4月に就職し、初めてもらう給与はなかなか感慨深いものがあります。私は13万5千円といった水準だった気がします。2022年の大卒が21万円程度となっていますので55%上昇になりますが、38年前と比べるとなればと話は別です。これほど賃金が上がらない国もどうなのか、と思います。
それでも私はゼネコンで現場勤めの時は残業が青天井でつけられたし、6現場ぐらい掛け持ちで千葉県を拠点として栃木県から静岡県までカバーしていたので終業後に自家用車で拠点間を夜間移動する日々でした。これにより残業手当以外に自家用車の使用料手当がついたので最終的な手取りは文句を言えない額になっていました。賃貸住宅の家賃も会社が7割ぐらい払ってくれたし、昼は賄い(=料理する人を会社で雇って食材費だけ個人負担する形態)だったので支出が少なく済み、悪くない生活でした。
カナダに転勤してきた際、誰でも確定申告が求められるのですが、会計士から「日本の会社はfringe benefitが大きいから気をつけてください」と言われました。経理を担当する私はしょっぱなら意味不明だったのですが、初めて確定申告する時期に、ようやく理解しました。私が勤めていた会社を含め日本の企業は社員への付帯手当が多く、それらが全部給与所得扱いになったのです。
それで計算するとなんと私の給与は2000万円ぐらいになったのです。日本にいた時に年収800万円ぐらいだったと思うので2倍以上です。
また、日本の企業は海外駐在員に「ネット保証」という制度を取っています。海外転勤で税制度や税率が違う国に赴任した時に社員に不利が生じないよう、日本でもらうであろう手取りと同等の取り分になるように差額税額を会社が負担するのです。これは今でも変わらないはずです。
こう見ると日本の会社の給与水準が北米のそれに比べてどこまで見劣りするかは一様に比較できないのです。例えばこちらでは通勤費は出ません。多くの人は車や公共の交通機関で通っていますが、それは自腹です。そもそも労災の規定が違います。通勤中の事故は日本は労災対象、北米は労災になりません。
日本では業種により手当が多く支給されるところもありますが、それもありません。ボーナスは業種により違いますが、雇用条件にパフォーマンスボーナスが謳ってなければありません。会社の費用で社内交際費もありません。それ以上に北米では仕事が出来なければ「はい、さようなら」とあっさり解雇されるのです。本当にあっさりで、通知されたその瞬間、会社のメールは使えなくなり、会社へのアクセスも切られます。机の周りの私物をもってオフィスを出た瞬間、そのオフィスに戻ることはありません。
弱肉強食という言葉があります。あるいは北米の大学は入学は優しいが卒業できるのは2/3といった数でしょうか?4年で卒業できる学生は半分ぐらいという話もあります。つまり、北米は雇用の好条件で有能な人を引き付けるのが上手なのです。そこでものすごいふるいにかけて3年後には2-3割しか残らないのです。極論ですが、2-3割の有能な社員を確保するためにとにかく餅を蒔き、どうせ1-2年分余計に払えばよい人材を確保できるコストだという見方もできます。雇われた方も高給に甘んじることなくめちゃくちゃ頑張らないと生き残れません。だからアメリカのフルタイムワーカーの年間労働時間は日本よりずっと長いのです。勝ち抜き競争そのものです。
不幸なのは短期間でクビを切られても高給の味をしめた人たちです。俺の価値は年収10万㌦あると思ってしまうと再就職に手こずります。つまり、そこで我慢比べが起きて、ようやく「あぁ、俺の価値は6万㌦しかないのだな」と気がつくのです。北米の賃金は高いのですが、会社がそこまで儲かっているわけではなく、からくりがあるということです。
その点、簡単にクビに出来ない日本はできない社員はどうするのでしょうか?それは出向させるのです。ひどい時は出向先からさらに出向させられます。日本企業が「ケイレツ」を重視する一つの理由は人材転用先という実にうまい仕組みがそこに存在するからなのです。人事戦略は深いのです。
こう見ると北米も日本もどっちもどっちという気がします。ではお前は何ならよいと考えるのか、と聞かれれば自営かな、と思います。「その1」で自営業者が一生懸命働いている話をしました。仕事とはやらされるものではない、自分からやるものなのです。だから私の周りには週6で働く自営業者や起業者は多いのですが、誰もそれに文句を言いません。なぜなら仕事が楽しくてしょうがないからです。
カナダは特に自営する人に税制メリットや社会的支援が大きいのです。なぜ、北米でWeWorkが再び伸びてきているか、といえば自営と称する組織に戻れない腕自慢、能力自慢の人たちがそれだけたくさんいる、ということなのでしょう。
ならば日本の被雇用者はどうすればよいのか、ですが、私は一案としてできる部署はコントラクト、つまり業務契約にしてしまうのはアリだともいます。これだけやればいくら、です。やる気を持たせ、生産性を上げれば賃金も必ずついてくる、そういう目に見える形にするのが日本的ではないか、と思います。
2回に渡ってお送りした「賃金を考える」、どの世界もなかなか単純ではないということのようです。
では今日はこのぐらいで。