メロン、マンゴー、モモ、リンゴ。それぞれの産地から出荷された果物たちは、遠路はるばるやってきたはずなのに傷つくことなくきれいな顔してお店に並んでいる。
果物の周りについている緩衝材、あいつのクッション効果って結構すごいんじゃないだろうか。
私だってあれかぶって守られたい!そう思って人間サイズで作ってみました。
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世間はいい果物にやさしい
いい果物屋さんでは、いい果物たちが1つずつ緩衝材にくるまれて化粧箱に鎮座している。
一見過保護にみえる包装は、繊細な甘い宝石たちにとっては確かに必要なのだ。
ふわふわな見た目とは裏腹に、確固たる意志であらゆる衝撃から果物を守らんとする緩衝材のなんと頼もしいことか。
いいなぁ…。果物、うらやましいなぁ…。
先日、ランニング中に派手に転んでひざを怪我した。転んだことにびっくりして、「うわぁ、いたい!!」とあほみたいな大声をあげてしまったのにも関わらず、周りの人は淡々と通り過ぎて行った。転ぶのが久しぶりすぎたのと周囲の人の無関心とが合わさって、ひざも痛いが心も痛い。みんな~!もっと優しくしてくれ~!!! ひざの青あざを撫でていると、大切に扱われている果物への嫉妬心があおられる。
わたしもあれだけ守られたい。傷つくことを心配されたい。
世間の荒波を渡るためには、わたしのための緩衝材が必要だ。
フルーツキャップというらしい
果物の緩衝材としてぱっと思い浮かぶあの白いあみあみ。あれ、フルーツキャップという名前らしい。
フルーツキャップを人間サイズで作って、よい果物になりきろう。
見本としてフルーツキャップの実物が欲しい。ネット通販で買えそうだが、大体どのサイトでも最小販売単位が100枚からである。欲しい、欲しいが…。100枚はいらない。おとなしくスーパーでフルーツを買ってくることにした。
フルーツキャップの観察
フルーツキャップをよく見てみると、長い筒状構造が真ん中で半分に折られているのがわかる。
この筒は、棒状の”フカフカ”が緩やかならせん状に組み合わされて構成されている。
1層目と2層目でらせんの角度が逆向きになっていて網目を作っている。
横に引き伸ばして網目をよく見てみよう。
網目は筒の両端ではひし形なのに、筒の中央部分では六角形だ。この構造の差のおかげで両端部分は伸びにくく・中央部分は伸びやすくなっており、使用時に半分にたたむとお皿のように果物を包み込めるようだ。
あみあみになっているだけの簡単な構造かと思っていたが、効果的に果物を包み込むための工夫が感じられる。よく考えられているなぁ。
無限リリアン地獄
人間サイズで作ることを考えたときに一番最初に浮かんだのがネックウォーマーのイメージだった。毛糸で編んだら温かそうだ。細長いパーツをたくさん編んであみあみ状に繋げたらよさそう。さて、どうやってパーツを編もうか。
そんな都合よく細長いパーツを簡単に編める道具なんてないよなぁ…。
あった!リリアン!!!!!
そうだそうだ、リリアンがあった。
かつて幼女だったことのある人なら触ったことがあるんじゃなかろうか。突起に糸をかけ、すでにかかっている前段の糸を引っ張り上げて奥に送り、隣の突起に糸をかけ、また前の糸を引っ張り上げて奥に送り…と単純作業を続けていくと下からにょろりと編めたひもが出てくる謎の手芸道具である。
幼少期は何の目的もなく狂ったようにひもを量産していたが、なるほど、果物気分にひたるために使うものだったのか。さっそくAmazonで購入した。
使ってみて気づいたが、このリリアン、幼少期に使ったものよりも進化している。
これは早く編めそう!リリアン自体は簡単だし、パーツをつなげて作る構造は単純だし、数週間で簡単にできるんじゃないかな!!!!
…と予想してたが、この見積もりには重大な誤算があった。
そう、人間のモチベーションを勘定に入れていなかったのである。
リリアンは飽きる。
だいたい、単純作業すぎるのだ。単純作業の繰り返しの編み物の中でも群を抜いた単純作業。
糸をかけ、隣の突起に移動し、糸をかけ、隣に移動し、糸をかけ、隣に移動し、糸をかけ、移動し、糸をかけ、移動、糸をかけ、移動、糸、移動、糸、移動、糸、移動、糸、移動、糸、移動、糸、移動…
どんな単純作業でもやり続けると動きが洗練されてくるもので、どんどんどんどん早くなる。
これだけ編んでも、まだ目標の半分しかないけどね。
あぁ、なんでこんなこと始めちゃったんだろう、もう春になっちゃうよ、などとごちゃごちゃ言いながら2か月以上かけて何とか30本のリリアンを編み切った。
残す合体作業は、謎の集中力を発揮して数時間で終えた。人間のモチベーションは推し量れない…。
人間用フルーツキャップの完成
じゃじゃーん!!!
こだわりポイントは網目のかたち。
で、薄々感づいてはいたのだが…
ちょっとおしゃれっぽく見えるように写真を加工してみたが、それをも打ち消すサイズ感。首に掛けたらダルンダルンになってしまった。前衛的なファッションに見えなくもない。肩から下に伸ばしてみると余裕で胴まで入る。これじゃぁ腹巻じゃないか。
作ってみて知ったが、この網目構造って、想像よりも伸びる!
それは素材に原因があるのかもしれない。
本来のフルーツキャップは素材の特性も考慮して製造されているのだろう。工業製品おそるべし。
何とか手で支えてみたりして、ネックウォーマー風に首に巻きつつお散歩をしてみた。
歩いていると春の生暖かい風が網目の隙間を抜けて首まで届く。このネックウォーマー、防寒目的には向いていないだろうな。
風をビュンビュン通すので頼りないのだが、首周りでの存在感はかなり大きい。正直、守られている感はビンビンに感じる。顔をつつみこんできて前が見にくい。つまりちょっとうっとうしい。
熟して木からはずされ座標の束縛から解放された果物。せっかく自由になったと思いきや、人間のエゴでフルーツキャップをかぶされ厳重に包装され。もしかしたら丁寧にまかれたフルーツキャップをうっとうしく感じているのかもしれないな。なんて、ちょっと果物気分にひたってみる。
にしても大きすぎるので、家の中でこのフルーツキャップにちょうどいいサイズ感のものを探してみた。
ルンバにちょうどでした。
まとめ
- 人間用フルーツキャップの包容力はすごい(うっとおしいくらい)
- 網目の構造は想像よりも3倍くらいよく伸びる
- 単純に見えるフルーツキャップの構造はよく考えて作られている
自分を守ってくれるはずの存在にうっとおしさを感じてしまう己の身勝手さにうんざりしつつ、フルーツキャップはルンバにあげて強く生きていこうと思いました。