失恋ソングといえば “マッキー” こと槇原敬之。槇原敬之といえば失恋ソング。……異論は認める。ただし今の私、P.K.サンジュンほどマッキーが刺さりまくっている男は、この世界にもそう多くないことだろう。
なぜなら私は完全にフラれてしまったから──。そう、丸亀製麺の「あさりうどん」に。昨年は来年こそ会えると信じていたが、まさか2年連続で「あさりうどん」に会えないとは……。もう恋なんてしない……そう言いたくなるのもご理解いただけるハズだ。
・愛し合っていたハズなのに
何を食べてもハイレベルな丸亀製麺において、頭1つ……いや、頭6つくらい飛び抜けたウマさのあさりうどん。毎年この時期にだけ降臨する “春の女神” である。実は私は2017年から密かに「あさりうどん」と付き合っていた。異論は認めない。
年によってはバターが無くなりケンカもしたが、それでも私はあさりうどんを愛していた。きっと彼女も同じ気持ちだったと思う。なぜなら私とあさりうどんが交じり合うたび、細胞レベルの悦びを感じたからである。私とあさりうどんは2人で1つだったのだ。
ところが──。
・青い春、終わる
2021年、つまり昨年の春、あさりうどんは私の前に現れなかった。正確に言うと、私が通うエリア内の丸亀製麺では販売されなかった。おそらく丸亀製麺の中にいる誰かが私に嫉妬したのだろうが、むしろ私たちの愛は深まるばかり。「来年こそは絶対に会おう」と誓い合っていた。
しかし、彼女とは今年も会えていない。むしろ私のエリアから遠ざかっているではないか。そういうことなのか、あさりうどん──。イヤならイヤとハッキリ言ってくれれば良かったのに……ならば俺も男らしくお前のことを忘れよう。今までありがとう、あさ美──。
・あさりうどん級のイイ女
とか言いながら、これほどの大恋愛をすぐさま切り替えられるほど私は強くない。彼女のことを忘れたいなら新しい彼女を作ることが1番手っ取り早いハズ。そこで目を付けたのが、リンガーハットの “あさりちゃんぽん” こと『あさりとほたての旨ダシちゃんぽん』だ。
実は昨年、私はあさりちゃんぽんと関係を持っている。そのウマさはあさりうどんにヒケを取らず、総合力は甲乙つけ難い。例えるなら、あさりうどんがあさりだけ勝負する「天然美人」で、あさりちゃんぽんはあさり以外の具材も上手に使った「ハイブリッド美人」となるだろうか。
どちらもイイ女であることには変わりなく、あさりちゃんぽんは深く傷ついた私を慰めてくれるに違いない。幸いにもあさりちゃんぽんは近所のリンガーハットに出勤していたため、私は偶然を装って最寄りの店舗を訪れた。
・1年ぶりに愛し合う
たっぷりのあさりとホタテを身にまとったあさりちゃんぽんは、相変わらずいい女である。冷静なフリをしつつ、優しくあさりちゃんぽんに口を付けると……。
ウ、ウマい……。
あさりとホタテの旨味に加えて、今年は生姜の風味が効いている。さらに磨きがかかったな、あさりちゃんぽん。方向性は違えど、あさりちゃんぽんも最後の1滴まで飲み干したくなるほど、スープがウマい1杯である。
さらにいえば “あおさ” があさりちゃんぽんをさらに際立たせていた。磯の香りのマリアージュ。あさりちゃんぽんもまた、1年合わないうちにさらに美人度が増している。彼女も私にとっては大切な存在だと思い知らされた次第だ。それでも──。
・もう恋なんてしない
あさりちゃんぽんと過ごす時間は確かに楽しいが、やはりあさりうどんのことも忘れられない。会いたいよ、あさ美──。もう本当に俺たちはこれっきりなのか? 2度と会えないのか? こんなに苦しいなら、いっそ出会わなければ良かったのかもしれない。
さよならと言った君の
気持ちはわからないけど
いつもより眺めがいい
左に少し戸惑ってるよ
もし君に1つだけ
強がりを言えるなら
もう恋なんてしないなんて
言わないよ絶対
──Fin──