5月上旬、ナイキ(Nike)は再販プラットフォームのストックX(StockX)が偽造スニーカーを販売していると非難、ファッションのリセール分野における最大の争いのひとつとなる二社間の対立は、決着する気配をみせずにさらに深まっている。
ナイキとストックXの確執
5月11日水曜日、40億ドル(約5163億円)近い価値があるリセールプラットフォームのストックXとナイキとの確執は、新たなレベルへとエスカレートした。ナイキは偽造品であることが確認されている4足のシューズをストックXから購入できたと主張、ストックXがナイキのスニーカーの偽物を販売していると公に非難した。
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これはナイキによる反ストックXのレトリックを大きく拡大させたもので、ナイキが2月に提訴し、現在も継続中のストックXに対する訴訟を強化するためなのは明らかだ。ナイキは、自社の商標とロゴを使用したNFTの販売に関してストックXを訴えている。ストックXは1月に、実在のスニーカーの画像を用いたヴォールトNFT(Vault NFT)と呼ばれるNFTを販売し始めたが、その画像の多くがナイキのスニーカーだった。ナイキがストックXから入手できたとする偽造スニーカーのひとつは、エアジョーダン1ハイOG パテント・ブレッド(“Patent Bred” Air Jordan 1 High OG)で、図らずもストックXがヴォールトNFTで販売するスニーカーのひとつだった。
スニーカーのNFTは商標権侵害か、それとも仮想の領収書か
結局のところ、この争いはNFTが実際に何なのかをめぐる議論に帰着する。ナイキの要旨は、ストックXはナイキが商標登録している画像を使って製品を作成し、それを販売しているというものだ。それに対しストックXは、実際に販売しているのは、ストックXの貯蔵所に保管されている本物のスニーカーの所有権を、ユーザー同士で売買できる仮想の領収書にしたものであると主張している。注目すべきは、NFTの保有者が実際に物理的なスニーカーを受け取ることはないという点だ。
このふたつの定義の境界は微妙であり、今回のような件についてはまだほとんど判例がない。ナイキは厳密にはストックXと公式なパートナーシップを結んでいないが、ナイキ製品を購入できるマーケットプレイスであるストックXは、自社広告にナイキを使用することが許されており、実際頻繁に使用している。
しかし、そうした取り決めでさえブランドからは当然ながら不満の声が上がっている。リセラー側は自分たちが販売しているブランドの商標つき画像を広告にも使用することが許されていると、2019年にストリートウェアのデザイナーであるジェフ・ステイプル氏はGlossyに懸念を表明している。それによってブランド側は自社ブランドがどのように表現されるかをコントロールできなくなり、またブランドが何らかの形で公式にリセラーに関与していると消費者に誤解させるおそれもある。
ブランドとリセラーとの間に形成された亀裂
今回の争いは、ほかに3つの理由から興味深いものとなっている。第一に、ストックXや他の再販業者は、製品が本物であることを認証できると堂々と主張することが多い。これはスニーカーや高級ハンドバッグ、あるいはレアなアイテムといったコレクター向けの製品(すべてストックXで販売している)で特に関心が持たれている分野だ。今回ナイキがストックXの真贋判定力を傷つけたことで、ストックXの商品に対する消費者の信頼度が低下する可能性がある。
偽造品についてのナイキの主張に対して、ストックXの反論は特に強烈だった。公式の声明のなかで、偽造だというナイキの申し立てを「我々の革新的なヴォールトNFTプログラムに対する訴訟に負けつつあるため、それを立ち直らせようとパニックになった末の必死の試み」と呼んでいる。
次に、ストックXはあらゆるブランドのスニーカーを販売しているが、同社のバックボーンとなっているのがナイキであることは否定できないという点がある。ナイキは世界でもっとも需要のあるスニーカーブランドであり、ストックXはナイキのスニーカーを再販することで成り立っている。
以前は、ナイキはリセラーが行っていることについてあまり気にしていないようだった。だが現在では、ナイキが独自のNFTと独自のリセールプラットフォームをローンチしたため、ストックXは突然競合相手となってしまった。ストックXのユーザーがストックXのマーケットプレイスでナイキ製品を売買することをナイキは禁止することができないため、今回のような訴訟はナイキが競争を抑制する唯一の選択肢である。
「結局のところブランドは、サードパーティプラットフォームをコントロールすることはできない」と話すのは、ブランドのリコマース企業トローブ(Trove)のCEOアンディ・ルーベン氏だ。「かつての小売の卸売業者の時代には、ベストバイ(Best Buy)がAppleの要求に違反すれば、Appleはベストバイを切り捨てるだけだっただろう。サードパーティのマーケットプレイスにはそのような選択肢ない」。
そして最後に、偽造スニーカーに関するナイキの主張は、過去にシャネル(Chanel)が行った、ザ・リアルリアル(The RealReal)はサイトで販売しているシャネル製品の真贋を保証することはできないという主張と類似している。どちらの主張も、ブランドとリセラーとのあいだに形成された亀裂を暗示している。多くのブランドがリセールという考えを受け入れ始めた一方で、再販を自社でコントロールすることに大きく関心を持つようになってきている。メイドウェル(Madewell)、リーバイス(Levi’s)、パタゴニア(Patagonia)などのブランドは独自の再販プログラムを立ち上げており、ナイキやシャネルのようにサードパーティプラットフォームを攻撃しているブランドはないものの、現在は自社の服の中古販売でそうしたプラットフォームと直接競合する状況に置かれている。
さらに、サードパーティのリセラーはブランドが望むことを行う義務はない、とルーベン氏は述べている。
「究極的にリセラーが必要としているのは、ブランドではなく製品の正当性を立証するそのロゴなのだ」。
[原文:Weekend Briefing: The conflict between Nike and StockX deepens]
DANNY PARISI(翻訳:Maya Kishida 編集:山岸祐加子)