eコマースと実店舗 、どう注力するのか?:データに基づいて出店方法を見直すブランド【ファッションブリーフィング】

DIGIDAY

eコマースと連携した実店舗の展開戦略がさらに発展している

パンデミックが小売環境に及ぼした影響によって、ブランドは出店場所を選択する際に考慮していたデータを見直しつつある。

eコマースと実店舗に注力する際、新たな消費者習慣に応じるには、どちらか一方に目を向けるのではなく、両チャネルが連携できるようにすることだとブランドは判断している。たとえば、多くの売上がeコマースに移行しているが、店舗で試着をしてスタイルを選びたいと考えているオンラインショッピング利用者も多い。そしてブランド側も、特にオンラインの売上高が過去最高に達しているときに、オンラインで受けた注文を顧客の近くにある店舗から発送すれば、コストが大きく削減できることに気づいている。

しかし店舗展開の戦略は、eコマースの顧客がもっとも集中しているエリアへの出店だけにとどまらず、さらに発展している。デジタル広告が高額すぎて手を出せない場合、ブランドは店舗をコミュニティのハブとして、あるいは新規顧客獲得のための広告塔のような手段として活用している。商品と市場の適合性は大切だが、現状の顧客ベースの大きさは重要ではない。一方、観光で栄えているショッピング街から離れ、リスクの高いショッピングモールから撤退して、柔軟な賃貸条件を探すブランドもある。あるいは企業によっては、ショッピングモールの希少な空き店舗を獲得しているところもある。

出店の際はデモグラフィックや小売市場の成熟度などを加味

1月に5000万ドル(約64億5300万円)のシリーズBの資金調達をした創業4年目となる小売プラットフォームのリープ(Leap)は、13の注力分野を設定し、新たに5つの市場に拡大したと5月4日に発表した。

マーケティングやマーチャンダイジング以外の小売に不可欠な機能(不動産、テクノロジー、人材派遣、オペレーションなどを含む)を専門とするリープは、ブランドが実店舗をオープンするまでのすべてを請け負うというターンキーのサービスを提供している。契約から店舗開設までの期間は平均75-90日で、顧客にはサードラブ(ThirdLove)、サムシングネイビー(Something Navy)、マックウェルドン(Mack Weldon)などがいる。

リープの新たな市場は米国の東半分に限られており、ボストン、コネチカット州グリニッジ、ワシントンD.C.、フィラデルフィア、オハイオ州コロンバスが含まれる。現在、各地域に5〜20店舗と、それをサポートするためのチームメンバーを抱えている。共同創業者で共同CEOのアミッシュ・トリア氏によると、ボストン、ワシントンD.C.、フィラデルフィアを選択した大きな理由は、人口の規模と密集度だという。一方、グリニッジについては、大都市市場の周辺都市に進出することで在宅勤務を選択できる労働者に対応するという、同社の新しい戦略を示している。またコロンバスは、スケールアップした小売業のコンセプトが生まれていると評判のある成長中の市場だ。

リープではその地域に進出する前に、人口規模に加え、その都市の地元住民のデモグラフィック情報を計算に入れた。そこには平均年齢、民族構成、ジェンダー構成、平均世帯年収などが含まれる。また、盛んな「サブマーケット」やショッピングエリアの多様性など、地元の小売市場の成熟度も考慮する。最後に、ロックダウン後の店舗への客足の回復状況や、その地域の他の小売業者の成功例も市場の選定に関わっている。

またリープは、自社のプラットフォームに登録している現在の顧客と見込み客の両方を含む700ブランドのeコマースビジネスも調査している。こうして、もっとも多くのブランドが出店する可能性が一番高い地域が選ばれた。

単に出店に関心があってプラットフォームに登録しているブランドに対しては、リープは実店舗チャネルで成功する可能性についての詳細な分析を引き受ける。これは、そのブランドの小売目標とリープのサービスが合致しているかという点や、「企業としての健全性、(製品の)品揃えの規模、ユニットエコノミクス」に基づいているとトリア氏は言う。またリープは、立地データと比較できそうな既存顧客のこれまでの実績も検討し、もっとも最適な小売市場についても情報を伝えている。

トリア氏によれば、社内のデータ分析の専門家はリープで最大のチームを構成している。全般的に見ると、そのチームは現在の需要に応えるために大きくなりつつある。

eコマースの需要から判断して出店地域を選択

メンズウェアブランドのトッド・スナイダー(Todd Snyder)は、2021年には3店舗から6店舗に拡大するなど、小売の店舗面積を急速に拡張している。ブルックリン、ボストン、ロサンゼルスなど、オンライン販売をベースにした同ブランドの「主要な成長都市」で、今年さらに5店舗をオープンする計画だ。

「パンデミックが発生したとき、予想外の場所で過去最高の発注が長期間続いているという傾向に気づき始めた」と、自身の名を冠したブランドの創業者でデザイナーのトッド・スナイダー氏は述べている。同ブランドではこれを受けて、2021年にコネチカット州グリニッジやニューヨーク州イーストハンプトンといった、それらの地域に店舗をオープンした。

D2Cのファインジュエリーブランドであるメジューリ(Mejuri)もまた、大幅な小売拡大を計画している。米国とカナダにある現在の9店舗に加え、シアトル、シカゴ、サンノゼ、トロントなどの市場で、今後3カ月間に6店舗をオープンする予定だ。また、特に英国、オーストラリア、ドイツといった海外店舗の展開も視野に入れている。過去2年間に国際的なeコマースをローンチしてから、これらの地域で需要が高まっているためだ。

メジューリのリテール・シニアバイスプレジデントであるケリー・シュライター氏は、次のように語る。「場所や土地の選択に対する私たちのアプローチは、データに大きく依存している。(地域の)社会経済データと組み合わせて売上や顧客データを取り入れており、ブローカーが潜在的な近隣地域のデモグラフィックを提供してくれる。立地、アクセシビリティ、店舗の大きさなど、すべて考慮しなければならない重要な要素だ」。

地域住民の日常に溶け込みやすい場所がカギ

トッド・スナイダーにとって、最終的にはニューヨークの「ハブ・アンド・スポーク」モデルを見習い、成功した市場に複数の店舗をオープンすることが目標だ。
同様にメジューリも、シュライター氏いわく「つながりを保ち、ブランドの便利さを体験できるようにする」ために、大都市に複数の店舗をオープンすることを目指している。この戦略は、これまでメジューリでは成功を収めてきた。LAでは、2019年7月にメルローズに店舗をオープンしてから12週間で、半径25マイル(約40キロメートル)内のeコマースの売上が213%増加した。4月にはベニスのアボットキニーにLA2号店をオープン。オープニングの週末には予想を上回る185%の売上を記録し、同地域の顧客ベースを61%増加させた。

トッド・スナイダーではマーケットを決定した時点で、自社の顧客データを活用し、その都市の中で主要なデモグラフィックがどこでよく買い物をする傾向があるのかを評価する。それはショッピングモールの場合もあるが、多いのは地元の屋外エリアだ。また「歴史のある意外な建物」を探すこともあるとスナイダー氏は言う。ニューヨークのトライベッカの店舗はかつてバーと酒屋だった。

「成功の鍵は、ブランドがその地域の構造や住民の日常生活に溶け込みやすい場所を選ぶことだ」とスナイダー氏は述べている。

年間観光客数よりもコミュニティとのつながりを重視

シュライター氏によると、メジューリにとってコミュニティや近隣の雰囲気も決定的な要素だという。たとえば同社が店舗をオープンしたシアトルのユニバーシティ・ビレッジ(University Village)は、さまざまなレストランやバー、ライフスタイルショップが集まる屋外モールだ。そのすべての店舗がコミュニティの共通の取り組みとして、地元のコミュニティ団体と組んで店内イベントをサポートしたり、地元の業者にポップアップで出店させたりしている。

個々の店舗を選ぶ場合、コミュニティの機会を促進するような機能を重視する。現在のアボットキニーの店舗を選ぶ際には、中庭があることが決め手となった。

リープはライフスタイルセンター、インドアモール、ストリップモールに決まって出店しており、店舗環境は特に選り好みしていない。平均的な店舗面積は1500平方フィート(約140平方メートル)で、定期的に在庫を更新する顧客にとってちょうどよい広さだ。また、多くの顧客がリープのデータを活用し、マーチャンダイジングをローカライズしている。

リープがもはや考慮しなくなったデータについて、トリア氏はこう述べた。「以前は(市場の)年間観光客数についてかなり考えていた。パンデミックや旅行のエコシステムの不安定さから、もういまやそれは重要視していない」。

[原文:Fashion Briefing: Fashion brands are revamping their data-driven approach to opening stores]

JILL MANOFF(翻訳:Maya Kishida 編集:猿渡さとみ)

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