【隔離生活】3月22日、家に帰る / 施設療養を終えて

ロケットニュース24

3月22日午前10時、東京・有楽町の感染拡大時療養施設から出られることになった療養期間は発症から10日間、施設に入って1週間。前日に保健所から電話があって、その時間に出られることを告げられた。

前日はソワソワしてなかなか寝付けなかった。そもそもここに来てまともに睡眠をとった気がしてない。朝8時に再度確認の電話を受けて、9時55分には身支度完了。キャリーバッグを引きずって、退所受付へと向かった。

・雨降り

受付で部屋の鍵とパルスオキシメーターを返却。「お世話になりました」とスタッフに挨拶をして、ゲートの警備員に会釈をして、敷地の外に出た。

施設内には外がまともに見える窓がなく、周囲を塀に囲まれている。塀の内側に自販機があって、そこから少しだけ外を見ることができた。わざわざ買わなくてもジュースはタダでいくらでも飲めるのに、外が見えるから自販機でコーヒーを買ってたんだよ。1日に2~3度コーヒーを買って、空を見上げるのが楽しみだったんだ

あっち側に東京国際フォーラムがあって、さらにその先の方にいくと、iPhone行列で馴染みの深いドコモショップがある。ここら辺のことは良く知ってんだ。その昔、銀座にも勤めてたことがあったからな。


退所の2日前くらいから、外に出ることを思い描いていた。青空を見上げながら「久々の娑婆(しゃば)か~」なんてつぶやく予定だったのに雨だよ。アプリの天気予報を見たら、午後から雪とか言ってやがる。

ふざけんなよ、傘なんか持ってねんだよ。家からタクシーで施設に直行だったし、1週間前は桜が咲くんじゃないかと思うほど暖かかったから手袋も持って出てない。さみいだろうが。


退所したことをSNSでつぶやかないとな。それから社内連絡でみんなにも伝えないと。横須賀で買った真っ赤な鳳凰の刺しゅうの入ったスカジャンを着て、コロナの療養生活に突入した男。全身写真を見ると我ながらおかしい。


何が見たいって訳じゃないけど、銀座の街を見たい。にぎわっている街の様子に触れたかった。傘がないから地下を通らないと。道すがら、訳のわからないディスプレイが目に入った。何だろうなコレ。なんだかわかんないけど、銀座っぽいな



芸術の類は一切解さないけども、これらのオブジェクトはここにあっても不自然な感じがしない。芸術が街に馴染むのは、きっと街のレベルが高いってことなんだろうなあ。少なくとも鳳凰のスカジャンを着ている男がここにいるよりはふさわしい

三越まで来たところでなんだか安心したので帰るとしよう。


・霙、雪

一旦有楽町駅まで戻って山手線で東京駅に出て、そこから中央線で中野へ。


電車の音とかホームのアナウンスとか、行きかう人々とか。1週間ぶりの喧噪で疲れるのかと思ったけど、一瞬で慣れた。1週間程度の世離(よばな)れでは、なんの影響もないか。

中野駅止まりの快速に乗って席に着き、キャリーを股に挟んでリュックを胸に抱えて、電車が走り出したら寝てたらしい。ハッと気づくと「中野~中野~」のアナウンス。中野止まりに乗ってなかったら、高尾山まで行ってたかもな。


改札を出ると雨は霙(みぞれ)に変わってた。ふざけんなよ、なんで降るんだよ。幸い、改札出てすぐのところに傘のレンタルサービス「アイカサ」があった。ジップロックの傘を1本借りて帰ることにした。


霙はいよいよ強くなって雪に変わってる。3月22日は春だろうが……


さて、帰ってもゆっくりしてられないぞ。まずは洗濯、全部洗わないと。1週間分の着替えをバッグからひっくり返してゴミ袋に詰め込んで、コインランドリーへ。家では洗えないし、この天気じゃ乾かせない。洗濯している間に荷物を全部除菌シートで拭き上げて、パソコンをはじめとする仕事道具を設定して、その合間で何かを食おう。

帰る前に喫煙所でアイコス吸った。あれほど吸いたいと思っていたのに、ひと口目の不味さにめまいがして吸いきれなかった星児と同じように禁煙の予感がしている……。

こんな不味いものを切望していたとは信じられない。とはいえ、不味さに負けずに吸う決意を固めた、負けてらんねえ


・来年は見に行こう

そういえば、うちの近所の梅は入所前に咲きかけていたけど。


……もう散ってた……。


片付けをおおむね済ませたところで、猛烈な眠気に襲われて横になった。入所後に妻が布団を整えてくれていたので、フカフカの布団で横になることができた。重くて暗い眠り、垂直に落ちていくような眠り。熟睡の底からどうやって浮上したのかわからないけど、時計を見ると18時になろうとしていた。


玄関の開く音が聞こえたので、身体を無理やり引っ張り起こして出てみると……。


「あら、おかえり」


妻が帰ってきた。


「ただいま。おかえり」


「声、出るようになったね」


「うん」


その晩、食べたいと伝えていた刺身を用意してくれていた。施設じゃ生魚食えなかったんだ。それがとても美味かった。本当に美味しいものって、こういうものを言うんだろうな


2年前の今日、3月22日。茨城県の「古河総合公園」に2人で桃まつりを見に行ったんだ。


来年また一緒に行こう。3月22日は雨が降っちゃダメなんだ、晴れておけよ

執筆:佐藤英典
Photo:Rocketnews24

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