無駄な出費といわれても、各社が カンヌ に参加した理由:「懐疑的な見方もあるが、いつもメリットがあった」

DIGIDAY

コロナ禍による2年の空白期間を経て6月20~24日、ふたたび対面での開催となったカンヌライオンズ国際クリエイティビティフェスティバル(Cannes Lions International Festival of Creativity 2022、以下カンヌライオンズ)。最大級の広告祭としての存在意義の維持に疑問を呈する者も多いなか、会場では契約成立の発表や販促活動がさかんにおこなわれ、一部の関係者には価値あるイベントとみなされているようだ。

「カンヌライオンズに皆が参加する理由は、人との交流だけではない」と語るのは、共同創業者として代理店のSS+Kを立ち上げ、現在はエムアンドシー・サーチ(M&C Saatchi)の共同会長を務めるレニー・スターン氏だ。「業界人は、仕事モードに入るためにここへ集まる。カンヌライオンズは、行動の起点となる場だ」。

俳優で映画プロデューサーとしても活躍するライアン・レイノルズ氏は6月22日、新たなNPOの設立を発表した。デロイト・トゥシュ・トーマツ(Deloitte Touche Tohmatsu、以下デロイト)からの寄付を得て創設されたクリエイティブ・ラダー(The Creative Ladder)と称するこのNPOを通じて、クリエイティブマーケティングにおけるキャリア形成の促進をめざすという。また、ソーシャルコマースとライブショッピングの急成長を受けて、Twitterは同日、Shopifyとの提携によりオンラインストア向け機能を強化すると発表した。

重大なニュース発表の場として

カンヌライオンズでは開幕以来、この種のニュースが相次いで業界を沸かせた。まずはディレクTVアドバタイジング(DirecTV Advertising)がアドレッサブル広告とストリーミング広告の販売を円滑化すべく、米Yahooと提携するという発表があった。6月20日付のニュースリリースは、契約締結により「Yahooは、ディレクTVアドバタイジングのアドレッサブルTV広告在庫買いつけ・配信を扱う、オムニチャネルの独占的デマンドサイドプラットフォームに指名された」としている(この提携が成立しても、広告の買い手側の不満がすべて解消するわけではない。メディアバイヤーらは今年の先行販売市場において、メディアパートナーごとに異なる代替カレンシー[測定値]にともなう煩雑さに手を焼いている。ただしそれは、また別の課題だ)。

フェスティバル期間中、もっとも注目を集めたのはオム二コム(Omnicom Media Group)で、販売データをTV広告投資に活かす目的で、買物代行サービスのインスタカート(Instacart)とのデータ連携に合意したことを明らかにした。さらにオム二コムは、ウォルマート(Walmart)のデジタル広告部門ウォルマート・コネクト(Walmart Connect)、およびeコマース最大手のAmazonとの提携を矢継ぎ早に発表した。

コロナ禍の長期化と景気減速の見通しの影響で、今回のフェスティバルはこれまでに比べ参加企業が減ると予想されていた。最終的にどうなるかはわからないが、カンヌライオンズを運営する英アセンシャル(Ascential Plc)は、2022年の来場者数と参加団体数を公表しないだろう。ちなみに他社が収集したデータによると、2019年に3万953だった広告賞のエントリー作品数は2022年、2万5464に減少した。

「注目を集め、アピールする機会になる」

フェスティバル開催中の街では、コロナ禍がもう過ぎ去ったように見えた。クロワゼット大通りは日中、マスクなしの人々でにぎわっていた。ゆっくり散策中の人もいれば、パワーウォーキングをしている人もいる。炎天下のビーチで長時間過ごすのを避けたのかもしれない。夜になると、スポティファイ・ビーチ(Spotify Beach)のコンサート(ケンドリック・ラマーやドゥア・リパなどの大スターが出演)に多くの聴衆が集まり、立錐の余地もない盛況ぶりだ。インクウェル・ビーチ(Inkwell Beach)でも、ラッパーのナズ(Nas)出演のコンサートが人気で、順番待ちの人々の入場を断らなければならないほどだった。

こういった現象は、カンヌライオンズがいまでも重要な発表の場にふさわしいことを示唆するものだ。過去2年間、バーチャルで数々の発表をおこなってきた広告業界だが、今後は対面形式が選ばれるようになるだろう。

「カンヌライオンズは、スポンサーや協賛企業、出展者、出品者、メディアが一堂に会する祭典だ。人々の注目を集め、自社の存在をアピールする絶好の機会となる」と、SS+Kでエグゼクティブ・クリエイティブディレクターを務めるスティーヴィー・アーチャー氏は語る。

そんななか、フェスティバルのメインステージ上の場所を確保できない企業は、ほかの場所で告知や発表をおこなっても無視されてしまう可能性があると、マーケターたちはいう。業界の主なプレイヤーが多数集結するカンヌライオンズは従来、企業の情報発信の手段として活用されてきた。しかしその一方で、スポンサー提供のノベルティバッグや、ロゼワイン飲み放題のヨット上でのハッピーアワーなど、「費用と手間がかかる無駄なもの」の存在が、自社の活動に耳目を集める機会の妨げとなるという見方もある。

「カンヌライオンズの意義について、多くの企業が懐疑的な見方をしているようだ。しかし、重要なニュースが発表される場としての重みはいつも、我々皆にとってメリットだった」デロイトのCMO、スザンヌ・コウンケル氏はいう。「そうした情報発信は、雑談やパーティのはしごが続くなか、仕事がちゃんと進められていることを示すひとつの方法なのだ」。

騒がしすぎるが、「効率がいい」

一方、ある独立系代理店のCEOによると、カンヌライオンズの環境は、他社との提携の発表や、クライアント関連活動の告知をするには騒がしすぎるのだという。

「ただし、大手の持株会社やテック企業にとっては悪くない環境だといえる。組織内にマーケティング、イベント、PR部門をそなえ、目移りしやすい観客や記者たちの注意を引きつけるだけの力があるからだ」と、CEOは匿名を条件に語った。

CEOは続けて次のように述べた。「とはいえ、人脈づくりや関係構築の点では、カンヌライオンズは効率がいい。会場内の施設はどこも徒歩15分以内でアクセスできる。その場でミーティングを申し込んでも皆、こころよく応じてくれるし、いい天気に恵まれ、ロゼワインを楽しみながら、新たなアイデアや提携の可能性について話し合える。思いがけない発見も多く、本物に出会えるチャンスがある。カンヌライオンズならではの醍醐味だ」。

[原文:Cannes Briefing: Despite its reputation as a boondoggle, marketers and ad execs return to the festival ‘action-oriented,’ ready to wheel-and-deal

Kimeko McCoy(翻訳:SI Japan、編集:分島翔平)

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