ウィーンに本部を置く国連薬物犯罪事務局(UNODC)は22日、「ウクライナの紛争:人身売買と移民の密輸のリスクに関する重要な証拠」(CONFLICT IN UKRAINE: KEY EVIDENCE ON RISKS OF TRAFFICKING IN PERSONS AND SMUGGLING OF MIGRANTS)という調査報告を公表した。
UNODCは国連システムの中で人身売買問題を扱う主要機関だ。ロシア軍のウクライナ侵攻から1カ月が過ぎたが、ウクライナ国内から何百万人もの人々、主に女性と子供たちが家を追われ、国内外に避難している。UNODCは、「戦争が長期化すれば、避難民が人身売買の犯罪ネットワークの標的となるリスクが高まる」と警告を発している。
ウクライナから国外へと避難した難民の数が350万人を超えた。ウクライナのゼレンスキー大統領が18歳から60歳までの男性に対しては祖国の防衛に従事するように要請したこともあって、ウクライナ難民の9割は女性と子供だ。そういうこともあって、人身売買のターゲットになる危険性が指摘されている。ウクライナ難民の人数は24日時点で355万人。行き先はポーランドが最も多く、211万人を超えた。他にはルーマニアが約54万人、モルドバが約36万人、ハンガリーが約31万人となっている
UNODCのガーター・ワーリー事務局長は、「犯罪者は戦争の混乱と被害者の絶望的な状況を利用する。危機は、困窮している人々、特に国内避難民などを搾取する機会を増やす一方、紛争から逃れた人々、特に女性と子供は、人身売買の危険にさらさられるわけだ」と説明する。
UNODCが2006年以来収集してきた人身売買の事例に関するグローバル・データによると、女性が人身売買業者の主な標的であり、主に性的搾取にさらされている。同時に、人身売買の犠牲となる子供の数も増加している。少年と少女は現在、人身売買被害者の約3分の1を占めており、その割合は過去15年間で3倍に急増している。ウクライナ危機では、何千人もの子供たちが両親や保護者の同伴なしで避難していると推定されており、人身売買やその他の虐待のリスクが排除できない。
UNODCの人身売買防止の専門家によると、難民を受け入れる国は、人身売買グループのリスクを認識し、教育や育児などの重要なサービスや雇用の機会へのアクセスを提供する必要があると助言している。
ウクライナ難民を受け入れる欧州は、中東・北アフリカから100万人以上の難民が殺到した2015年の時のように難民申請で時間を取らず、入国手続きを簡易化し、新しい身分証明書だけではなく、労働許可証まで発行している。例えば、オーストリアでは、就学年齢の子供には短期間の言語学習の後、地元の学校に通学できるように便宜を図っている。
ちなみに、欧州連合(EU)の「ダブリン規則」によれば、亡命申請者は最初に到着したEU国で国際保護の申請を義務付けられているが、ウクライナ人には適用されない。EUに到着するウクライナ難民の法的枠組みは、他の非EU諸国からの難民、庇護申請者、および移民に適用される枠組みとは異なっている。ある意味で特別待遇だ。
ただし、ウクライナ西部リヴィウなどに避難してきたウクライナ人(域内難民)がロシア軍の攻撃が激しくなってきたこともあって国外に避難する者が増えてきたため、国外避難民の数は今後も増えると予想される。彼らが適切にサポートされない場合、人身売買グループの手が伸びるわけだ。
なお、ウクライナ人を狙った人身売買は今回のウクライナ戦争前から既にビジネス化されている。ウクライナとヨーロッパおよび中央アジアの国々との間で犯罪ネットワークが存在する。彼らはウクライナ人を国際ネットワークを利用して人身売買している。
UNODCグローバルデータベースによると、2018年にウクライナの犠牲者が29カ国に人身売買されている。半分以上がロシア連邦で、4分の1がポーランドで確認されている。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2022年3月26日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。