地味な実況になりそうです。
アメリカ現地時間の今週金曜、いよいよNASAのスペース・ローンチ・システム(SLS)ロケットにとっての重要なテストが始まります。しかし、そのリハーサルのライブ配信はセキュリティ上の懸念から音声なしになることが明らかになりました。確かに今は不安定な時勢ではありますが、専門家からはこの対応はやりすぎだという声もあがっています。
SLSがケネディ宇宙センター内の39B発射台にロールアウトされてから2週間近くが経ちました。高さ322フィート(約98m)のロケットが晴れ舞台に向かう準備はもう少しで終わりそうです。あとは推進剤をタンクに充填して打ち上げチームがカウントダウンを行なう“ウェット・ドレス・リハーサル”の成功を待つのみです。
つい先日行われた記者会見で、NASAの探査システム開発のTom Whitmeyer副次長補は「これが打ち上げ前の最後の設計検証」だと語っていました。「何か学べるかもしれません」とも話しましたが、最終的な目的は「カウントをうまくやり遂げること」と実際のテスト中のSLSのパフォーマンスを見ることです。リハーサル後にはデータの評価が行なわれ、すべてがうまくいったと仮定して、SLS初の打ち上げ(アルテミス1ミッション)の日程は4月11日~の週に発表されることになりそうです。
リアルタイムでは詳細情報を追えなさそう
ウェット・ドレス・リハーサルは、東部標準時4月1日(金)午後5時(※日本時間では、4月2日(土) 朝7時)に始まり、タンクの排出は4月3日(日)午後4時30分ごろ(※日本時間4月4日(月)朝6:30ごろ)に終わる予定です。NASAはテスト自体の配信をYouTubeのKennedy Newsroomチャンネルから行いますが、プレスリリースいわく「音声とコメンタリーはなし」になるとのこと。またWhitmeyer副次長補は記者たちに、今回はカウントダウンの詳細な情報を与えられないとも説明していました。
控えめに言っても驚くような対応ですね。ウェット・ドレス・リハーサルの間はさまざまな物事が進んでいきますが、今回はリアルタイムでは追えないようです。NASAはArtemis blogなどSNSプラットフォームを通してアップデートを発表していくようですが、どの程度まで情報を共有してくれるのかはわかっていません。
配信をオーディオなしで行なう理由は、機密情報の共有や“輸出”に関わる国際武器取引規則(ITAR)上の懸念と関係があるようです。SLSの場合、アメリカのライバルが「弾道ミサイルシステムの開発に役立つ極低温燃料の情報を推測できてしまう」とWhitmeyer副次長補は語っていました。そのためNASAは「我々が行なうオペレーションの具体的な特性を不注意に示唆してしまうような、特定のタイミングやフローを避ける」そうです。
Whitmeyer副次長補は、“最近の情勢”を踏まえてNASAが特に用心深くなっていると付け加え、機密情報開示の危険を冒せないとコメント。ロシアのウクライナ侵攻と、北朝鮮の発射実験のことを指しているのでしょう。
しかし、ITARを理由にオーディオ配信も詳細な情報共有もしない方針には、異議を唱える声が上がっています。米国内のいくつもの企業がカウントダウンを配信していたという指摘や、そもそも極低温保存の液体燃料は弾道ミサイルで使うには問題があるという指摘など。
かつてメディアに提供されていた資料は、こんなに詳しく書かれていたものだったとか。
ハーバード・スミソニアン天体物理学センターの天体物理学者、Jonathan McDowell氏も、今回の対応には納得していないようで、「このようなセキュリティ上の指示が技術的な理解を伴っていない人によって出されていることや、そのために自由なコミュニケーションが妨げられるなんて、その指示が防ぐどんなリスクよりも有害だ」と米Gizmodoへのメールで語っていました。
メディア向けには今週後半にカウントダウンの全体スケジュールが提供され、テスト後の現地時間4月4日(月)には記者会見も行なわれる予定。
実際の打ち上げでは音声が提供されるそうですが、ちょっと不安ですね…。