建物と建物の間には「隙間」がある。
それは左の建物と右の建物を明確に分ける境界線であり、逆にどちらにも属さないファジーな領域でもある。そんな曖昧な存在である「隙間」の中に入ってみたい。それが自分にピッタリとくるサイズの「隙間」だったら、尚更気持ちいいんじゃないだろうか。
そんな訳で、会社の近所、銀座、新橋、と自分サイズの「隙間」を求めて彷徨って来ました。
ああ、隙間にはまりたい。
※2005年1月に掲載された記事を、AIにより画像を拡大して加筆修正のうえ再掲載しました。
お目当ての隙間は26.5センチ
東京は何かと建物が密集している。
かろうじて23区内、という閑静なロケーションにある僕の家だって、隣の家との距離はこんなに近い。
ほぼ1つ屋根の下、と言っても過言ではない。
お陰さまでご近所付き合いが苦手な僕でも、お隣りのFさんとはそれなりの関係を保つ事が出来ている。Fさんは毎週の様に食べ物をくれるのだ。先週も、お鍋にするといいわよ、というアドバイスと一緒に鴨肉とネギをもらった。
そんな我が家とF家の間でも「隙間」はちゃんと存在している。10センチにも満たない隙間ではあるが、その隙間によってかろうじて「うち」と「よそ」が分けられている。
そして町に目を向けると、家と家の間に、ビルとビルの間に、お店とお店の間に、隙間はそこら中に溢れている。
そんな隙間を見て思う。
あの中にすっぽりとはまりたい。
で、今回は自分にピッタリとはまる隙間を探す訳です。
お目当ての隙間の幅は26.5センチ。
僕の靴のサイズです。
この特製スケールを手に町に出て、片っ端から隙間に当てていく。
毎日の道で隙間を探す
まずは事務所から最寄りの駅までの道のりで隙間を探す事にした。
毎日通る道で自分サイズの隙間を見つける事が出来たら、毎日その隙間に入る事が出来る。
最初のターゲットは弊社事務所と隣りの建物の間に出来ている隙間だ。
早速スケールを当ててみる。
19センチ。
これでは狭すぎて入れない。ここに入れるのは猫くらいなものか。
まあ、いきなり自分サイズな隙間が見つかってしまったら、この企画がここで終わってしまうので、これはこれでよしとする。
駅へと向かう道すがら、目に入った隙間には全てスケールを当てていった。
少し話は飛びますが、インターネットって便利だと思う。楽しい情報が沢山あって、検索すれば欲しい情報に簡単に辿り着ける。そんな楽しいインターネット上でこうやって原稿を書かせてもらっている事はある意味、溢れる情報の中の隙間を探している様な作業なのではないか。だったら、いっその事リアルな隙間を探したらどうだろうか。そんな意味も含めて今回の企画な訳ですが……
そう簡単には自分サイズの隙間なんて見つからない。
毎日通る道で探す事はあきらめて、、次は商店が立ち並ぶ街、銀座へ行く事にした。
きっと銀座だったら自分サイズの隙間を見つけられるはずだ。
一応、駅のホームでも隙間を測ってみた。
うーん、中々ピッタリとは来ませんな。
な、なんと、銀座には隙間がない……
銀座にやって来た。
どれどれ、銀座の隙間はどんな具合ですかな……
と、ここで僕は衝撃的な事実を目の当りにしてしまう。
例えば下の写真、見上げればちゃんと隙間があるのだが、
目線を下に落としていくと…
隙間がコンクリートで埋まっている。
困った事に、隙間が埋まっているのはここだけじゃなく、どこの隙間を見ても同じ様に閉ざされてしまっているのだ。
隙間は閉ざされている。
「東京には空がない」
そして、銀座には隙間がない。
あまりにも徹底的に隙間が埋まっていたので、「隙間禁止条例」みたいなものがあるのかと思い、中央区に問い合わせてみた。
「銀座に隙間がないんですけど、条例か何かですか?」
特別そういう決まりはありません。各店舗ごとの判断で隙間を埋めているのでしょう。
との事だった。
まあ、おかしな人が隙間に入り込んだりしたら、色々と問題があるからだろう。繁華街は隙間を嫌うのだ。
すっかり行き場を失ってしまい、あてもなく銀座から新橋方面へと歩く。
どうか僕にジャストサイズな隙間を……。
新橋にあったよ
新橋に着いた。
ちょうどランチタイムという事もあり、サラリーマン風の人たちで賑わっていた。
「新橋西口通り」という商店街に入った。
するとすぐに、その隙間は見つかった。
自分サイズの隙間、発見である。
隙間を覗き込むと向こう側が見えた。
向こう側から去年の僕が覗いていたりして。そんな事を感じさせるほど、空気の流れも、時間の流れも、ここだけ捩じれてしまっている様だった。
そして、ゆっくりと隙間に入ってみた。
えへへ。
あまりにもピッタリなので、顔を動かす事は出来ない。
見えるのは目の前の壁だけで、カビ臭い匂いが充満している。
居心地がいいのか悪いのかハッキリとしないまま、しばらく隙間の中でじっとしていた。
真冬の夜、終電を逃したサラリーマンがタクシーを拾えずにいる。あまりにも寒いのでビルとビルの隙間に入ったら挟まれてしまい抜けなくなってしまう。
イッセー尾形さんのネタにそういう話があります。今回の企画は、その「ヘイ!タクシー」というお話にインスパイアされています。僕はイッセー尾形さんが大好きなので、いつか試してみたいと思っていたのです。今回、念願が叶い自分サイズの隙間を見つける事が出来ました。抜けなくなったらどうしよう、そんな不安もありましたが、お陰さまで無事でした。
ピッタリとした隙間をお探しで、靴のサイズが26.5センチの人がいましたら、是非、新橋西口通りへどうぞ。
いい隙間がありますから。