イギリス、党首選が向かうところ:保守党にいながら水と油といってもよい争い

アゴラ 言論プラットフォーム

ジョンソン首相の辞任に伴う英国の党首選が注目されます。ジョンソン氏のような色濃い候補者がいない中で党首の絞り込み投票が5回行われ、決選投票はの対決となります。決選投票は党員によるオンラインと郵便投票が8月から始まり9月2日に締め切り、9月5日に公表される予定です。

リズ・トラス氏(向かって左)とリシ・スナーク氏 両氏SNSより

さて、この二人、同じ保守党にいながら全く違う性格、水と油といってもよい争いに対して党員はどう判断するのか、そして保守党以外の国民はそれをどう見るのか、政治の向かうところを具現化するようで夏休みの課題としては最高ではないかと思います。

まず、絞り込み投票で5回全部を1位で通過したスナーク氏です。インド系英国人でゴールドマンサックスから政治家に転向、一見する限り頭は非常に切れそうです。日本の方がインド人をお見掛けするのはインド料理屋ぐらいだと思いますが、孫正義氏がインド人を重用するようにいわゆるインドエリート層は別次元のレベルにあります。バンクーバーはインド人の北米最大級のメッカですのでビジネスなどで接することも多いのですが、物事をはっきり言うタイプで極めて論理的、ポピュリズムは二の次という感じです。IT技術者にインド人が多いのも論理思考の構築ができるためで逆に言えば冷たい感じを受けるかもしれません。

氏は物価高を受けて世論が減税を望む中、供給側に原因があるインフレ下に於いて減税などすれば余計需要を喚起し、物価高を助長する」と明言、減税は物価高が収まったらやるとしました。これは上述したように極めて論理的であり、非ポピュリズムであります。が、私もこれは正しいと思います。

ただ、問題は対中国政策で何が何でも「アンチ中国」ではなく「価値や利益が保護されている分野では中国と関わるべきだ」(産経)とある点が引っかかります。つまりジョンソン首相が築いた強硬な中国政策を見直し、部分的に緩めにして取引をするというスタンスです。当然ながらこれはアメリカの反発が出ます。

事実、オーストラリアも先般の政権交代を受けて、それまでの対中国強硬姿勢から親中に偏るのではないか、と懸念されていましたが、実際に急速な貿易拡大が足元で見られます。オーストラリアから中国への資源輸出です。ということはクワッドがインドの自己中心主義でその団結力に疑問符がついていたところに「オーストラリアよ、お前もか」という感じではあります。英国が対中政策の変更をするのか、ここが最大の注目ポイントだと思います。

では対抗馬のトラス氏はどうでしょうか?外務大臣である氏の最大の特徴はジョンソン首相の政治的思想をほぼ引き継いでいる点です。一部には「新たな鉄の女」(インディペンデント紙)との声もあるそうですが、私が見る限り、首相の器ではないとみています。サッチャー女史にならぶような箔付けをインディペンダント紙がするようならば同紙のクオリティもタブロイド並みではないかと勘繰ってしまいます。要は単なる頑固でジョンソン首相の前任のメイ氏と同じタイプでしょう。

政策についてもポピュリズム一徹です。「減税はすぐやる」「法人税引き上げ計画は撤回」「4月に導入した国民健康保険料引き上げ停止」など経済の本質を十分に理解していない可能性が高いとみています。多分ですが、彼女の手腕では英国をまとめることはできないでしょう。

一方、日本の立場からすればトラス氏の方が都合はいいはずです。厳しい外交路線を貫き、TPP加盟申請に尽力しており、中国との距離もきちんと保つタイプです。

こう見ると私はスナーク氏こそがマーガレットサッチャー女史と同じ系統のタイプで彼こそ「鉄の男」だとみています。つまり一般受けは悪いというのが世間相場です。実際、下馬評でもトラス氏の方が現時点では有利と出ています。

お前はどっちが良いのか、と言われれば正直、強烈な一長一短で何とも判断しがたいところです。外交と英国保守党の体面を考えればトラス氏、英国を再生させるぐらいのビジョンを期待するならスナーク氏ですが、どちらの首相になっても野党の思うつぼだとみています。つまり、保守党政権そのものが維持できなくなるかもしれません。保守党が野党に下野することをそろそろオプションとして取り込んでおかねばならないかもしれません。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2022年7月25日の記事より転載させていただきました。

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