Appleとの提携がなければTSMCは世界トップのファウンドリになれなかった

GIGAZINE
2022年04月24日 18時00分
メモ


by 李 季霖

台湾のファウンドリ(半導体製造企業)で業界1位のシェアを持つTSMCは、iPhoneやiPadを販売するAppleのチップの製造を請け負っています。AppleとTSMCの提携について、Intelのアーキテクチャ・グラフィックス・ソフトウェア部門上級主席エンジニアであるPushkar Ranade氏が解説しています。

The Apple-TSMC Partnership – by Pushkar Ranade
https://semiconductor.substack.com/p/the-apple-tsmc-partnership

半導体製造業界で長くシェアを握っていたのはIntelでした。IntelはMicrosoftと協力し、Windows PC向けのCPUを設計して大量に生産する体制を整えていました。大量のシリコンウェハーを確保して生産することで、歩留まり率と収益率を上げ、Intelは40年以上にわたって半導体メーカーとして業界を牽引してきた、とRanade氏は述べています。PC向けCPUの性能は周波数(クロック速度)を指標として示され、とにかく高い周波数でパフォーマンスが優れていることが求められるようになりました。

しかし、スマートフォンやノートPCなど、モバイル機器向けのチップが登場したことで、単にパフォーマンスが高いだけではなく高い電力効率も求められるようになりました。そんな中で、TSMCはIntelと異なり、モバイル向けチップの生産を中心に行っていました。

Appleは、iPhoneの最初の数年間はTSMCの顧客ではなく、当初はメインチップの製造にSamsungを使用していました。AppleがTSMCと本格的に提携したのは2014年のことで、同年秋に発表されたiPhone 6や第4世代iPad miniに搭載された、20nmプロセス採用SoC「A8」はTSMCのノードで生産されています。2014年以降、TSMCはApple設計のチップだけではなく、Apple製品に搭載されるQualcommやBroadcommのチップやセンサーの生産も行っています。

A7の出荷以降、AppleはTSMCの高度なテクノロジーノードの主要な顧客です。Appleは独自開発の5Gモデムチップの設計に3nmプロセスを採用しており、TSMCはN3ノードで生産する体制を整えていると報じられています。

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Ranade氏は「TSMCはモバイル化の波から大きな恩恵を受けており、2014年にAppleのSoC製造を担当するようになってからは顕著に収益が伸びています。2015年以降、AppleのTSMCへの収益貢献は、ドルベースでもパーセンテージベースでも増加しています。2020年、AppleはTSMCの総収入のおよそ25%に当たる最大110億ドル(約1兆3000億円)に貢献するとみられます」とみています。

Appleは毎年秋にiPhoneの新しいモデルを発表していることから、TSMCは年間経常利益の50%をわずか半年~9カ月程度で回収できるようになったとのこと。AppleのおかげでTSMCはノードへの投資を圧倒的な速度で回収でき、さらなる設備投資が可能になっています。Ranade氏は「Appleと事業を提携して以来、TSMCは最先端ノードの開発に投資を続けることができるようになりました。Apple以外で、新しい技術ノードのリードアダプターとなる能力と量的需要の両方を持つ企業はIntelだけです」と述べています。

A8のリリースから3年後の2017年に、TSMCは創業30周年を迎えました。この記念イベントでゲストとして招かれたのはAppleのジェフ・ウィリアムズCOO(最高執行責任者)でした。以下の写真はイベントで撮影されたもの。一番左がジェフ・ウィリアムズCOOで、一番右がTSMCの創設者であるモリス・チャン氏。右から2番目の革ジャンを着た男性はNVIDIAのジェン・スン・ファンCEOです。


このイベントで、ウィリアムズCOOは「AppleとTSMCのパートナーシップの最初の種が蒔かれたのは、実は2010年のことでした。私は台湾で、チャン氏夫婦と一緒に食事をしました。当時はTSMCとビジネスをしていなかったのですが、とてもいい話ができました。そして、一緒に何かできないかという話になり、最先端の技術と私たちの志を結びつければ、大きな可能性があることがわかったのです」と述べています。

ウィリアムズCOOによれば、AppleはiPhoneとiPadのチップの100%をTSMCで調達するという契約を行い、TSMCはAppleとの契約に応えるべく、台南にある工場に90億ドル(約1兆1000億円)を投資し、6000人の従業員による24時間体制でチップを生産できるように体制を整えたとのこと。その結果、TSMCはAppleに5億個以上のチップを出荷できるようになりました。


ウィリアムズCOOは「TSMCはこれまで250億ドル(約2兆9000億円)を投資していますが、そのうち90億ドルをAppleに投資しました。1つの企業に90億ドルを投資するという賭けを行うような企業はほかにもないでしょう」と述べています。

さらにウィリアムズCOOは「次の10年の課題は、『(チップが)私たちの野望を満たすのに十分な処理能力があるかどうか』ではなく、『この技術を利用するという正しい野望を持っているか』ということです。私たちAppleは、半導体業界の減速を懸念していません。それは全く違います。半導体業界が減速しない可能性は非常に高いと考えています」とコメントしました。

Ranade氏は「AppleのiPhoneに搭載されるチップのような高度なノードで高速・高性能な製品を大量に生産することは、TSMCが最も複雑で高度なノードを安定させるのに非常に重要でした。Apple製品の生産によってTSMCの製造性は迅速に向上し、NVIDIAやAMDなど高度なノードを求める顧客にも対応できるようになりました。AppleがTSMCに大量に発注していなかったら、TSMCは先進的なノード向け半導体の製造でIntelに追いつくことはできなかったでしょう」と分析しました。

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