「敵基地攻撃能力」に名称変更案 – BLOGOS しらべる部

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ロシアによるウクライナ侵攻が始まって1週間が過ぎ、戦闘が続く現地では民間人2000人超を含む死者が出ていると報じられている。

予断を許さない状況が続く中、我が国をめぐる情勢も緊迫感が高まっている。防衛省によると先月27日には北朝鮮が日本海に向けて弾道ミサイルとみられる1発を発射した。今年に入って北朝鮮のミサイル発射は10回に迫る。

ミサイル防衛について、近年日本国内で議論されているのは敵の基地を直接破壊できる能力を意味する「敵基地攻撃能力」の是非だ。

岸田文雄首相は先月18日の衆院予算委員会で、敵基地攻撃能力の名称について、「概念が曖昧だ」とする指摘に対して変更を検討する可能性を示唆した。「敵基地攻撃能力」をめぐっては、立憲民主党の泉健太代表が1月のNHKの番組で「敵基地攻撃で何が防げるかを政権与党は説明しておらず、了承できない」などと語ったと報じられており、一部野党から保持に反対の声が上がっている。

「敵基地攻撃能力」とはそもそもどういうものか、BLOGOS編集部が防衛省に取材した。

岸田政権が重要論点とする「敵基地攻撃能力」

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防衛省報道室による「敵基地攻撃能力」の定義に関する説明は以下の通り。

「敵基地攻撃」とは、昭和31年の政府答弁において示されているように、「我が国に対して、急迫不正の侵害がおこなわれ」「誘導弾等による、攻撃がおこなわれた場合」「そのような攻撃を防ぐのに万やむを得ない必要最低限度の措置をとること、例えば誘導弾等による攻撃を防御するのに他に手段がないと認められる限り、誘導弾等の基地を叩くこと」であり、「法理的には自衛の範囲に含まれ可能である」としてきています。

つまり、政府は現状で日本が誘導弾等(=ミサイルなど)による攻撃を受けた際に、他に防御する手段がないと認められる場合などについては、敵基地を叩くことは「法理的に自衛の範囲に含まれ可能」とする見解だ。

昭和31年(1956年)の政府答弁というのは、防衛庁長官が代読した当時の鳩山一郎首相が「(ミサイル攻撃に対して)座して自滅を待つべしというのが憲法の趣旨とするところだとはどうしても考えられない」などと答弁した際のもの。これ以来、「敵基地攻撃能力」は議論の俎上に載せられつつも、具体的な装備の保有には至らなかった。

しかし2016年、17年に北朝鮮によるミサイル発射が相次いだことなどから議論が再び過熱した。岸田政権は、2021年10月の総選挙では政権公約に「相手領域内で弾道ミサイル等を阻止する能力の保有を含めて、抑止力を向上させるための新たな取り組み」を進めると明記。岸田首相は同月、防衛省に「敵基地攻撃能力も含めて、あらゆる選択肢を検討」するよう指示するなど、敵基地攻撃能力を岸田政権の安全保障戦略における重要なテーマとしていた。

「曖昧な用語を使った議論」に元防衛相が懸念

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先月18日の衆院予算委では、自民党の岩屋毅元防衛大臣が「敵基地攻撃能力」という名称について「あたかも敵の基地を攻撃するのか、しないのかということに焦点が当たっており、命題の立て方が好ましくない」と指摘。「概念が曖昧な用語を使った議論をすると、議論が矮小化、あるいは肥大化する恐れがある」と懸念を示して岸田首相に見解を求めた。

岸田首相は、名称に議論があることは承知しているとしたうえで、「国会で議論をする際に一般に広く用いられている用語を現時点では使用している」と説明。一方で「今後名称も含めて検討していくことは考えていかなければならない」と述べ、名称変更の可能性に言及した。

さらに、ミサイル技術が進化する中、「国民の命や暮らしを守るために何が求められるか、あらゆる選択肢を排除せず現実的に検討する」として、敵基地攻撃能力の議論を進める考えを改めて強調した。

1月のNHKの番組では敵基地攻撃能力の保持に立民、共産党の党首が反対した一方で、同じ野党でも維新、国民民主の党首は前向きな姿勢を見せたと報じられている。ウクライナ情勢による世界的な緊張の高まりを受けて、議論に変化はあるのか。先行きに注目が集まる。

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