あまりにもそのままなネーミングの動物、ナマケモノ。
確かにほとんど動かないでじっとしているイメージの動物だが、それはないだろうという名前でもある。
本当にそうなのか、ナマケモノはなまけてるのか。野生はそんなに甘くないだろう。野生ではないが、人気者ひしめく動物園でもそんな自分を貫き通しているのだろうか。
名は体を表すとは言うが、よく考えてみたらナマケモノの実体をよく知らない。そういうわけで、実際に動物園に行って確かめてみました。
※2006年7月に掲載された記事を、AIにより画像を拡大して加筆修正のうえ再掲載しました。
子供の頃とは違った目的で訪れる動物園
ナマケモノを見るためにやってきたのは、東京・上野の上野動物園。子供の頃、パンダを見にやってきた覚えがあるが、今回はナマケモノを見にやってきた。大人になると子供の頃とは違った目的で動物園を訪れるようになるものだと思う。
ナマケモノは本当になまけものなのか。名前に負けずがんばっていてほしい気もするし、思いっきりなまけていてほしい気もする。自分の中でナマケモノにどうあってほしいのかがいまだ決まらない。
ナマケモノの檻にたどりつく前にも、なまけているように見える動物たちは散見された。子供の頃はこうした動物たちを見るとつまらないと思っていた気がするが、大人になった今は違う。よくわからないシンパシーを覚えるのだ。
園内に入りしばらく歩き、ナマケモノがいる檻に到着。だが、どうもその姿が見当たらない。ナマケモノだからなまけることは否定しないが、姿を見せないというのは困る。なまけているかどうか確かめられない。
よく見ると、檻には注意書きが張ってあった。
なるほど、反対側の展示室にいるかもしれないのか。確かにこうした形の展示は他の動物でも見ることがある。だからそれはいいのだが、「すぐ後ろのイチョウの木」とはどういうことなのだろうか。言われるままに振り返ってみる。
檻の外にいるかもしれないというのはずい分大胆な見せ方をしてると思ったが、どうもそこには姿が見られなかった。それにしてもこれはどういうことか。そう思って上を見上げると、謎がわかった。
ナマケモノが普段いる檻の上部に穴が開けられていて、そこを通して檻の外に生えている木との間に綱が渡されているのだ。
面白い展示方法だとは思ったが、ナマケモノは本当にこの綱を渡ってきたりするのだろうか。そんなパフォーマンスを見せるようなイメージを持っていなかったので、かなり疑問に感じる。動物園側はナマケモノの脱なまけを狙っているのかもしれない。
とにかく来訪時には檻にも木にも姿が見当たらなかったので、裏に回って展示室の方を見てみることにした。
そのポテンシャルを見せ始めるナマケモノ
裏に回った展示室、確かにそこにナマケモノはいた。
実にいい感じでなまけていると思う。動物名の展示板がなければ、ナマケモノだとは気づけないくらいのなまけぶり。言われなければ単なるでかい毛玉だ。
見ているとかすかに動いたが、それも実にゆっくりとしたもの。むしろなまけ度はさらにアップしている感じだ。出会い当初からビンビンなまけているナマケモノ、期待を裏切らないなまけぶりで大変うれしい。
さらに見ていると、あくびをするナマケモノ。なまけっぷりを増幅させる行動をしっかりと押さえてくるナマケモノ、いい味出し過ぎという感もある。
親子連れが展示室の前にやってくるも、ナマケモノの側は特にリアクションを見せることもない。親子連れの方も「あ、ナマケモノだ」「ナマケモノだね」といったくらいのドライな会話。言葉にせずとも「仕方ないよな、ナマケモノだし」というムードだ。
そもそもナマケモノは本当にナマケモノなのだろうか。そんな疑問に早くも答えるパネルが展示してあった。
「決して、なまけているのではありませんよ」と締められた解説。そうだったのか…。
いや、本当にそうだろうか。ナマケモノの動きが少ない理由は上の説明でよくわかった。ただ、そういう生態はあるものの、人間と同じように本当になまけているナマケモノがいる可能性もあるのでないだろうか。
何をむきになっているのかわからないが、結論はこの目で確かめたい。
再び毛玉形態になってなまけてるナマケモノ。ナマケモノだからそれでいいのだが、もしもこのままだったらもう書くことがなくなってしまう。どうしよう。
どうかと思っていたのだが、さらに観察しているとナマケモノが動き出した。もぞもぞとその場で体を動かすというのではなく、移動を始めたようなのだ。
まだ観察をはじめてそれほどの時間が経ったわけでもないが、思った以上に早く具体的な行動を見せるナマケモノ。綱でつながっている表側の檻へと行ってしまった。正直なところ、意外な展開だ。
「ナマケモノなのに…」という裏切られたような思いを抱きつつ、表側に回ってみる。
そのイメージを払拭しようとするナマケモノ
もうずっと毛玉のままかと思っていたが、予想以上に早く表にやってきたナマケモノ。ロープを伝って出てくると、それまでいなかったギャラリーたちが急に集まってきた。
「おお、ナマケモノが歩いてる!」「ナマケモノなのに動いてる!」と声を上げるギャラリーのみなさん。怠け者だというイメージがあると、ちょっとのことでも感心される。こうした手法は自分も日常生活の中でぜひ取り入れていきたい。
そのあとも、ゆっくりした動きながらしっかりと進んでいくナマケモノ。そう、この綱の先には外の木へとつながる穴が空いているのだ。
おお、こんなにたすやくナマケモノの移動シーンが見られるとは。本音のところ、こんな穴が空いていてもそこをナマケモノが通るのは相当レアなことだろうなと思っていたので、かなり意表を突かれた感じだ。
ちっともなまけてないじゃん。
観察を始めて25分ほどだろうか、すっかりナマケモノはパフォーマーだ。話が違うじゃないか。いや、別に話を聞いていたわけではないが、なんだか釈然としない。
檻のそばにいた人たちも木の上の様子に釘付け。こんなに人気者になってしまうとは。そのなまけっぷりも期待してきた者としては、ちょっとさびしいような気持ちにもなる。
しばらくの間、木にたたずむと再び檻へと戻っていくナマケモノ。どうも落ち着きがないやつだなあ。全然なまけものという感じがしない。これでいいのだろうか。
脚だけで綱にぶら下がって食事をする様子も見せる。なんだこの余裕は。動物園という環境で、自分を魅せる喜びを知ってしまったのか。
このあともまた奥の展示室に戻ったり、やっぱり再び表に出てきたりと、期待を次々と裏切る動きっぷり。きみがこんなにアクティブな奴だとは思っていなかったよ。もうきみとは友達になれそうにない。
1時間ほど出たり入ったりを繰り返し、12時過ぎには奥の展示室に戻ってきたナマケモノ。角度の関係でなかなか顔を正面からとらえることができなかったのだが、たまたま顔を檻の外側に向けた瞬間を撮った1枚。
流行りの言葉で言うと、ブサカワイイという感じだろうか。一発でかわいいという風ではないが、目を離したくない気持ちにはさせられると思う。
なんだかんだとそれほどじっとしているわけでもなく、とても怠け者という感じではないナマケモノ。その名前から、なまけてると勝手に思い込んでいて申し訳なかったという気持ちにもなってくる。
そして感じるのは一抹のさびしさ。シンパシーを感じていた行く先を失ってしまったような観察でもあった。
アグレッシブなきみに気持ちうらはら
裏切られたのか安心したのかよくわからないナマケモノ観察。名は体を表すというけれども、まあそれほど徹底してない、という半端な検証結果だろうか。
ちなみに写真は動かないことで最近注目されている鳥・ハシビロコウ。こちらがいるのはナマケモノの檻のすぐ裏。
観察してみると、こちらもそれなりに動いていたので少し残念な気持ちになったりもする。これに懲りず、今後も本気で動かない動物たちの情報があったら注目してみたいと思う。