人材喪失に直面する エージェンシー 、経営陣は「改善」に取り組む:「常に守るべき自社の強みを理解しようとしている」

DIGIDAY

昨春からエージェンシー業界では人材獲得をめぐる競争が続いており、各社は人材を獲得するだけでなく維持するための雇用特典を提供しようと躍起になっている。

すでに人材が会社間で激しく動いていることに加えて、従業員たちの燃え尽き症候群と堅調な求人市場がそれを加速させた。米DIGIDAYの調査によると、今年の初めにはエージェンシー勤務の従業員の40%近くが、2021年にいわゆる「大離職(the Great Resignation)」で自社が人材を失ったと答えている。人材の損失を止めるために、エージェンシーたちはフレキシブルな職場環境や「サマーフライデー」などの福利厚生を増やした。

「大離職」の流れがアメリカの大手エージェンシーに広まったのは2021年だったが、そのずっと前の2020年7月、ミネアポリスに本拠を置くペリスコープ(Periscope)はその始まりを経験した。現在、同社の社長を務めるキャリー・ブッチ=ハリングス氏は、同社の従業員は当時、「多くの変化と破壊」に動揺し、全員で一斉にオフィスから歩いて出ていく「ウォークアウト」を決行した、と説明する。

ストライキに参加したスタッフは、同社従業員構成におけるダイバーシティの欠如と、親会社クワッド(Quad:2018年にペリスコープを買収したマーケティング・ソリューションプロバイダー)が「Black Lives Matter」運動に関するペリスコープのソーシャルメディア上のコミュニケーションに介入してきたことなどの問題を挙げていることを、アドウィーク(Adweek)は報じている。

独立系エージェンシーのマークUSA(Marc USA)でプレジデントを務めていたブッチ=ハリングス氏は、2020年7月2日のウォークアウトの直後にペリスコープのプレジデントに就任した。彼女は会社を再活性化させ、同社の従業員たちとリーダーシップのあいだの信頼を再構築する任務を負っていた。そのために同氏は、従業員が社に留まる理由と退職の原因について理解を深めるために、現従業員に対する面接を実施した。米DIGIDAYは同氏に取材をし、従業員の人材育成や仕事上の人間関係の修復などについて学んだ。

このインタビューはわかりやすさを考慮し、若干の編集を加えてある。

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−−あなたが就任した時、ペリスコープは激動の時期にあった。その環境に新しいプレジデントとして足を踏み入れるのはどんな感じだったのか?

ペリスコープに参加したとき、私も当時の経営陣も、同社が変化の準備はできていることを知っていた。私たちは大きな変化とさらなる(よい意味での)破壊を覚悟していた。と同時に、従業員全員が恐怖と不安を抱えていた。私たちはそれを冷静に受け止め、チャンスに変えることができた。

これは、私たちが未知の状況に慣れてきているという証だったと感じている。私たちは、これからも自分たちが持つキャパシティを押し広げるつもりだが、その実行には非常に勇気がいる。

−−状況を好転させ、よりまとまりのある職場を作るために使った戦略にはどのようなものがあったか。

私たちには3つの戦略があった。1つ目はしっかりと聞くこと、現状を見つめることを恐れないこと。人を励まし、人の話に真摯に耳を傾けることで、従業員は心を開いてくれる。そして、リーダーとして話を聞いたことに責任を持ち、それについて何か行動を起こし、彼らが話してくれたことに応える。

2つ目は説明責任に立ち返ること。私たちが前進させたいことが何なのかを明確にし、それを体系的に実行して前進させる上で構造的なアプローチをとった。そのなかで、完璧なものは存在せず、間違いは生じるものだと常に認識していた。

3つ目は、ほぼ完全に新しい経営チームを導入したことだ。

−−スタッフが社に留まる理由を探る面接について話してほしい。なぜそれがあなたの仕事に重要なのだろうか。

面接を通じて我が社において何が機能していないのか、何が退職の理由となっていたのか、ほかの社の何がいいのか、を理解するだけでなく、何としてでも守る必要がある我が社の強みは何かを理解することもできる。この点が非常に素晴らしいと感じた。この面接は今後も定期的に実施していく。

−−エージェンシーで緊張を引き起こしていた問題には、どのようなものがあったのか。

問題の多くは、会社が多くの変遷と混乱を経験してきたことと関係している。従業員のなかには、会社が誇りにしていた勇気を失ったと感じた人たちもいた。実際、私の目にも社の文化が、ある種の勇敢さを失っていたように見えた。人々は次にどんなネガティブな出来事が起きるのか心配していた。将来の見通しも不確定に思われた。

加えて買収時にはエージェンシー内に不協和音があり、そのせいで主要なクライアントを失った。その直後にパンデミックが始まり、チームの日常生活から(対面での)つながりと文化が失われたことで、不和感が増してしまった。

−−あなたのチームが導入した変更はどのような変化を起こしたか

社員のエンゲージメントは2桁の伸びを示している(同社の広報担当者によると、従業員の51%が2021年はチームの士気が高いと考えており、2019年から44%増加したという)。そして、私たちが最も重要だと考える指標(企業文化や従業員の士気を示す指標)のいくつかでは、2桁の増加が見られる。

改善が起きていることは自明だ。エージェンシーは再び成長している。(ペリスコープは、2022年初めから新たに5つの新規案件を獲得しており、これによって従業員数を10%増やすことになるという)。私たちは案件を獲得しており、成長し、人材を引き付けている。

[原文:‘Transition and disruption’: How an agency president is fighting talent drain

Kimeko McCoy(翻訳:塚本 紺、編集:黒田千聖)

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