不況の波が、 ストリーミング 市場を「緊縮時代」へ:「コスト高は業界の長期的な持続が難しいレベルになっている」

DIGIDAY

世界経済と同じように、TVおよびストリーミングの番組制作の経済的側面もまた絶えず変化している。この状況下でディストリビューター各社は、制作会社にチャンスと課題を同時に与えながら、コストをうまく管理する方法を模索している。

関係者の話では、NetflixとCNNフィルムズ(CNN Films)は、オリジナル番組の資金調達を制作会社と共同で行うことに意欲的な姿勢を見せており、もしこれが実現すれば、制作会社はこれまで以上に番組に関する権利を手にすることになる。HBOマックス(HBO Max)については、いまのところ契約の締結を保留しているという。3社の広報担当者にこの件に関するコメントを求めたが、残念ながら回答はなかった。

重要なポイント:

  • 番組制作と資金調達にかかるコストの高騰が、ストリーミングサービスのディストリビューターと制作会社に難題を突きつけている。しかし同時に、チャンスの扉も開いている。
  • NetflixとCNNフィルムズはそれぞれ、番組制作の共同資金調達に前向きな姿勢を見せるようになっている。
  • HBOマックスについては、いまのところ契約の締結を保留中。

コストは上昇し、いずれのサービスも資金不足

その一方で、インフレの進行、金利の上昇、サプライチェーンの制約の継続といった広範なマクロ経済のトレンドに伴って制作費は上昇しており、これが番組制作の現場にさらなる歪みを生じさせている。

「厳しい現状だ。制作会社の立場から言わせてもらうと、金利の上昇によって、資金調達コストも上がった。スタッフやロケ地の確保が本当に大変なのは言うまでもないが、それとは別に、とにかく資本コストが上がってしまっている」と、あるエンターテインメント企業の幹部は語る。「制作に3000万~5000万ドル(約40億5400万円~67億5600万円)かかる映画なら、資金調達だけでさらに75万~100万ドル(約1億100万円~1億3500万円)近くのコストがかかる」

ブルームバーグ(Bloomberg)が報じているように、番組制作の現場に生じつつある包括的変化は、「緊縮の時代」への移行を示しているのかもしれない。「資本コストが少しでも上昇し、そして制作会社が年間の支出を抑えようとすると、突然、『プロデューサー、資金調達に手を貸してくれないか?』という話にシフトしてしまう」と、前出のエンターテインメント企業幹部は語る。

「どのストリーミングサービスも競争力を高めたがってはいるが、すぐさま企画を買えるだけの資金を持っていない。いま我々の前に広がっているのは、そんな世界だ」と、2人目のエンターテインメント企業幹部は語る。

「共同資金調達」というチャンス

こうした変化を示す一例が、NetflixとCNNフィルムズが共同資金調達に対して見せるオープンな姿勢だ。どちらのディストリビューターも、以前であれば、オリジナル番組の完全所有権と引き換えに制作費を出すケースがほとんどだった。ところが数カ月間ほど前から、両社はそれぞれ共同資金調達契約に関する話し合いを制作会社と行なっている。この契約が結ばれた場合、制作費はディストリビューターと制作会社のあいだで分けられる。また制作会社は、最終的に世界各地の他のディストリビューターに番組のランセンスを与える権利や、自社のストリーミングプロパティを介して番組を配信する権利など、番組の権利の一部を得ることになる。

「私が聞くかぎりでは、Netflixは創業当時に行っていた交渉の一部、つまり我々との共同資金調達に前向きになってきているということだ。彼らから分け与えられたテリトリーを活用すれば、貢献分を相殺できる」ということのようだと、1人目のエンターテインメント企業幹部は話す。

「いまではCNNも共同資金調達にオープンになっている。半年前なら考えられなかったことだ」と、2人目のエンターテインメント企業幹部は言う。

コストの制約

過去半年のあいだにCNNフィルムズに起きた変化のひとつは、言うまでもなく親会社のワーナーメディア(WarnerMedia)がディスカバリー(Discovery)と経営統合し、新会社ワーナー・ブラザース・ディスカバリー(Warner Bros. Discovery)を設立したこと。そしてそれに続く、同社CEOのデビッド・ザスラブ氏が目標に掲げる30億ドル(約4050億円)の経費削減だ。CNNフィルムズの兄弟会社であるHBOマックスが番組企画のピックアップから一時的に手を引き、コスト管理に取り組んでいる背景にも、こうした事情があるようだ。「HBOマックスはほぼ機能停止の状態だ」と、3人目のエンターテインメント企業幹部は語る。

「HBOマックスに売り込みをかけたところ、向こうの首脳陣も気に入ってはくれたが、彼らの口から出てきた答えは『いまは買えるような状態ではない』だった」と、1人目のエンターテインメント企業幹部は話す。

しかしながら、エンターテインメント市場のこうした変化を、もっと広い意味での不況から完全に切り離して考えるのは無理があるだろう。他のあらゆる業界の企業と同様に、ディストリビューターも、たとえ経済状況がさらに悪化しても、その難局を乗り切れるように資金の管理に取り組んでいる。また、2020年に起きたストリーミングサービスの急増が、すでに市場の飽和とサブスクリプション疲れにつながっているという要因もある。

コンサルティング企業、プロフェット(Prophet)のパートナーであり、ディズニー(Disney)やワーナー・ブラザース、NBCユニバーサル(NBCUniversal)などのコンサルタントを務めるユニス・シン氏は、「要するに、コンテンツ契約への精査の目がよりいっそう強まったということだ」と語っている。

機会費用

さらには、この不況が一因となって、エンターテインメント市場の変化に対する制作会社のさまざまな反応を引き起こしている。長い目で見れば、共同資金調達契約によって、ひとつのプロジェクトから得られる収益を増やせるかもしれない。しかしその一方で、制作会社は番組制作にかかる費用を前もって用意しなければならない。これはつまり、最終的な売上が制作費を埋め合わせ、利益を生み出してくれると信じて、赤字覚悟でプロジェクトの資金を調達するということなのだ。

ストリーミングサービス各社が世界各地で提供するサービスの充実に貢献するような映画やテレビ番組を求め、制作会社が独自のストリーミングプロパティを立ち上げているなかで、ライセンスビジネスのチャンスの扉は開かれている。この状況下でも長期的な収益に目を向けて、短期的なコストを進んで引き受ける制作会社もある。その一方で、ひとつの番組が何シーズンにもわたってTV放送され、それが国内外で交わされるいくつものシンジケーション契約へとつながり得たかつての時代のような、長期的な収益が保証されていない場合、そこで生じる赤字を警戒する制作会社もある。

「いまは、運よくひとつの番組が当たれば、それが半永久的にその他全部の資金源になってくれるような状況ではない。再びそうなるかどうかも疑わしい。ある意味、大量取引の時代になってしまった」と、4人目のエンターテインメント企業幹部は語る。

もうひとつの懸念は、制作費の高騰だ。ザ・ハリウッド・レポーター(The Hollywood Reporter)が報じているように、コロナ禍以降に導入された関連コストに加えて、インフレの進行や金利の上昇、サプライチェーンの不足が、セット素材などの価格を押し上げ、制作費の高騰を招いているのだ。

「制作費の上がり方は常軌を逸している」と、2人目のエンターテインメント企業幹部は語る。「優れた撮影監督を雇おうと思ったら、5年前の2~3倍の金がかかる。その理由のひとつは、この業界において非常に大きな需要があったことだ。素晴らしいことだし、よりいっそう繁栄してほしいとも思う。しかし、制作費の高騰は長期的な持続が難しいところに達していまっていると、私は考えている」

[原文:Future of TV Briefing: How the economic downturn is affecting the market for streaming programming

Tim Peterson(翻訳:ガリレオ、編集:猿渡さとみ)

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