(ウソ)。
駅の改札まで送ってもらって、ここで解散することに。
本当に人懐こくていいやつである。小さくてかわいい。
今日は友達と会えない時間に散歩になっちゃってごめん、元気でな、と念を送って月餅さんと与太郎と別れた。
「ヨットスクール? 駅伝の中継所?」という印象しかなかった戸塚だが、ジェラートとセーヌ川とビールのイメージに上書きされた。
あまりに個人的な思い出だが、地元もてなしツアーってそういうことだろう。
地元の話の良さ
あまりにも細かい話なので本文に入らなかったが「この場所はやけにハトが多い」「ここには前ピアゴ(スーパー)があったんだけど、馴染みのない名前の似たスーパーに変わった」「地元の個性的な飲食店、行く機会がない」「(エレベーターにあった張り紙を見て)緊急連絡先のアドレス、@docomoなんだけど本当に緊急時につながるのか」などの話も聞いた。
初めての土地を一人で散歩して「ここに住んだらどんな人生になるんだろう」と思うことがあるんだけど、人に案内してもらうとその答えがうっすら見える。
何かちょっと違っただけで、僕は柏尾川でたむろしていたかもしれないし、@docomoの緊急連絡先は僕の携帯だったかもしれない。