ある夜、自宅の近所で見慣れない生き物を見た。
体はネコより大きく、柴犬のような犬よりは小さい。顔はやや面長だったように見えた。
そして何しろ大きな特長は、長い長い尻尾をずるずるひきずっているということ。それが妙に重そうでちょっと気味が悪い。
一体、あの生き物は何だったんだろう……。手がかりをもとに捜索しました。
※2005年5月に掲載された記事を、AIにより画像を拡大して加筆修正のうえ再掲載しました。
未確認生物、目撃
自宅から二駅ほど先の居酒屋で飲んでいてうっかり終電を逃した。幸いにも近所に住む友人が一緒だったため、一緒に歩いて帰ることにした。
深夜。トラックなどが高速で走り行く大通りを避け、私たちは暗い裏道を歩いていた。
ふと、何かが前を横切って、私は、あ、猫だと思った。ただ、猫にしてはゆっくり横切っていく。
ん? ネコ? ちがう。なんだあれ? ずるっ、ずるっと、重たそうに長い長い尻尾をひきずっている。顔がやけに長い。
「ツチノコだーーー!」
同行の友人が小さく叫んだ。いや、ツチノコじゃないだろう。多分未確認生物のことを言っているんだと思う。とにかく見たことがない生き物だ。
「なんだあれなんだあれなんだあれ!!」
「こわいこわいこわいこわいこわい!!」
こわがり盛り上がる私たちをおいて、そのUMAは民家のガレージへ姿を消した。
恐る恐る追って姿を探すがいない。一体あれは何だったんだろう……。
もう一度、見たい
どうしてももう一度見たい。そんな思いで捜索を決意した。調査するにあたり、まずは私と同行の友人の目撃情報を改めて洗い直してみたいと思う。お互いに思い出しつつ、目撃生物のイラストを描いてみた。
・とにかく尻尾が長く、ずるずる引きずっていた
・基本的に猫に似ていたと思う
・黒かった気がするが、暗闇だったからそう見えただけかもしれない
とにかく私は長い尻尾に釘付けで、それ以外の情報は実はあまり覚えていなかった。対して、友達の方は割とその全貌を覚えてるようだ。
・耳が立っていなかったので明らかに猫ではないと思う
・顔が長く見えた
・普通の猫よりもやや大きかった
・足も猫より長かった気がする。
こうしてみてみると私はどちらかというと猫に、友人は犬のように感じているようだ。
あいまいで自信のない私に対して友人の証言は力強いものだった。
「尻尾もそうだけど、顔が長いのも特長的だったよ。アリクイとかプレイリ-ドッグみたいな感じ? げっ歯類? でも暗かったしな-」
–足、そんなに長かったっけ?
「うん。そんな気がしたよ? 足が長い割に移動がゆっくりだなと思ったんだよね」
–私は尻尾があんまり重いんでゆっくりしか進まないみたいに感じたよ
「ああー。そうかも。あと普通ネコとかだったら道路渡るのちょっと躊躇するよね。それが、慣れた感じがしたのも不気味」
–あー、もう一度見たいんだけどなあ。どうだろう。
「え、もしかして捕まえようとしてんの? やばいよ、危ないよ、危険だよ、コレ」
この時点で目撃から丸一週間が経っていた。私も友人もかなり実際よりも有り得ない方に想像が膨らんでしまっているのかもしれない。
しかし、実際に見た生き物だ。地に足をつけて冷静に探していけば、何らかの答えは得られるはず。
目撃現場は住宅街だ。もしかしたら犬や猫などのペットが迷い込んだだけかもしれない。
実地調査に移る前に、まずは犬猫の専門家にその可能性を聞いてみよう。犬猫のテーマパーク、二子多摩川「いぬたま・ねこたま」へ!
これは猫でしょうか?
まずは「ねこたま」へ。こちらには世界の猫たち約30種類60匹がいる猫のテーマパーク。入ると、小屋ごしに珍しい種類の猫が眺められるスペースがある。
友人と私、二人の証言を元にできるだけ現実的にモンタージュ(というのだろうか)を作成した。一匹一匹、イラストと照らし合わせて見ていく。
ここには猫をなでたり抱いたりできるふれあいのスペースがある。スタッフの方がいて、様々な種類の猫を巧みに操ってお客さんとのふれあいをサポートしていた。猫のプロとお見受けしました。あのう、わたくし、未確認動物を探しているのですが、こんな感じの猫って見たことありますか?
「顔が長いんですか? うーん。ショートヘアーやシャム猫だとシュッと前に突き出すような顔つきの種類もいますが、長いってよりも三角って感じですよね。ちょっとこのイラスト通りって言うのは見たことがないですねえ」
確かに場内にいる猫を見ると、基本的に丸顔だし、三角形の耳がピンと立っている。目撃した生物はもう二まわりぐらい大きかった気がするし、やっぱり猫ではなさそうだ。
これは犬でしょうか?
続いて隣接する「いぬたま」へ。こちらでもスタッフの方にイラストを見てもらう。
「ボルゾイという種類は尻尾が長いですが、足も長いので歩いていて尻尾が地面に付くことはないですねえ。ええと、だいたい尻尾が長いっていうことは、体が大きいってことだと思うんですよ。体に対して尻尾が長いということはあまりないと思うので……」
そう言って少し考えるスタッフの方。少々お待ち下さいと、別の方に相談までしてくれた。
「ダックスフンドは足が短いので地面に付きますね。コーギーはペットは普通断尾(尻尾を切ること)するんですが、していないと地面に付くぐらい長くなるかも」
どちらにせよ、ダックスフンドもコーギーも足が短い種類。友人による足が長かった、という目撃証言からずれてしまう。やはり犬でもないのか。
ハクビシン説、飛び出す
「ねこたま」「いぬたま」の近くにはさらに「たまいたち」というフェレットを集めたスポットがあった。ペットとして飼われるフェレットは猫よりも小さいという情報を得ていたためノーマークだったが、念のため訪れてみる。
「そうですね。フェレットは大きい子でも3kgぐらいですから、猫よりも小さいですね」
とスタッフの方。確かに猫よりも二周りぐらい小さい。ただ、観察していると背中を丸めるような歩き方が例の生き物に似ている気がした。フェレットはイタチの一種。もしかして探す動物はイタチ科系の動物なのだろうか。
「フェレット以外で都内にいそうなイタチ科の動物ですか? うーん。あ! イタチ科ではないですが、神奈川の実家の近くでハクビシンを見たことがあるんですよ。ハクビシンだと尻尾も長いし、サイズも猫以上犬未満って感じですよ」
ハクビシンといえばSARSが流行したときその感染源ではないかと疑われた動物。イタチ科ではなくジャコウネコ科だが、確かに尻尾がぐぐーっと長い。
ハクビシンはペットとしても愛好家がいるらしい。もしかしたら……。いよいよ現場調査です。
再び現場へ
夜とは違い、昼間の現場周辺は割合に人がいた。ゴミの回収車、犬の散歩、幼稚園のお迎え。普通の住宅街だ。
ここでまたあの不思議な姿を見ることは出来るのか。ホシは現場に必ず戻って来る。例の生物は別に何か犯罪を犯したわけではないのだが、なんとか戻ってきてほしい。
「もしかして捕まえようとしてんの? やばいよ、危ないよ、危険だよ、コレ」
友人のこの言葉を思い出し、見つけても捕獲はしない方向に決めた。最終目標はその実体の撮影だ。カメラを握りしめ、捜索を開始。
ペット探偵の探し方を参考に
捜索の参考にしたのは以前ライター梅田さんによる特集「ペット探偵に挑戦!」。迷いペット探しのプロに同行している。探偵さんにならって、茂みの中や階段の下など細かくて地味な部分を探していく。
しかしこの辺り、猫すら見かけない。カラスもスズメも少ない。緑は多いのだが不思議だ。すぐ近くに大通りがあるからだろうか。
目撃情報を集める
探しながら、散歩をしている人やお店の人に例のイラストを見てもらって話を聞いてみた。
「あのう、このあたりにこの絵みたいな不思議な生き物がいるという目撃情報を受けて調査しているんですが」
ちょっと言い出しづらく、目撃情報はいかにも外部から寄せられたかのように言ってみる。不審がって相手にされないんじゃないかと不安だったが、意外にも皆さん興味津々。ノリノリで答えてくれた。
そして聞き込みを続け得るうちに何件か興味深い情報も出てきた!
証言1 お米屋の女将さん
「うちは主人が配達でこの辺りは細かく回ってるけど、そうゆう話は聞いたことがないわねえ。お喋りな人だから何かあったらすぐに話すと思うんだけど。ふふふ」
–そうですか……。あ、この辺って猫少ないですよね? 昔からそうなんですか?
「いや、そんなことないですよ。この裏の公園に近所の人みんなで野良猫の面倒をみているグループもいるし。ときどき大きな猫もいるわよ」
大きな猫。なるほどその可能性もある。期待を込めて公園に行ってみた。が、野良猫の姿は一匹もなし。
もしかして、このあたり猫が減っている? 例の動物が辺りに生態系を壊しているんじゃないか? 一抹の不安がよぎる。
証言2 コンビニの店員さん
「うーん、このイラスト通りの動物は見たことないわねえ。ごめんなさいねえ。あ、でもこの辺りは変わったペットを飼ってる方が多いですよ。ときどき連れて買い物にくる人もいます。もしかしたらそうゆうペットが逃げたんじゃない?」
変わったペットが多い。やはりペットのハクビシンが逃げたのだろうか。
因みにハクビシンは雑食性。日本ではみかん農家で被害が出るなど果物が好きなようだが、昆虫や小動物も食べるらしい。小動物……。ペットとして躾られたハクビシンがそんな豪快な食事をするとは思えないが……。
目撃者、いました!
さらに捜索と聞き込みを続行。どこを探しても猫がいないという怪現象はそのままだ。捜査範囲は目撃場所から半径50mぐらいに絞って行っていた。もう少し広げた方がいいだろうか、そう考え始めたときついに目撃証言が!
証言3 現場近辺に暮らす方
「私じゃないんだけど、近所の方がこの辺りでアライグマを見たって話は聞いたわね」
–えっ、アライグマですか?
「いや、本当にアライグマかどうかは分からないらしいんですけどね、顔が細くて鼻筋が通ってたって」
–おお、私達が見たのと近いみたいです。いつ頃ですか?
「2,3週間ぐらい前かしら。夜だったっていうからあんまりハッキリ見えなかったそうだけど」
はっ! そう言えば、私が目撃したのも夜。アライグマもハクビシンも夜行性だ。こうなると、捜索時間を夜間にした方が現実的かも知れない。
夜の捜索
そういった訳で日暮れから捜索を再開することに。懐中電灯と軍手着用で挑む。
日中回った辺りをもう一度丹念に回る。目撃時間は夜中の1時ごろだったのだが、さすがにその時間一人で捜索するのもはばかられる。どうかなと思いつつ20時ごろスタート。
この日はなま暖かい風が異様に強く吹いていた。空は雲が覆い、その隙間からときどき月光がさしてチラチラあたりの光度が変わる。住宅街は暗く人通りも昼間に比べるとずっと少ない。……こわい。
ひと通りまわってみたが、人もいなければ猫もいない。アライグマもハクビシンもいない。私しかいない。
米屋の女将さんが猫がたくさん集まるといっていた例の公園にもやって来た。勇気を振り絞って茂みをかき分けてみたが、やはり何もいない。
……? 誰か、いる?
ふと人気を感じた。振り向くと、茂みから少し離れたところにあるベンチに、人が。何をするでもなく、ただ手をひざに置いて座っている。わあー!
驚いて走って逃げた。いや、逃げたという表現は失礼だ。ただ単に公園で休んでいただけだろう。
結ビビって帰ってきてしまった。家に着くと、テレビで「トリビアの泉」がやっていた。なんだよ、まだ22時かよ。
結局、謎の生物は見つからなかった。ハクビシンだったのか、アライグマだったのか、それともまた別の何かだったのか……。怖いので調査は続行せず謎のまましばらく放っておこうと思います。
夜の21時があんなに怖いと思ったのはいつぶりだろう。
UFOとか、超能力とか、その手のものを実際みたことがない。今回の未確認生物の目撃が人生初のトンデモ体験だ。その手のものを「絶対いる!」と主張する人の気持ちがよく分かった。だって、本当に見たんだよ。
もろもろ考えても、ハクビシンという説はかなり近いところまでいっていると思う。が、もう本当、怖い思いをしたので当分は未確認生物については忘れて日常を生きていきたいと思います。
なんとなく、忘れた頃に現れる気がする。