ロシアとウクライナで、記事を無料開放するニュース企業たち

DIGIDAY

ウクライナ情勢のニュース配信では、パブリッシャーの一部がいま、ウクライナとロシア両国の読者が無料で閲覧できるよう有料コンテンツの制限をなくし、新たな専用チャンネルを設置して記事を公開している。

同様の施策として、多くのパブリッシャーが新型コロナウイルス関連の記事を無料配信してきた。しかしロシアのウクライナ侵攻の報道については、これまでとは異なる戦略がとられ、ダウ・ジョーンズ(Dow Jones)、フィナンシャル・タイムズ(Financial Times)、エコノミスト(The Economist)、ワシントン・ポスト(The Washington Post)などのパブリッシャーが、特定の地域限定でニュースの無料配信を開始した。対象となる読者数はそれほど多くない(よって、パブリッシャー事業のマイナス影響は大きくない)が、ニュースメディアが危機下の公共サービスとしての使命を認識して対応した一例だろう。

フィナンシャル・タイムズ(以下FT)が運営するサイトでは、ウクライナ情勢の主要ニュースは無料で閲覧可能だ。同社の最高商務責任者、ジョン・スレイド氏は次のように語っている。「我々の使命と目的には、危機的な状況下にある人々がすぐれた報道に接する機会の提供も含まれる。そのため、無料配信の決断は簡単だった。自社のビジネスモデルはさておいて、いまとるべき正しい行動とは? と、自らに問いかけた結果だ。たとえ収益につながらなくても、自由で開かれたジャーナリズムの成立が難しい地域に情報を発信できることは、我々にとっても望ましい」。

無料閲覧記事を増やすパブリッシャー

ワシントン・ポストの場合、無料配信は新型コロナウイルスと自然災害関連のニュースで実施済みだが、特定地域(ロシアとウクライナ)の読者限定の無料閲覧サービスは今回(2022年3月第2週から)が初めてだ。同社の広報担当者は「海外購読者の一部に影響が出ている」と述べたが、会員数の変動については明らかにしなかった。「当社は『報道の自由』の意義を信じる。だからこそ、紛争の影響が及ぶ国々、民主主義への挑戦を受けた国々に住む人々に情報を届けるという使命を果たすべく真摯に取り組んでいる」。デジタル分析プラットフォームのシミラーウェブ(Similarweb)が発表した統計データによると、ワシントン・ポストのサイト訪問者数は2021年2月から2022年2月にかけて、ロシアで119%、ウクライナで128%伸びた。

ダウ・ジョーンズ傘下のサイトでは、ロシアのウクライナ侵攻開始直後から、ウォール・ストリート・ジャーナル(The Wall Street Journal)、バロンズ(Barron’s)、マーケットウォッチ(MarketWatch)、ファイナンシャル・ニュース(Financial News)掲載の記事が、ウクライナおよび同国から多数の難民が流入している近隣諸国において無料で閲覧できるようになった(ダウ・ジョーンズの広報担当者からは具体的な国名と全購読者数に対する国別の構成比は開示されなかった)。シミラーウェブの統計では、ウォール・ストリート・ジャーナルのサイト訪問者数は2021年2月から2022年2月のあいだに、ロシアとウクライナでそれぞれ53%と36%という伸びを見せている。ダウ・ジョーンズの地域限定無料配信は初めてではなく、2017年に米国南部を襲ったハリケーン・ハービー関連の記事をテキサス州限定で無料公開した実績がある。

一方、ファイナンシャル・タイムズのスレイド氏によると、同サイトで2022年2月24日、ロシア向けに開始された無料記事配信では対象となる購読者が比較的少なく、「数千人程度で、1万人に満たない」という。シミラーウェブの統計では、ファイナンシャル・タイムズのサイト訪問者数は2021年2月から2022年2月にかけて、ロシアで42%、ウクライナで46%増加した。ロシアの軍事侵攻が始まった2月24日以来、ウクライナ情勢ニュースは、ほかのトピックと比較すると平均で3.5倍のページビューを記録している。経済制裁で購読料の決済ができないとしても、引き続きロシア在住の購読者向けに無料で公開するという。

エコノミストもロシアとウクライナ向けに無料記事を配信しており、シミラーウェブの統計によると、サイト訪問者数は2021年2月から2022年2月にかけてロシアで66%、ウクライナで197%伸びた。エコノミストが過去3週間にオンライン配信した記事の本数はそれ以前に比べ「約2倍に増えた」と、同社のデジタル・エディター、アダム・ロバーツ氏は語る。「ここ数週間、取り上げるトピックといえばウクライナ情勢ばかりだ」。

NYTとWP、テレグラムチャンネル開設

ニューヨーク・タイムズはいまのところニュースの無料配信はしていないが、テレグラム(Telegram)上でチャンネルを開設した。テレグラムはロシア人のドゥーロフ兄弟が2013年に立ち上げた暗号化メッセージアプリで、弟のパーヴェル・ドゥーロフ氏の投稿によると、ユーザー数は全世界で5億人を超えたという。

今回の紛争の関連情報を求めるロシア人とウクライナ人に人気のプラットフォームとなったテレグラムには、英語ニュースサイトのキエフ・インディペンデント(The Kyiv Independent)も、ウクライナ語ニュースサイトのウクラインスカヤ・プラウダ(Ukrains’ka Pravda)もアカウントを登録しており、それぞれ3万人以上のフォロワーを獲得している。テレグラムには広告の表示がなく、アカウント保有者は個人でも法人でも、パブリックまたはプライベートの設定で写真、動画、文章を投稿できる。ウクライナのヴォロドミール・ゼレンスキー大統領でさえ、自身のテレグラムチャンネルを開設している

ニューヨーク・タイムズが自社のテレグラムチャンネルを開設したのは2022年3月14日月曜日。ウクライナ紛争に関するライブブログ、写真、動画を無料で公開している。「このチャンネルを活用して、ほかのソーシャルメディアや当社のニュースサイトでは我々のジャーナリズムとの接点がなかった新たな読者層に、紛争の現場で取材した、事実にもとづく国際報道を届けたいと願っている」と、同社の広報担当者はいう。3月17日午後の時点で、チャンネル購読者(フォロワー)は3万7000人を超えた。なお、シミラーウェブ発表の統計によると、ニューヨーク・タイムズのサイト訪問者数は2021年2月から2022年2月のあいだに、ロシアで185%、ウクライナで108%増加している。

ワシントン・ポストは2022年3月15日、自社のテレグラムチャンネルを再開し(最初の開設は2020年7月)、ウクライナ国内と周辺で活動するジャーナリストによるライブ配信に加えて、米国、英国ロンドン、韓国ソウルのスタジオからのニュースを放送しはじめた。同社のグローバル・オーディエンス部門編集長、ソフィア・ディオゴ・マテウス氏はeメールで次のように述べた。「我々はこのチャンネルを、ワシントン・ポストの報道を全世界のオーディエンスに届けるための戦略的なツールととらえている。英語による報道で、ロシアとウクライナの紛争を中心に、現地からのレポート、ビジュアルコンテンツ、分析などを取り上げる」。このテレグラムチャンネルは3月17日午後の時点で、1万2000人を超える購読者を獲得している。

フィナンシャル・タイムズもテレグラムチャンネルを運営しており、紛争勃発後からウクライナ発のニュースを重点的に配信してきた。同社の広報担当者によると、購読者数は3万1000人に上り、そのうち14%がロシア語のユーザーだという。

[原文:How publishers are working to make their Russia-Ukraine coverage available to readers in those countries

Sara Guaglione(翻訳:SI Japan、編集:長田真)
Illustration by IVY LIU

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