闘牛アンダーグラウンドというコネタを書いたのが去年。実はあれからずっと闘牛を気にしながら生きてきた。というのは言いすぎだけど、ずっと気になっていたというのは事実だ。沖縄の闘牛って地域ではすごい人気なのに、まったく観光スポットにはならない。県民による県民のための娯楽なのだ。そんな闘牛に魅せられた女性がいる。今回はその方と一緒に闘牛にまつわるいくつかの場所を巡りながら闘牛の魅力について再考してきました。
※2006年2月に掲載された記事を、AIにより画像を拡大して加筆修正のうえ再掲載しました。
闘牛大好き内田さん
岡山県出身の内田さんは闘牛にはまることかれこれ4年。好きなものは、と聞かれると沖縄そばと闘牛とローリングストーンズ、と答える女性だ。
趣味で撮り続けている闘牛写真はでかく伸ばされて現在うちの店の壁を飾っている。どれもこれも飛び出してきそうな迫力の写真だ。好きな人でないと絶対にこうは撮れない。
今回、そんな内田さんが県内の闘牛に関するスポットを紹介してくれることになった。予習に、と思い沖縄の闘牛を取り上げたいくつかのHPを見ていたのだけど、どれもこれもかなり濃い感じだった。どこから取り掛かっていいのかすらわからない。大丈夫か。7割不安、3割期待でその日を迎えた。
まずはビデオ屋から
今日は内田さんの運転で県内の闘牛スポットを周る。まず最初のスポットは屋良闘牛ビデオ専門店。沖縄県闘牛組合指定のビデオ店だ。内田さんは以前ここの通販で闘牛ビデオを購入している。
今回持参してくれたのがその時のビデオ、八重山酋長名勝負特集(3500円)。71とナンバリングされているのが恐ろしい。いったい何本のビデオが発売されているのだろう。ちなみに八重山酋長とは内田さんお気に入りの牛のリング名だ。
沖縄の闘牛界は一頭のチャンピオンの座をめぐって激しいタイトルマッチが行われている。内田さんひいきの八重山酋長は元チャンピオン牛で、現在は同じく闘牛の盛んな徳之島にいるらしい。
内田さんは言う。「酋長が負けたとき、私の中でひとつの時代が終わったの。」 その晩、内田さんは泣いたという。牛、愛だ。
ビデオ屋までの道のり、内田さんに闘牛の話を聞かせてもらった。
— 闘牛の魅力ってどんなところですか
「闘牛は本能の戦いなの。八百長は絶対にないし、そういう本気のぶつかり合いがしびれるのよね。」
— 八重山酋長のどんなところに惹かれていたんですか
「誇り高いところかしら。彼は絶対自分がチャンピオンだってことをわかってたわ。負かした牛を執拗に追い回したりしなかった。それに試合が終わると微動だにしないのよ。それはもう、かっこよかったわね。」
僕が去年闘牛を見に行ったときには「あかりパンダ」という牛がチャンピオンだった。そのことを内田さんに話すと
「あかりパンダもね、いい牛だったんだけど実はあの牛、右目が見えないのよ。」
詳しすぎるのだ。
「酋長はね、石垣出身でもともとは八重山闘牛組合ってところ所属だったの。だけど全島チャンピオンにするために本島の牛主のところへ預けられたのよね。」
話からも内田さんの並々ならぬ牛への愛情を感じる。へたな相槌を打つと車から降ろされそうだ。そんなぴりぴりした道中を経て、僕達は屋良闘牛ビデオへ到着した。
聖地巡礼
めざすビデオ店は住宅街の一角にあった。屋良闘牛ビデオ。内田さんは早速カメラを取り出して激写していた。
入り口の廊下にはいたるところに闘牛関係の写真やら新聞の切り抜きなんかが貼られていた。
「そう、これよ、さっき私が言ってた試合。私もこのときここにいたわ。あ、与那国嵐、軽量級の元チャンピオンね。」
完全に内田さんのフィールドだ。
店内の壁には歴代チャンピオン牛の写真が所狭しと飾られていた。
そして店内は壁一面の闘牛ビデオ。さっき内田さんのビデオに71と番号が付いていて驚いていたが、それどころじゃない。番号は余裕で1000を超えてきている。
「ちょっとこれ、すごいわね。じっくり探してもいいかしら。」
内田さんは端から攻め始めた。喜んでもらえて本当によかった。
あるビデオに内田さんの目が留まった。
「これよこれ、私も会場で見てたわよ。」
なんでも歴史に残る大一番だったらしい。探していた映像らしく、内田さんはそのビデオを即買いしていた。彼女くらいになってくるとここの店主とも対等に話ができる。
「**号って**の子孫なんですか。」
「いや**は**号とオーナーが同じってだけで血のつながりはないはずだよ。」
「**号って当時1トンきってた?」
「ええっとね、970キロくらいだったんじゃないかな。」
この分野でカルトQやったら決勝はこの二人だ。
買った
僕もつい興奮して内田さんと店長に薦められたDVDを買ってしまった。過去の名勝負が50戦も入ったやつだ。これはお得。これで勉強して僕もいつか二人の会話に加われるくらいになりたい。
屋良闘牛ビデオ http://www.tougyuu.com/ |
次は闘牛場です
次に訪れたのがここ安慶名(あげな)闘牛場。内田さんいわく安慶名は闘牛好きにとって特別な場所らしい。
「安慶名で酋長が負けたときに私も見てたのよ。」
ここは内田さんと酋長との思い出の地なのだ。
確かに安慶名地区は闘牛の町らしく、歩くと様々なところで闘牛を匂わせるアイテムにぶつかる。
安慶名闘牛場は公園の奥の高台に位置している。リング自体はさほど大きくないのだけど、観客席がスタジアムみたいな土手になっていてかなりの人数を収容できそうだ。
「あれ、きれいになってるわね。ペンキ塗りなおしたのね。」内田さんは牛が入っていくゲートの外装の違いにも気付く。
「安慶名は特別なのよ。」内田さんは繰り返す。
「ほら、リングサイドが土手になってるでしょう。人口のリングじゃなくて自然の土の方が牛達もやりやすいはずよ。」
内田さんの牛への愛情はとどまるところを知らない。
工事の進捗をチェック
次は石川市イベント広場闘牛場。ここは現在工事が行われているのだが、その進捗を見たいという内田さんのリクエストで行ってみることにした。
「しっかり工事やってるわね。これなら来春の全島大会には間に合いそうだわ。」
内田さんは工事の進捗に満足気だった。よかったと思う。
さあ、それではいよいよ牛を見に行こう。
いよいよ牛を見に
すでにいくつかの闘牛スポットを周ってその裾野の広さを実感しつつあるたわけだが、このへんでそろそろ本物の牛が見たくないか。ということで闘う牛の飼われている牛舎を見に行くことにした。実は内田さんも牛舎の場所までははっきりと知らないらしい。牛は一般的な農家で普通に飼われていることが多いのだ。
「だけどだいたいの目星はついてるのよね。」さすが、そうこなくっちゃ。
両側をサトウキビ畑に囲まれた細い道を走っていくと、なにやらコンテナらしき建物が集まった場所があった。明らかに住居ではなさそうに見える。
「このあたり、怪しいわね」
内田さんの牛センサーがぴこぴこいってる。空もおあつらえ向きのドラマチックな曇天だった。
「あ、これ、見て。」内田さんが何かを見つけた。
「これ牛の練習場よ、近くにいるはずだわ。」
真ん中にタイヤの組まれた練習場らしき場所があった。確かに闘牛の練習以外には使い道がなさそうだ。
練習場らしき場所の隣の建物におじゃましてみると、内田さんの読み通り中では闘牛と思われる牛が飼われていた。
ちょうどおじさんがエサとなるサトウキビの若芽をリヤカーで運び入れているところだった。近くで見てもいいよ、との許可を頂いたので牛舎の中へ入ってみることに。牛舎の中はとてもきれいに掃除されている様子だった。
「この牛、闘牛ですか。」
「この牛はまだケンカさせるには早いなあ。来年かその次かな。」
おじさんが言うには闘牛で闘うには7~9歳くらいがピークとされているらしい。
内田さんは若い牛の将来を見極めるかのような鋭い視線で何枚もシャッターを切っていた。
試合を控えた牛もいた
隣の建物にもやはり牛が飼われていた。こちらの牛はなんと次回の大会で戦う予定なのだとか。リング名は湾もも虎(わんももこ)。かなりかっとんだネーミングだが、闘牛界ではさほど驚かない。
それにしても牛は穏やかな表情をしていた。僕は一度会場で見たあの目の血走って手の付けられないくらいに興奮した牛しか知らなかったので、こんなやさしい目で迎えられると逆に戸惑ってしまう。もも虎はうまそうにサトウキビの若芽を食んでいた。
「試合前にはエサをあげないとか、明かりを消して暗闇に置くとかって聞いたんですけど。」内田さんが牛主さんに聞く。
「そうだね、1週間前くらいから食事を減らして体を絞っていくね。だけど暗闇に置くってのは昔のやり方だろうな。今はそんなことしない。」
牛主さんによると、試合前に角を磨かれると牛は戦いが近いことを悟るのだという。この取材の時点で春の闘牛大会まであと1週間、もも虎もこれから戦闘モードに入っていくのだ。
戦いの日がやってきた
そしていよいよ春の闘牛大会当日がやってきた。今回の番付表を見ると、この間牛舎で見た「湾もも虎」の名前もちゃんと載っている。
今回の横綱戦は東昇嵐流vs酋長大力。その他「戦闘大勝龍」とか「闘天」など強そうな名前が並ぶ。だけど中には「ミスターX」だとか「元気くん」なんてのもいる。最下段の牛なんて名前がパンダパンダだ。牛だろ。
当日、会場となる安慶名闘牛場には多くの闘牛好きが集まっていた。年齢層はやっぱり高めだ。内田さんみたいな若い女性はほとんどいない。
そして主役の牛が車に乗ってやってくる。これから闘う牛の目は、心なしか牛舎で見たときよりも鋭さを増しているように見えた。
そしていよいよ牛たちの本気の戦いが始まるわけです。闘牛の様子は以前のコネタ闘牛アンダーグラウンドを参考にしていただきたい。
ビバ闘牛
闘牛は大会を見に行くだけでも十分楽しいのですが、それにまつわる様々な人間模様に注目してみるとさらにその魅力が増すこと間違いなしです。
みなさんもいつか沖縄で闘牛を観るその日のために、今のうちから通販でビデオを買って勉強しておきませんか。角の形とか首周りの肉付きとかで強さがわかるようになってくると内田さんと対等に話ができると思います。