隔離生活期間中、動画配信サービスにはずいぶんお世話になった。個室にこもって映画三昧、出かけられないストレスを映画鑑賞で発散することができた。
楽しく映画を見るために、私(佐藤)は独自の鑑賞方法を編み出した。それが「DJ映画鑑賞」である。何を見るかを自分で決めずに、アマゾンプライムビデオの「〇〇を視聴した方へのおすすめ」にしたがって作品を選ぶ。まるでDJが聞かせたい曲を選ぶみたいだから、そう呼ぶことにした。
DJ鑑賞を実践してみたところ、見知らぬ作品と出会える楽しさがあったので、皆さんにもオススメしたい。私がDJ鑑賞した作品は以下の4本である。
・9人翻訳家 囚われたベストセラー
まず最初の1本は自分で決めなくてはならない。何か作品を見ないと「〇〇を視聴した方へのおすすめ」につながっていかないからだ。そこで1本目は療養隔離中に私にふさわしく、隔離される作品を見ると決めた。そうして選んだのが、『9人翻訳家 囚われたベストセラー』(フランス)である。
この作品は世界的ベストセラー小説の世界同時出版を控え、9カ国の翻訳家9人が集められて、隔離された環境で翻訳作業にあたるという物語。情報漏洩を恐れた出版社社長が、徹底した管理のものとで翻訳を進めるのだが、社長の元に作品全編の流出をほのめかす脅迫メールが届いた……。
9人のうちの誰かが脅迫犯。物語の前半は犯人捜し、犯人が判明した後半には意外な事実が待ち構えている。フランス映画独特のトツトツとした進行で、序盤はなかなか作品に入り込めないけど中盤から一気に物語が加速して、最後には想像を超える結末を迎える。
隔離生活中の自分と重ね合わせてみていたので、翻訳家たちが憔悴(しょうすい)していく様子に共感してしまった。秀逸なミステリー作品である。
・アメリカン・アニマルズ
2本目からアマプラのおすすめだ。1本目に続いて鑑賞した作品は『アメリカン・アニマルズ』(アメリカ)だ。
2004年にアメリカ・ケンタッキー州で実際に起きた強盗事件を再現した作品。驚くのは作中のインタビューに、犯罪は関わった4人と被害女性が出演していることだ。まさか被害女性までインタビューに応じているとは。
大学の図書館に所蔵されている超高額なヴィンテージ本を盗むことを企てる4人の学生。入念に計画を立てるものの、実行に移す段階で思わぬ事態が相次ぎ、強盗計画は……。
この作品はとても怖かった。というのは「失敗する」と半分くらいわかっていながら、計画を止められなくなってしまうのである。「お前らやめとけ」と、画面に向かって語りかけてしまったほどだ。これが実話だったなんて、怖すぎる……。
・ギルティ
3本目のおすすめは「ギルティ」(デンマーク)だ。
緊急通報指令室のオペレーターが受けた1本の通報。電話口の声はおびえる女性のものだった。聞こえる声と音だけを頼りに誘拐事件と判断し、そこから事件解決の糸口を探る。
物語の舞台は全編、緊急通報指令室のみ。事件の様子は電話からしか伝わってこない。つまり、被害女性も犯人も一切画面に登場しない。それなのに、ありありと現場の様子が伝わってくる。
作品は最初から最後まで緊迫感が漂っており、見終わる頃には手に汗を握っている。イヤホン推奨、部屋を暗くして見るとさらに没入できるはず。
・ラスト・ディール 美術商と名前を失くした肖像
そして4本目は「ラスト・ディール 美術商と名前を失くした肖像」(フィンランド)である。
美術商の老人は商売をたたむ頃合いを感じていた。せめて最後に大きな取引をしたい、そう考えていた矢先に孫の職業体験を引き受けることになる。最初は孫と折り合いが合わなかったものの、あるオークションで見つけた作品をきっかけに2人は協力し合うようになる。作者不明のその作品が高名な画家のものであることを突き止めて、何とか金を工面して落札するのだが……。
心温まるニューマンドラマ、と言いたいところだが、家族を顧みずに美術品に没頭した挙句に、さらなるポンコツぶりを露呈する老人に思わず失笑してしまう。そうであればこそ、人間らしいんだけどね……。
・予備知識ゼロ、共有しない
おすすめにしたがって作品を鑑賞したら、レンタルビデオの「ジャケ借り」を思い出した。ジャケ借りとは、作品の予備知識ゼロでジャケットとお店の説明文だけを頼りにして、レンタルすることだ。当たりハズレはあるけれど、それを探し出すのが楽しい。
最近は映画でもなんでも情報量が多くて、見る前から必要以上に作品の知識をつけてしまう場合が多い。そうすると安心感はあるけど、予期せぬ物語にハッとするようなことが少なくなってしまった。想像力が働かなくなって、全部似たように作品に見えてしまう。
またSNSの影響もあるんだろうけど、なんでもかんでも共有したがってしまうのも問題だろう。誰とも共有できない作品を見たっていいじゃないか。話題性の高さだけが作品の良し悪しを決める基準ではないはず。
作品の予備知識がなくてもいい。誰とも共有できなくてもいい。出会う作品を通して、自分なりの感想を持つことができれば、それで良いのではないだろうか。無名でも自分に響く作品と出会えれば幸せだと思う。
参考リンク:アマゾンプライムビデオ、9人の翻訳家、アメリカン・アニマルズ、ギルティ
執筆:佐藤英典
イラスト:Rocketnews24