会話をしている時に、ふとしたはずみで人や物の名前が思い出せず「なんて言ったっけ……喉まで出かかっているのに!」ともどかしい気持ちになったことがある人は多いはず。この「とっさに言葉を思い出せない」という現象はグループ内で発生しやすく、他人に伝染する可能性があると、カナダのローレンシャン大学で心理学を研究するリュック・ルソー教授が解説しています。
That ‘tip-of-the-tongue’ feeling when a memory is elusive is more likely to happen in groups
https://theconversation.com/that-tip-of-the-tongue-feeling-when-a-memory-is-elusive-is-more-likely-to-happen-in-groups-165146
「思い出そうとする言葉や名前が喉まで出かかっているのに思い出せない」という現象は、心理学で「舌先現象」と呼ばれます。この舌先現象は軽い記憶障害の一種で、記憶を脳から読み出す際にエラーが発生した現れだとされています。
舌先現象は思い出したい単語が自分の記憶の中にある可能性を推量するためのものだとされており、さまざまな手がかりをきっかけに記憶の中から特定の単語を探りだそうとしている状態にあるそうです。実際に1966年に発表された研究では、舌先現象で悩んでいる時に人はその単語の頭文字や音節数、似ている単語を思い出しやすくなることが判明しています。
ルソー教授がローレンシャン大学の学生48人を対象に実施した調査によれば、調査に参加した学生の96%は過去6カ月以内に、誰かと会話している時に舌先現象に遭遇したと答えたとのこと。そこで、ルソー教授の率いる研究チームは、参加者に80個の一般常識問題を提示する実験を行いました。
この実験ではまず、4人グループの参加者に常識問題が出題されました。参加者はそれぞれ渡された解答用紙に「答えは○○です」「わかりません」「舌先現象が起こっている(わかるけど答えを思い出せない)」の3パターンのどれかで答えました。次に、研究チームは同じやり方で、グループではなく1人の参加者に常識問題を出題しました。
実験の結果、参加者の舌先現象を経験した回数は、4人グループだと1人当たりで平均6回だったのに対して、1人だけの場合は平均2回だけだったことがわかりました。このことから、ルソー教授は舌先現象は1人でいる時よりも、他人と情報を共有する時に発生しやすい可能性を指摘しています。
さらに、ルソー教授によれば、実験で、同じ質問に対して複数のグループメンバーが舌先現象を経験したのは「グループメンバーが会話をしていた場合」だったとのこと。このことから、ルソー教授は「舌先現象は社会的に伝染するのかもしれない」と論じています。
例えばグループで会話している時に、誰か1人が「あれだよあれ……ほら、なんだっけ?」と舌先現象を起こして推量を始めると、あたかも他の人に舌先現象が伝染するような状況になることがあります。1人の舌先現象が他人にも伝染してしまう可能性について、ルソー教授は「1人よりも、集団の方が記憶するデータの総量は多くなります。つまり、1人よりも集団で推量した方が、目的となる単語を思い出しやすいのです。1人でいる時よりもグループでいる方が思い出したい単語にたどり着きやすくなり、同時にその推量が同じグループメンバーにも舌先現象を誘発させるのかもしれません」と述べました。
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