「すべてに応える、何でも屋を求められている」:クライアント離れを危惧する、エージェンシーの PR 担当者の告白

DIGIDAY

クライアントがアーンドメディアやコミュニケーションの管理を委託するパートナー企業に、あれもこれもと過度な期待を寄せるようになったのは昨日今日の話ではない。しかし、このような広報活動のプロたちによると、最近ではソーシャルなどでの拡散を狙うメディア露出まで期待されて、これまで以上のプレッシャーを感じているという。

マーケティングや広告の世界では多くの変化が起きており、コミュニケーションエージェンシーは、アーンドメディアでの露出からTikTok戦略まで、エンジン全開で取り組むことを求められている。あるメディアスペシャリストは、クライアントの要求に応えることが難しくなるに伴い、「この業界はクライアントの依頼を失いつつある」と警戒感をあらわにした。

匿名を条件に本音を語ってもらうDIGIDAYの告白シリーズ。今回はあるメディアコミュニケーションのスペシャリストに、緊張を深めるクライアントとPRエージェンシーの関係や、「PRがもはや一芸だけでは通用しない」理由について語ってもらった。

なお、読みやすさを考慮して、以下のインタビュー記事には若干の編集を加えている。

◆ ◆ ◆

−−まずはPR業界の現状について教えてほしい

多くのクライアントがコミュニケーションエージェンシーにやって来てこういう。「ソーシャルで拡散させたい。メディアに掲載してほしい」。彼らは口コミでの拡散とメディア掲載を関連づけるが、思い違いも甚だしい。ニュース編集部が縮小していること、読者が減少していることを、彼らは分かっていない。

昔はメディア掲載とテレビ広告くらいしかなかった。何か新しいものが登場すれば、おおむねこのふたつを通じて世間に知らされた。いまの時代は事情が違う。インフルエンサーやブロガーがいて、新しいメディアプラットフォームがある。従来的なメディア掲載があり、業界誌やポッドキャストもある。

要するに、PRはもはや一芸に秀でていても、それだけでは通用しないということだ。多くのエージェンシーは、PRの幅が広がっていることを知りながらも、この一芸的なアプローチを続けている。クライアントは「メディアに掲載してほしい」といってくる。当然、PRエージェンシーとしては、クライアントの要望に応える必要性を感じる。

−−しかし、それだけではクライアントは満足しないのでは?

多くの場合、エージェンシーはメディアへの掲載を手配する。著名なメディアを動員することもある。たとえば、我々のクライアントをテッククランチ(TechCrunch)で取り上げてもらったことがあった。テッククランチといえば紛れもない大手だ。それでもこのクライアントは、ひと月後には我々を解雇した。

PRエージェンシーは「何でも屋」になる必要がある。そうでないと、顧客は離れていく。美容メディアのバーディ(Byrdie)やマリ・クレール(Marie Claire)など、どれだけ著名なメディアに掲載されても、クライアントの求める結果にはつながらない。コロナ禍は人々の情報消費を一変させた。ひと言でいえば多様化しているのだと心底思う。状況が変わり、情報消化のあり方も変わった。我々の取り組みにも多様化が必要だということだ。

−−PRは営業でもマーケティングでもないとあなたはいう。その不満や苛立ちについて聞かせてほしい。

PRはマーケティングファネルをサポートするし、マーケティング機能の多くを補助している。しかし、結局のところ、PRは単独で収益を上げるものではない。そのような機能をサポートするのは確かだが、クライアントが期待するような収益増を直接的にもたらすわけではない。

また、創業間もないスタートアップ段階の企業と、ブランド認知がある程度進み、成長軌道に乗りつつあるミドルステージの企業とでは、PR施策の内容も自ずと異なる。プログラムの内容は変えるべきなのに、アプローチは変わらない。この点がなかなかに厄介だ。

−−解決策を見いだす責任は、エージェンシー側にあるのか、それともクライアント側にあるのか?

両方にある。エージェンシーはクライアントを喜ばせたい一心で、彼らの要求通りにする。本来なら、「あなたは自分が何をしたいのか分かっているつもりのようだが、この件に関してはこちらを信じて任せてほしい。この通りにすればうまくいく」と伝えるのが筋なのだが、これには勇気がいる。

一方、クライアント側には思い違いがある。正直なところ、ただ虚栄心を満たしたいだけのクライアントもいる。クライアント側がPRを正しく理解しない結果、エージェンシーはクライアントを喜ばせるだけの仕事しかしなくなる。クライアントのいいなりで、「方向を変えましょう、実は御社に必要なのはこれなのです」というだけの勇気を持たない。

−−両者の認識をひとつにするには何が必要か?

方向を変えることに前向きなクライアントを持つことは、非常に重要な要素だ。PRエージェンシー側に必要なのは、方向転換から得られるメリットをクライアントに正しく伝えることだ。それがひとつの解決策となる。クライアントのいいなりではなく、自分たちにとって必要なものをきちんと理解してもらう。あなたは私を専門家として雇った。いまの状況と、目標達成のための道筋を説明させてほしい。そう伝えることが必要なのだ。

[原文:‘You need to become a jack of all trades’: Confessions of a publicist on the importance of changing strategies as media evolves

Kimeko McCoy(翻訳:英じゅんこ、編集:分島翔平)

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