ライブイベントが完全復活しつつあるなか、eスポーツ企業勢はますます、競技よりもイベントプログラムの拡大に力を入れている。その目的は、変わりゆくeスポーツオーディエンスにリーチするとともに、eスポーツへの投資により明確なROI(投資利益率)を求めるようになったブランドパートナーらに、ゲーミングファンダム(ファン集団)の価値を教育することにある。
こうした変化はeスポーツコミュニティの人口動態の変化を反映している。コロナ禍以前、eスポーツは地下に生息するオタクの世界と見なされ、スーツを着たビジネスマンのものではないと思われていた。だがこの数年で、ゲーミングおよびeスポーツは文化的変容を遂げており、ゲーマーとブランド勢はいずれも、ポピュラーカルチャーの柱の1本にまで成長したその存在感をはっきりと認識している。人々がeスポーツイベントに参加する理由はいまや、競技のスリル感だけではない。ネットワーク作りもその目的となっている。
ライブイベントの意義
「過去に参加したのとまったく同じ参加者を確保するという狙いは薄れた一方で、イベント体験のリフレッシュが重要になりつつある。今年だけでなく、将来も来ようと思ってくれる参加者に心から満足してもらうためだ」と話すのは、毎年夏にラスベガスで開催される、格闘ゲームトーナメント、エボリューション・チャンピオンシップ・シリーズ(Evolution Championship Series)のジェネラルマネージャー、ザハドゥことリック・サイハー氏だ。
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たとえば、2022年6月第4週末、五大湖地方のゲーマーたちはライブ対面型ゲーミングイベント、インモータルズ・インベイジョン(Immortals Invasion)に集結するべく、デトロイトに向かう。eスポーツ団体インモータルズ(Immortals)が主催するこのイベントでは、eスポーツ業界に向けたパネルディスカッションや業界での就職を希望する人材を対象とした履歴書レビューが開かれるとともに、気楽なゲーミング体験や地元レストランによる食事も供される。ただし、主催者はeスポーツ団体だが、トーナメント方式の大会ではない。また、インモータルズにはこうしたイベントを収益源にするつもりもないという。
「皆でその場に顔を出し、社としての約束を果たすこと、それがこのイベントの主な意義だ」と、インモータルズのCEOジョーダン・シャーマン氏は話す。「五大湖地方のゲーミングのレベルを上げると、我々は半年前に宣言した。つまり、こうしたイベントはその約束を果たすためのものであり、さまざまな弊社部門にとっての補完的なものと捉えている。急速な拡大とも、まったく新たな戦略とも考えていない」。
秘めた可能性を示す絶好の機会
eスポーツ業界がコロナ禍から復活するなか、4月に開催されたミネソタ・ロッカー(Minnesota ROKKR)のコール・オブ・デューティ・リーグ・メジャーII(Call of Duty League Major II)といったライブイベントは、自らの継続的成長をブランドパートナーらに誇示したいeスポーツ団体勢にとって、自信の源となっている。CDL(コール・オブ・デューティ・リーグ)イベントのチケットは、全日分が数週間前に完売した。会場には各種景品やゲーミングステーションをはじめ、さまざまなものが用意され、同チームのブランドパートナー勢にとっても、出席者と繋がるための充実した機会となった。
「我々にとって極めて重要だったひとつが、このイベントでアクティベートしたパートナーだけでなく、今後一緒に仕事をしたいと考えているブランドの代表者らも迎え入れられたことだ」と、ミネソタ・ロッカーおよびその親会社ヴァージョン1(Version1)のCOOブレット・ダイアモンド氏は話す。
「さまざまなブランド、エージェンシー、スポーツメディア、エンターテイメント業界から100人を超すVIPゲストを迎えられた。eスポーツという世界では、ほぼ毎日のように何かが起きており、我々のような団体にとっては、教育するべきことが山ほどある。だからこそ、こうした大規模イベントの開催は、我々eスポーツ団体にとって、この業界がどんな所であり、どんな可能性を秘めているのかをはっきりと示す絶好の機会にほかならない」。
ゲーム業界人のためのイベント
事実、eスポーツイベントは依然競技を中心としてはいるが、ゲーム業界人のためのイベントにもなりつつある。つまり、リモートが中心の業界で働く人々が一堂に会し、対面で懇談できる得がたい機会だ。こうしたイベントはすでに、インモータルズのリジュームレビューやCDLイベントにおけるブランドへの教育的役割に留まらないものになりつつある。
2022年のエボリューション・チャンピオンシップ・シリーズの開催期間は、トーナメント戦自体と併せて開かれるゲーミングおよびeスポーツ業界の巨大見本市とを区分するため、かなりの長期間にわたる。競技と見本市というまったく異なる体験を混合することで、いずれの側にも有益な環境を創出できると、主催者側は確信している。
「最高のコンベンションに、最高の見本市に、最高のトーナメントに、あるいは我々の提供するこの経験を人類史上最高の競技環境に必要なものにぴたりと合致させるためには、必ずしもコンベンション規模のショーである必要はない」とサイハー氏。「ただ、それもまたよし、とも思っている。たとえば、雪の降りしきるなか、ウィスコンシン州グリーンベイのランボー・フィールドで試合をするのは、アメリカンフットボールする上で最適な環境とは言えないが、NFLでは最も愛されているフットボール体験のひとつにほかならない」。
すべての選択肢はいまだ検討中
従来のスポーツでは、チケット販売が主な収益源のひとつだったが、その成功方程式は、オーディエンスの大半が自宅という居心地の良い場所でのプレイおよび観戦に慣れているeスポーツ業界では、いまだ証明されていない。いまのところ、ライブeスポーツイベントはあくまで、eスポーツ団体が――なかでもとりわけインモータルズやミネソタ・ロッカーといった地方に拠点を置く団体が――オーディエンスの忠誠心を強化し、そうしたオーディエンスとブランドパートナーとを繋げるために有効活用できる場、という意味合いが強い。
「大勢のファンが飽きずに観ていられるゲームプレイには限りがあり、競技には休憩時間もある。だからこそ、彼らはこれをファンがより没入できる、イマーシブな体験にする方法を模索している」と、ペプシコ(PepsiCo)のeスポーツおよびゲーミング部門トップ、ポール・マスカリ氏は話す。「そして実際、ブランドはそこで重要な役割を担っている。数々のブランドアクティベーションおよびブースを設けられるし、eスポーツイベントに博覧会的感覚を加えられる」。
もっとも、戦略にこうした変更が生じているとはいえ、多くのeスポーツ団体は依然、自身が主催するイベントを最終的には、シームレスに収益を生むプロダクトに変えたいと考えている。業界が真の収益性および安定性への道を探り続けるなか、すべての選択肢はいまだ検討中の状態にある。
「チケットを販売し、それを巨大な収益源にもできるのだろうが、我々はいま現在、まだその段階にはない」とシャーマン氏。「それは長期的な目標だ」。
[原文:Why esports companies are looking beyond competition as they invest more in live events]
Alexander Lee(翻訳:SI Japan、編集:黒田千聖)