2022年7月4日、NECプラットフォームズがWi-Fi 6E対応機の登場を予告するティザーサイトを公開するなど、いよいよ解禁が間近に迫ってきたWi-Fi 6E。
今回は、そんなWi-Fi 6Eをおさらいするとともに、対応Wi-Fiルーターの登場予測や自分の端末でWi-Fi 6Eが使えるかどうかをチェックする方法を紹介する。
Wi-Fi 6Eとは
Wi-Fi 6Eは、これまでのWi-Fi 6の使用可能な周波数帯域を拡張した新たな規格だ。通信に関わる基本的な仕様はそのままに、従来の2.4GHz帯、5GHz帯に加え、新たに5925~6425MHzの500MHz分が利用可能になる。
現状のWi-Fi 6の仕様では、5GHz帯を利用で以下のような帯域で合計20のチャネルを利用可能だった。
- W52 5150~5250MHz 36ch~48ch
- W53 5250~5335MHz 52ch~64ch
- W56 5470~5730MHz 100ch~144ch
各チャネルはそれぞれ20MHz幅で、これを複数組み合わせることで高速な通信を実現している。
例えば、現状のWi-Fi 6対応PCやスマートフォンでは、最大で1201Mbpsもしくは2402Mbpsでの通信に対応しているが、これは1201Mbpsで4ch分(80MHz幅)、2402Mbpsで8ch分(160MHz幅)を利用する(速度はいずれも2ストリームMIMO時)。
このため、現状の帯域では、2402Mbpsの160MHz幅を利用しようとすると、W52+W53の8ch全て、もしくはW56から8chを確保することになり、帯域全体で重複しないチャネルを2系統分しか確保できない(重複すると干渉によって速度が低下する)。
これに対して、Wi-Fi 6Eでは新たに6GHz帯が利用可能になる。6GHz帯は米国では5925~7125MHzまでが確保されているが、日本では5925~6425GHzまでの500MHz分が解放される予定となっており、160MHz幅で利用する場合でも、新たに3系統分重複しないチャネルを確保できるようになる。
重複しないチャネルを3系統分確保、という点をもう少し具体的に説明しよう。今までは隣接する左右2つの家庭それぞれで、60MHz幅の帯域がすでに使われているとチャネルの重複を避けられなかった。しかし、Wi-Fi 6Eになれば、左右に加え前後、つまり近隣で4つの帯域がすでに使用済みになっていても、もう1つ自分用に重複しない帯域を確保できることになるのだ。
どのメーカーが参入してくるか?
Wi-Fi 6E対応ルーターの発売を予告している国内メーカーは、本稿執筆時点では冒頭でも触れたNECプラットフォームズのみだが、米国ではすでに製品が発売済みだ。グローバルに製品を展開するメーカーは、技適を取得次第、こうした製品を日本市場へ投入することが予想される。
米国のAmazon.comでざっと検索した限りでは、以下のような製品が存在する。TP-Linkは、6月開催のInterop Tokyo 2020に「Deco XE75」を参考出品しているので、これらが日本でも発売される可能性は高いだろう。
メーカー | 型番 | 実売価格(ドル) | Wi-Fi速度 | WAN | LAN |
NETGEAR | RAXE500 | 596.4ドル | 4804+4804+1148Mbps | 2.5Gbps×1 | 1Gbps×5 |
Orbi RBKE963(3台) | 1499.99ドル | 4800+2400+2400+1200Mbps | 10Gbps×1 | 2.5Gbps×1、1Gbps×3 | |
ASUS | ZenWiFi ET8(2台) | 529.99ドル | 4804+1201+574Mbps | 2.5Gbps×1 | 1Gbps×3 |
ZenWiFi Pro ET12(1台) | 479.99ドル | 4804+4804+1148Mbps | 2.5Gbps×1 | 2.5Gbps×1、1Gbps×2 | |
GT-AXE11000 | 499.99ドル | 4804+4804+1148Mbps | 2.5Gbps×1(LAN設定可)、1Gbps×1 | 1Gbps×4 | |
TP-Link | Deco XE75(2台) | 299.99ドル | 2402+2402+574Mbps | 1Gbps×1(LAN設定可) | 1Gbps×2 |
Archer AXE75 | 1299香港ドル≒22526円 | 2402+2402+574Mbps | 1Gbps×1 | 1Gbps×4 | |
Linksys | MR7500 Hydra Pro | 349.99ドル | 4800+1200+600Mbps | 5Gbps×1 | 1Gbps×4 |
なお、いずれの製品もトライバンド対応となっているのが特徴だ。詳しくは後述するが、Wi-Fi 6E対応スマートフォンやPCの数は、まだ市場に少ないため、現実的な運用を考えると、既存の2.4GHz帯と5GHz帯を併用せざるを得ない。このため、2.4GHz+5GHz+6GHzというトライバンド対応の構成を取らざるを得えず、価格も若干高くなりがちだ。
上記のリストでは、TP-LinkのArcher AXE75について、香港での実売価格しか調査できなかったが、日本円換算でも2万円前後となっており、2402+2402+574Mbpsで有線1Gbpsクラスとなる普及モデルは、日本国内でも2万円前後が主流になるのではないだろうか。
スマートフォンやPCの対応は?
もちろん、Wi-Fi 6Eルーターだけを導入しても、スマートフォンやPCなどがWi-Fi 6Eに対応していなければ、あまり意味がない。
ただし、現状でWi-Fi 6Eへの対応がうたわれている国内発売のスマートフォンは、以下のように一部のモデルだけだ。残念ながら国内で高いシェアを持つiPhoneシリーズは、Wi-Fi 6Eにはまだ対応していない。
メーカー | 機種 | 実売価格 |
Pixel6 | 9万9800円 | |
Pixel6 Pro | 6万9800円 | |
Pixel6a | 5万3900円 | |
Samsung | Galaxy S21 Ultra | 12万1245円 |
Galaxy S22 Ultra | 17万8820円 | |
Galaxy S22 | 12万5030円 | |
Motorola | edge 30 pro | 7万9800円 |
edge 20 | 5万4800円 | |
REDMAGIC | 7 | 10万6260円 |
一方、PCに関しては、機種が膨大な上にカスタマイズ可能な製品も多い上に組み合わせも複雑なので、対応の可否は各製品のスペックごとに確認する必要がある。
しかしながら、この夏に発表された製品から対応が一気に進みつつある。第12世代Intel CPU搭載モデルに関しては、ミドルレンジ以上でIntel Wi-Fi 6E AX211を搭載する対応製品が数多く存在する。例えば、2022年モデルの「VAIO SX12」、「VAIO SX14」などが該当する。
また、最近増えてきたAMD Ryzenプラットフォーム採用のノートPCでも、AMDがMediaTekと共同開発したWi-Fi 6E対応モジュールであるRZ608(80MHz幅対応の最大1201Mbps。MT7921)、もしくはRZ616(160MHz幅対応の最大2402Mbps。MT7922)の搭載モデルが増えてきている。例えば、「ThinkPad Z13」、「ThinkBook 13s Gen4(AMD)」などがそうだ。
このため、古いPCはWi-Fi 6Eの拡張されたチャネルを認識できない可能性があるが、最新のPCであれば、かなり使える可能性が高いと言える。
なお、PCにどのモジュールが搭載されているかは、デバイスマネージャーの[ネットワーク]の項目で確認できる。
[*1]……本記事で掲載している無線設備は「技適未取得機器を用いた実験等の特例制度」を利用して申請した上で実験している。換装に利用したIntel AX210モジュールとPC内蔵のアンテナとの組み合わせは、電波法第三章に定める技術基準への適合が確認されておらず、法に定める特別な条件の下でのみ使用が認められている。当該条件に違反して当該無線設備を使用することは、法に定める罰則その他の措置の対象となるので注意して欲しい
また、Intel AX211(特定CPUとのセット向け)/Intel AX210(汎用モジュール)に関しては、右のようにプロパティを表示することで、6GHz帯の対応を確認できる。
ただし、前述したVAIOに関しては、ウェブページに掲載されているスペック表に「Wi-Fi 6Eの6GHz帯を使用するには、総務省による6GHz帯無線LANの認可後にVAIOから提供するアップデートプログラムを適用する必要があります。」との記載がある。製品によっては、メーカーの指示する方法での対応が必要なケースもありそうだ。
「ガラガラに空いている」6GHzをバックホールに
では、Wi-Fi 6E対応のPCやスマートフォンを持っていない場合、Wi-Fi 6E対応ルーターを購入してもメリットがないかというと、決してそんなことはない。なぜなら、中継やメッシュのバックホールなどに、現状「ガラガラに空いている」6GHz帯を使える可能性が高いからだ。
今でもトライバンド対応のメッシュルーターは、アクセスポイント間をつなぐ基幹のバックホール接続に、5GHz帯の中でも比較的空いているW56を利用することがあるが、Wi-Fi 6E対応機なら、このバックホールとして、さらに空いている、というか周囲でほぼ使われていない6GHz帯を利用できる。
これは、例えるなら、開通したばかりでほかの車がほとんど走っていない高速道路を走るようなものだ。渋滞とは無縁のバックホールを堪能できる。
このため、Wi-Fi 6E対応機を複数組み合わせたメッシュであれば、かなり快適な無線環境を構築できることが予想できる。
基本的に2.4GHz+5GHz+6GHzのトライバンド対応なので、クライアント接続は既存の2.4GHzまたは5GHz帯とバックホールと帯域を完全に分けて運用できるメリットも大きい(クライアントと共有すると通信時にバックホールの速度が低下する)。
もちろん、これら各メーカーから製品が登場するので、その中身を見てから購入を判断したいところだが、6GHz帯の追加とトライバンドの一般化というのは、Wi-Fiルーターの歴史の中では、なかなかインパクトが大きい進化と言えそうだ。