GoTo再開 ホテルマンは歓迎せず? – NEWSポストセブン

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コロナ感染拡大でスタート後に中止となった昨年のGo Toトラベルキャンペーン(時事通信フォト)

 コロナの感染者数が激減し、ようやく経済活動の回復基調が見られるようになった。政府は再び「Go Toトラベル」を実施して、年末年始も見越した観光需要の促進を図りたい構えだが、現場は必ずしも歓迎ムード一色とはなっていないようだ。ホテル評論家の瀧澤信秋氏が、Go To再開に向けた問題点を指摘する。

【写真】感染対策に追われるホテル

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 秋の行楽シーズンに突入し、緊急事態宣言が明けてから人々の行動には一気にポジティブムードが広がっている。週末の高速道路は渋滞がニュースとなり、閑古鳥の鳴いていた新幹線や飛行機も実際に利用してみると、そこそこの乗車率・搭乗率を実感する。追って月次データなど確認する必要はあるが、上昇に転じていることは間違いなさそうだ。

まだホテル需要は回復していない

 他方、ホテルの料金は上がっているのかといえばそうでもない。エリアやカテゴリーにもよるだろうが、先般仕事で大阪へ出向いたときは、往時(ここでいう往時とはコロナ前の時期)なら2万円は下らなかったデラックスホテルのスーペーリアルームが6000円ほどで予約できた。

 需要が高まれば料金も上がることは経験則として分かっているが、料金が上がらないということは、いまだ稼働率が芳しくないことを物語っている。

 本来ならGo Toトラベルの内容に関係なく需要が喚起され、ホテルへ多くのゲストが訪れるのが一番だと考えるが、前回のGo Toトラベルでは確かにお得感を抱いて旅をした旅行者が多かったし、経営難に苦しんでいた事業者の「助かった、命拾いした」というリアルな声をたくさん聞いた。

 とはいえ、Go Toトラベルに概ね賛同はできても、実際の現場取材で見えてくる現実的な問題、シワ寄せがあったのもまた事実であり、ホテル評論家としてここで敢えて指摘しておきたい。

Go To再開前の予約状況は?

 いま、観光地のホテル支配人と話すと必ず出る話題が、“Go Toトラベル再開前の予約状況”についてだ。

「話題性の高い宿泊費補助などのニュースが拡散すると、スタートはまだ先なのに予約流入が冷え込むようになる」と漏らす。Go Toには及ばないが自治体の宿泊費補助に関する施策も同様だという。

 確かに、需要喚起のためには大きくニュースになることが必要であるし、いざGo Toトラベルがスタートすればペントアップ需要で予約が一気に集中するのは当然といえば当然である。

 わざわざGo Toトラベルを実施しなくとも旅行に行く人は行くという意見もあるが、やはり消費の起爆剤という意義からすると、より観光業界(および関連業界)に幅広く恩恵をという狙いがあるGo Toトラベルの先行きは気になるところだ。

 岸田文雄総理は「『Go To 2.0』という名称をつけて取り組みを進める」と構想を打ち出したが、Go Toトラベルを再開するのであれば、様々な問題が露呈した前回の施策をそのまま踏襲するのではなく、バージョンアップした形で展開したい考えだという。

終始ゴタゴタだった前回の失敗

 ここでいう前回のGo Toトラベルで露呈した問題とは、中小の事業者への恩恵が少なかったことや、土日や祝日に予約が集中するといった点などが挙げられる。

 宿泊業界からも前回のGo Toトラベルの反省から「ピークは除外する」「補助を小さくすべき」といった声も一部出てきている。ただし制度設計の段階において、これらをフォローしていくのは相当困難な作業であることは想像に難くない。

 前回を振り返ると、そもそもスタートの前倒しに始まり、複雑なシステムで朝令暮改的な改変も相次ぎ、現場は疲弊、非難が殺到したことは記憶に新しい。地域クーポン利用可能開始日にホテルへ届いておらず、事務局へ問い合わせの電話をしてもまったく繋がらず、困り果てた様子のホテルマンも数多く見た。

 また、感染拡大によって突如、都道府県単位で異なる適用を決定するも、エリアによって無料キャンセルの時期にズレが生じるなど、終始ゴタゴタがつきまとった。そうした反省からも、Go Toトラベルの再開にはかなり慎重を期すことが求められる。

 Go To 2.0は総選挙後も大きくクローズアップされそうであるが、特にマンパワーも限られている中小事業者の事情も鑑みれば、制度の周知期間を含めた対応について相当な準備が必要になるだろう。

再び感染拡大すれば「中止」が前提か

 また、前回露呈した別の問題として、「Go Toトラベルとコロナ感染拡大の因果関係の有無」についても意見が拮抗した。特に観光業界からは「直接的な関連はない」とする意見がデータと共に多く出されたものの、感染症の広がりによる中止という経緯もあり、それぞれの主張はその後も対立してきた。

 現在でも感染拡大の因果関係はGo Toトラベルの是非を問うテーマとしてクローズアップされ続けている。

 仮に因果関係が無いとすれば、今後の感染動向に関係なく推進されるべきだが、Go To 2.0においてもスタート後に感染が再拡大した際には再び中止することが前提にあるとされる。

 現状ではワクチンの接種証明や検査の陰性証明を提示すると割引率がアップするなどの策も検討されているが、いずれにしても線引きの難しい問題だけにリスタートへの課題は多い。

制度の隙間をつく不正や値上げ

 筆者個人の所感をいえば、前回は見切り発車かつコロコロ変わる補助内容に評論家として責任ある発言ができないと考え、Go Toトラベルのスタートから3か月間あまりメディアからの取材や直接的なオファーはすべて辞退した。

 事の成り行きをある種“静観”していたわけだが、やはりというか、メディアも観光業にかかわる専門家も含め、“Go To万歳”とばかりにアクセルを踏みまくる異様な状態になっていった。

 ホテル予約に関しても、制度の隙間を突いた裏技的なテクニックが拡散し、困惑するホテル関係者から相談を受けたこともあった。ホテルのプランが炎上したことも一度や二度ではない。

 他方、事業者による制度の不正利用も相次いだ。不正とはいわずとも、便乗的な値上げは散見されたし、制度の趣旨から逸脱する利用は事業者・利用者双方でみられた。

 盛り上がりを見せる一方で、ホテルの現場が混乱し、疲弊していく姿を敢えてレポートすることも、ジャーナリストの立場としては肝要と考え、3か月を経てメディアからの依頼を受け始めて以降は、テレビやラジオの出演や解説で「Go Toトラベルの裏で起きていること」を伝え、何度も警鐘を鳴らしてきた。

 案の定、感染症拡大により一転、中止となった後には踵を返すかのように総括を試みる記事やメディアが目立ってきたが、“あれだけ煽っておいて……”という声は当然のように広がり、Go Toトラベル肯定派と否定派の溝をますます深くした。

 そして今回のリスタートについても同様の議論を引き起こしている。

今度はきちんと制度設計できるか

 国民のもっとも身近な施策とはいえ、大きく賛否が分かれるGo Toトラベルだからこそ、「直接的な恩恵を被った人々」「間接的に恩恵がある人々」「基本的には恩恵のない人々」について客観的なデータを元にして分析・数字化し、施策側が広く知らしめることが重要だろう。

 完全な相互理解には及ばなくても、賛否それぞれの立場において納得性を高める施策にしなければ前回の二の舞になる。

 キャンペーンを打つときは一気にアクセルを踏むことは大切だ。しかし、安心してアクセルを踏むにはしっかりとした設計のエンジン、時にスムーズに加速を促すミッション、そして効きの良いブレーキも重要だ。その役目を誰が担うのか、今度はしっかりとした制度設計を期待したい。

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