絞り込み、専業化するビジネス

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少し前の日経ですが「GM変えた『見切る』経営 バーラ氏、5年で販売台数4割減 EV専業で規模より利益」とあります。記事は「カーギャル」のバーラCEOが進めるシンプル経営で巨漢GMが車の販売台数から利益追求型に変わり、2035年にはEV専業を目指し、着実に歩を進めているという内容です。

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バーラ氏がGMの中で花開いたのが「人事部にいた09年、10ページに及ぶ服装規則を『適切な服装を心がける』との一文に変えた」という「見切りの良さ」でそれが当時のCEOの目に留まったとあります。「稼働率が7割を切った工場を残せない」と厳しい労使間交渉やストライキもあったもののファクトリーゼロというEV専業工場の立ち上げに着実に歩を進めた粘り強さが見て取れます。

なぜ今、シンプルさを求めるのでしょうか?

思うに最近のビジネスが非常に複雑で手間がかかるようになったことはあると思います。許可などのプロセス、技術的プロセス、コンプライアンス、社会的意義、環境適合、部門間調整、商品やサービスの理解、法務などかつてに比べてそのステップは何倍にもなった気がします。

CBC(カナダ放送協会)の記事に「オンタリオ州の住宅計画発表」とあるのですが、中身は遅延している許認可プロセスを早めることで需要に追い付かない供給ペースを上げることを主眼としています。許認可プロセスの遅延はカナダ全土で起きていますが、その理由は在宅勤務と許認可のタイムラインが設定されていないため、担当者がじっくりという名の「ゆっくり」作業をしているためです。その為、微に入り細に入りのチェックで全くプロセスが進まないのです。

同様なのがカナダ移民局です。現在処理中の申請数は150万件で就労ビザの更新も4カ月以上かかる状況で職種によっては極めて大きな問題になっています。なぜ、時間がかかるのか、といえばプロセスが複雑になり、在宅勤務が主流になっていることで効率性が下がっていることもあげられます。

私どもが大家をしている商業スペースではテナントが現在、工事を進めているのですが、この手の工事も今まで何度もやってきたはずなのに今回、特段に手間がかかっているのは数年前と比べ、明らかにルールや求められるスタンダードが変わったことがあります。おまけに工事業者とテナントが最新の知識や経験が欠落していることで、私も直接的に介入しています。役所の部分ごとの検査も4回ぐらいあります。これほど面倒なことは今までなかったのです。

私もいろいろなビジネスをやってきて積み上げた経験があるため、社長ながらもプレーイングマネージャーとしてマルチタスクをかなりこなしてきましたが、最近、ちょっと息切れがするのです。例えばデスクワークでもかつては一つの仕事を2-3時間やって次の仕事に移る、という流れだったのですが、これがだんだん短くなり、今ではほぼ同時に2-3つのことを2-30分でやらざるを得ないのです。メールやテキストはまるでストリーミングのようにどんどん入ってくる中で取捨選択をします。メールのやりとりも早いペースのものは電話の会話と同じぐらいの感じでやり取りが進みます。

さすが、これを一日10時間ぐらいやるとエネルギーが切れます。昔は12時間勤務が普通だったのですが、このところはそこまで集中できなくなっています。つまり、私もGMのように「見切って」シンプルにするべきかもしれません。

それでもビジネスに関してはGM同様、私なりにスクラップアンドビルトをやってきたつもりです。ダメなビジネスは見切りをつけるのです。例えば手間暇の割に利益がでなかったカフェやレンタカービジネスは売却しましたし、駐車場管理業務も自社所有の管理に集中し、他社の請負管理業務からは撤退しました。

ビジネスを成長させるとは何か、私が確信していることは売り上げ至上主義ではないという点です。つまり、利益重視。日本ではいまだに「お宅の売り上げはどれぐらいありますか?」「10億円?、中小だね」という会話が主流だと思います。あるいは従業員100人じゃ零細企業と言われるかもしれません。その尺度はもう古いと思います。私は利益がベース。そして唯一売り上げを見るのは従業員一人当たりの売上です。自社の得意とする分野に特化し、しっかり稼ぐ、そのために現代の複雑化した社会を解きほどき、自分ができる範囲に留める、という考え方は私のような零細事業主から大企業まで同じなのだろうと思います。

東芝問題も結局、何の会社だかわからなくなっているのが問題の本質の一つだし、この10年以上パッとしないパナソニックも持てる力のベクトルが分散しているように思えます。私は北米で株式投資をしていますが、伸びる企業は専業メーカーが多く、しっかり稼ぎ、しっかりその分野に投資を重ね、絶対的なポジションを築いているというのが私の認識です。

今後経営は、絞り込み、そしてより得意分野への注力が求められる時代となりそうです。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2022年4月12日の記事より転載させていただきました。

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