明日は晴れるかな
天気予報は空気のような存在だ。
新聞やテレビのニュース番組、主要なポータルサイトには必ず天気予報のコーナーがある。予報は的中するのが当たり前だと思われていて、たまに外れると文句を言われるほど。
でもよく考えると、明日のことが今日わかるというのはかなりすごいことだ。いったいどうして未来のことが予言できるんだろうか。
天気予報の仕組みを教えてもらいに行ってきました。
※2005年10月に掲載された記事を、AIにより画像を拡大して加筆修正のうえ再掲載しました。
気象庁におじゃましました
天気のことならまずは気象庁に聞くべきだろう、というわけで東京大手町の気象庁へ。
お忙しい中、天気予報についていろいろなお話を伺うことができました。本当にありがとうございます。
天気予報のしくみ ― まずは気象データを観測する
天気を予報をするためには、まずは現在の温度や降水量などのあらゆる気象データを集める必要があるらしい。
「まずは、実際に天気が世界各地でどうなっているかということを調べないと予報をすることができません。そのために、日本国内も含め、世界の各地から、気象の実際の状況がどうなっているかについてのデータを集めます。」
そのための観測を全国各地にある気象台やアメダス(地域気象観測システム)などで行っている。実際に気象庁の敷地内にある観測装置を見せていただくことができた。
気象観測機器たち
下の写真の、銀色の筒みたいなところの中に温度計が入っている。
温度計や湿度計というと、小学校の中庭などに設置してあった白い百葉箱を連想してしまうのだけど、最新式の観測機器はそんな箱の中には入っていないのだった。
「明治時代に気象観測を始めた当初は百葉箱を使っていましたが、現在ではもちろん使われていません。」
なるほど、それはそうですよね。ちなみに、百葉箱の持つ、直射日光を避けるひさしとしての機能は、銀色の筒でセンサー部分を覆い、ファンで筒の中の空気を入れ換えることによって実現されているらしい。
そして下は雨の降った量をはかる雨量計。
筒の中にたまった水の深さを単純に測っているのかと思いきや、さにあらず。雨が0.5mm溜まるごとに、まるでししおどしのように中のますが左右に倒れ、その回数を測るというデジタルな仕組みになっているらしい。
このような観測施設は全国に1300カ所ほどあり、気温や降水量のほか、風向・風速や日照時間などを計っている。
ただし、アメダスで集められるデータはあくまで日本列島内の地表付近だけで、そのほか海上や上空のデータも集めなければ天気を予報することはできない。
そのために、観測装置をつけた気球を揚げて上空の気温などを観測したり、民間の飛行機や船舶にも観測を協力してもらったり、各地の気象レーダー観測所や気象衛星など、あらゆるところから気象データを集めているとのこと。
実は、こうやって集めた日本周辺のデータだけではまだ足りなくて、たとえば明日の東京付近の天気を推測するためであっても、地球全体についての気象データを集める必要があるのだという。
とはいえ全世界についての気象データを日本だけで観測するのは無理というものだし、その事情は他の国にとっても同じだ。そこで、世界気象機関というところに所属する180カ国以上の国は、たがいに自分たちの観測したデータを融通しあっていて、日本も世界中のデータを受け取ることができるようになっている。
集まったデータをスーパーコンピュータに送る
こうやって集めたデータは、気象庁の持つ数値解析予報システムに送られる。
そこにあるスーパーコンピュータで、将来の天気などを計算するのだという。ふむふむ。どんなふうなんでしょうか。
将来の天気を計算するのだ
日本国内や世界各地から集められたデータは、スーパーコンピュータに入れられて、そこで将来の大気の状態が計算されるらしい。その仕組みを教えていただいた。
これが計算の仕組みです
まず、下の図のように、地球上を覆っている大気をブロック状に区切る。
それぞれのブロック中の大気は、熱や水蒸気などについての物理的な量を持っていて、その中で、水蒸気が冷えて雲になったり、海水が暖められて水蒸気になり、となりのブロックに移動するといった現象が再現されるようになっている。
ブロックの区切り方は、細かくすればするほど予想の精度があがっていくのだけど、あまり細かくすると計算すべき全体の量が多くなりすぎてしまうため、その細かさにはおのずと限界がある。
地球全体について予報する「全球モデル」の場合、ブロックの間隔は水平方向に55km、垂直方向におおよそ250mとなっているらしい。
計算結果はこんなふう
スーパーコンピュータによる計算の結果は、次のように天気予報図の形で出力させることができる。
これがそのまま天気予報になるわけじゃない
ただし、この図をそのまま天気予報図として発表して終わり、というわけじゃない。
こういう基礎資料をもとに、気象庁や各地の気象台の予報官が予報を作成して、天気予報として発表することになる。
その例を具体的に教えてもらいました。
予報の組み方を教えていただく
気象庁の場合、天気予報は予報現業室というところで、数値予報の計算結果の図などをもとに作られる。
取材をさせて頂いたのは10月24日の月曜日なのだけど、この時点で、3日後の27日の東京地方の天気は曇りという予報になっていた。
この例について、予報の作り方を具体的に教えていただいた。
「次の図は、26日21時の状態を予報した図です。700ヘクトパスカル、上空3000mくらいの湿った空気の領域を縦線で区切った領域で表示をしています。」
「これは代表的に見るために、3000m、700ヘクトパスカルの状態を見ていますが、上空1500m付近に相当する850ヘクトパスカルや、それよりもっと低い下層の状態も数値予報では計算できますので、それらの資料も選び出して見ることができるようになっています。
これらで、だいたい湿った空気が入り込んできているということになりますと、曇りというふうに判定します。」
―なるほど。空気が湿っていると曇りという感じなんですね。
「湿った領域がこの周辺に広がっている状況で、それが明日の夜にかけて東に離れていくということですので、このほか、上空3000m以外の層の湿った空気の流され方や、移動のタイミングを見て、晴れてくるタイミングを見る、ということになっています。」
―この例だと、27日の朝は東京付近はまだ曇りということですか。
そのほかの例も
下の写真は、27日の午前9時についての予報図になっている。
「これは地上付近の気圧配置を表したものですが、北側に高気圧があって、南側に気圧の低い部分があるという形になっています。」
―「H」と「L」ですね。
「そして、この点線(矢印で示したもの)で囲まれている領域が、26日21時から27日午前9時までの12時間の間に、モデルの中で雨が降るというふうに予測した範囲になっています。」
―あ、雨の降る範囲も予報として出力されるんですか。
「はい。この図では12時間というまとまった間隔で出していますが、雨の量を1時間ごとや3時間ごとに分けて表示することもできます。
これらが基本的に雨を予想する一つの判断材料になります。
あとは、レーダーで捉えた海上での雨の降り方が、数値予報で予想した雨の領域と比較して、十分妥当かどうかなどの判断をした上で、天気予報を組んでいく、ということになります。」
上で教えていただいた例は、予報をつくる際の判断のごく一例にすぎなくて、実際には予報官の方は、このほかのありとあらゆる学問上の知識や経験をつかって予報を作成していくことになる。
天気予報は、気象庁の本庁だけでなく、各地の管区気象台や地方気象台からも発表される。地方気象台はだいたい各都道府県にひとつずつ設置されていて、その地域の地形などによる特有の気象特性を考慮した、より細かい予報を作成している。
そのような例として、東北地方に吹く北東風「やませ」があるらしい。
海から、しめった東からの風が吹くと、関東や東北地方の場合はくもりになりやすく、これは関東地方での数値予報が上手くいかない典型的な例だ、とのこと。
いよいよ天気予報として発表されます
前のページのような手順をへて、ようやくその結果が下の写真のような、なじみのある天気予報の図として発表されることになる。
ちなみにこれは26日についての予報。たしかに東京は曇ったり雨が降ったりでした。
下の図は、天気分布予報とよばれるもの。日本を20km四方ごとのブロックに分けて、ブロック内の天気を示したもの。ちなみに、黄色は晴れ、灰色が曇り、紫は雨。
そしてこちらは時系列予報。
全国の代表的な地域について、3時間ごとの天気や気温などを予報している。
これによると、東京地方の28日(金曜日)のお昼は晴れという予報になっている。ちょうどこの記事が掲載される日だ。
果たして当たっているでしょうか。この記事を読みながらぼくも確認してみます。
みなさんすごく忙しそうでした
今回、合計で半日ほど気象庁にお邪魔したのだけど、お話を伺っている間じゅう、後ろではひっきりなしに電話がかかってきて、予報内容や観測データについてのやりとりが行われていた。
予報現業室にも職員の方があわただしく出入りをしていて、のんきに写真を撮っているのが申し訳ないくらい。
天気予報に限った話ではないけれど、普段そこにあって当たり前だと感じているものも、関係者の方々の不断の努力によって支えられているんだ、ということを改めて感じた。
もちろんデイリーポータルZも。とか言うと説得力なくなりますか。