デパートの催事場で「駅弁大会」が開催されることがある。日本各地の駅弁が集まってきて、普段なら旅先でしか見ることができないようなお弁当も買って食べることができる。なんとテンションの上がるイベントだろうか。
しかし、どうだろう。「日本各地の駅弁が集まってくるなんて!」とはしゃいでしまうけど、その一方で、自分の住む場所の駅弁にはあまり目がいかなかったりしないでしょうか。
考えて見れば、地元の駅弁であればイベントもなにも関係なく、いつだって食べられるのである。一度しっかり向き合っておこうではないか。
とはいえ駅弁大会って最高ですね
先日、大阪・梅田の阪神デパートで開催された「阪神の有名駅弁とうまいもんまつり」というイベントに足を運んだ。日本全国から約300種類もの駅弁が集められるというもので、各地の有名弁当が、「実演販売」といって、その場で調理するスタイルで提供されたり、空路や陸路で毎日運ばれてくる「輸送駅弁」のコーナーがあったりする。
約300種類もあるというのだから当然だが目移りする。絞り切れないので、1000円以下で買えるものに限定するルールを自分に課し、そうすることで結構絞り込むことができた(駅弁って結構高級なものが多いんですね。2000円ぐらいするものもある)。
結果、「鯛めし弁当」と「中津風唐揚げ弁当」というのを、昼ご飯と晩ご飯用に購入して帰ったのだった。
どちらも美味しくて、「駅弁のイベントって最高だな。もっと色々買ってくればよかった」と思って大満足だったのだが、後になって、私が買ったもののうち、「鯛めし弁当」は通常、愛媛県の今治駅でしか買えないものだが、もう一つの「中津風唐揚げ弁当」はいつでもJR新大阪駅で購入できるものであることがわかった。
「中津風唐揚げ弁当」は鹿児島の松栄軒という弁当メーカーが作っているものだが、その人気もあって、常に新大阪駅の売店で売られているんだという。それを知った時、正直なところ、ちょっと損をした気になった。だって、せっかく全国から駅弁が集まるイベントに行ったのである。できれば滅多に手に入らないようなものを買って食べてみたいと思うものじゃないか。しかし、繰り返すが、いつでも近場で買えるものを私は選んでいた。
で、そのちょっとの落ち込みの後、私は思った。「っていうか、近場で買える駅弁なら、いつだって食べられるんだよな」と。当たり前のことである。私は大阪に住んでいるのだが、たとえば新幹線の停車する新大阪駅に行けば、乗客向けの駅弁が色々売られているだろう。それを買って食べれば、イベントの無い時だって小さな駅弁まつりができるわけだ。
しかも、駅弁のイベントに行ったら「普段は買えない珍しいものを」と思ってしまうけど、そもそも私は大阪で買える駅弁を食べた記憶がないのだ。地元のものをしっかり味わってこそ、その他の地域の駅弁の魅力もわかるというものだろう。
長くなってしまったが、とにかくそんな風に考えた結果、地元・大阪ならではの駅弁を買って食べる大会を開催することにしたのであった。
友人に協力してもらい、新大阪駅に駅弁を買いに行く
週末、3人の友人に声をかけ、JR大阪駅に集まってもらった。
まずは大阪駅から電車に乗って一駅先の新大阪駅まで行く。そこで駅弁を購入してJR大阪駅へ引き返し、みんなで弁当を食べる。と、そんな風にみんなに主旨を説明してある。
ちなみにJR大阪駅構内にも駅弁を売る売店はあるのだが、JR新大阪駅の方が店舗の規模が大きく、選べる弁当の種類も多いのだ。また、わざわざ新大阪駅まで行くという、ちょっとした旅っぽさもいいと思った(即、引き返すのだけど)。
JR新大阪駅に着くと、構内に早速「旅弁当 駅弁にぎわい」という、各地の駅弁を販売する売店があった。
しかし、一回ここはスルーして、改札外にある駅ビル「アルデ新大阪」の中にある「旅弁当 駅弁にぎわい」の別店舗へ移動する。こっちの方がじっくり弁当を選べそうだったので。
壁に貼りだされたポスターにも「名物弁当あるで!」なんて書かれているし、ここなら大阪っぽい弁当が手に入りそうだ。
私を含めて4人いるので一人一つずつ、合計4つの弁当を買おうと思うのだが、たとえば水了軒というメーカーだけでも「大阪料亭御膳」、「大阪竹籠 田舎幕の内」など大阪の名を冠した弁当が複数あって、どれにすべきか迷う。
迷った末、4人分の駅弁を購入
みんなで会議をして、とりあえず水了軒の「大阪竹籠 田舎幕の内」、淡路屋「旅のにぎわい御膳」、「なにわホルモン焼肉弁当」を購入することにした。水了軒が大阪の拠点を置く弁当メーカーであるのに対し、淡路屋は兵庫県神戸市に本社を構えるメーカーだ。なので淡路屋の作る弁当が今回求めている“大阪らしい地元の駅弁”に当てはまるのか、意見がわかれるところである。
しかし、店舗のディスプレイを見るに、淡路屋の商品「旅のにぎわい御膳」はJR新大阪駅のオフィシャル駅弁であるようだった。
「なにわホルモン焼肉弁当」も同じく淡路屋の商品だが、こんなに思いっきり大阪っぽい弁当を逃す手はないだろう。
今回の参加メンバーの一人、ヤマコさんは駅弁に詳しい人で、先述の「阪神の有名駅弁とうまいもんまつり」にも期間中、毎日のように通っていた。そのヤマコさんによると、新幹線改札内で購入できる「なにわ満載」という駅弁も今回の主旨に合うのではないかとのこと。
その弁当を購入すべく、私一人が入場券を購入して改札内へ。これから遠い旅に出るような気分だ。
無事購入。ちなみに「なにわ満載」はジェイアール東海パッセンジャーズがプロデュースしたものだという。
さて、これで4つの弁当が揃った。新幹線の改札前で記念撮影。
しかし、記念撮影を済ませたら速やかにさっき集まったJR大阪駅へと引き返すのだった。大阪駅の駅ビルの屋上広場で買ってきた弁当を食べよう。
さあ、地元の駅弁とご対面
改めて、今回購入したのがこちら。
・旅のにぎわい御膳(淡路屋)
・なにわホルモン焼肉弁当(淡路屋)
・なにわ満載(ジェイアール東海パッセンジャーズ)
・大阪竹籠 田舎幕の内(水了軒)
誰がどれを食べるかはジャンケンで決めた。
まずは一つずつ、パッケージと中身をご覧いただこう。
各自食べながら感想を語りあおう
スズキ:
見てください!僕の「なにわ満載」はソースを入れる用のカップがついていて、そこに串カツをつけて食べられるようになっています
ヤマコ:
二度漬け禁止気分が味わえるんですね
スズキ:
これはかなりの大阪らしさですよ
ヤマコ:
これ、「もみじさつま」って多分、箕面の滝の「もみじの天ぷら」のイメージですよね
ガキ:
そのカリカリのは揚げ餃子?シュウマイも焼きそばも入ってるんやな
ハヤト:
僕の「なにわホルモン焼肉弁当」、肉がすごくないっすか?あ、味がしっかりついていてうまいっす!ホルモンはやわらかい
スズキ:
ホルモンに大阪のイメージを託した感じの弁当ですね。おいしそうだな
ハヤト:
僕、駅弁って食べたことないんですけど、冷たいんですね
スズキ:
ははは。まあ、基本はそうですよね。だからこそ、冷えても美味しく食べられるように工夫してあるんでしょう
ヤマコ:
パッケージにある「ホームに漂うこの香り」っていうのは鶴橋のことですよね。ナムルが付け合わせっていうのもそのイメージか
ガキ:
私のは、本当に美味しいお弁当です。大阪っぽくはないんかも。でも全体にすごく出汁が効いてるのは大阪らしい気もする
スズキ:
ガキさんのお弁当は大阪らしいとか関係なく、普通によさそうですね。バランスもいい
ガキ:
下に敷いてあるご飯が「かやくご飯」になってて、それも美味しい
ヤマコ:
僕の「旅のにぎわい御膳」はかなり神戸寄りの内容かもしれないです。左下は完全に明石のタコを使った淡路屋の「ひっぱりだこ飯」の感じですし
スズキ:
同じ淡路屋から出てた「なにわ御膳」っていうのはグッと大阪に寄せたものらしかったけど、今日は売ってなかったですね。終売しちゃったのかな
ヤマコ:
そうかもしれないですね。駅弁って結構移り変わりが激しいものもあるので
スズキ:
そういう意味では私の「なにわ満載」が一番大阪らしいんじゃないでしょうか。なんせ串カツをソースにつけて食べられるんですから
ヤマコ:
一品一品がおつまみ向きで、お酒に合うかもしれないですね
スズキ:
ヤマコさんのもガキさんのも私のもかなり品目が多いからおつまみとしても楽しいですよね。その点、ハヤトさんのやつはもう焼肉で一点突破という
ハヤト:
はは。そうっすね!でも味がしっかりしてるからお酒に合いますよ
ヤマコ:
あ、僕のは真ん中にカツが入ってるのかと思ったらタマネギのフライでした。これが淡路島のタマネギだとしたらいよいよ兵庫県の弁当だ
大阪らしい弁当の難しさ
ヤマコ:
大阪らしさを駅弁で表現するのは難しいのかもしれないですね
スズキ:
これぞっていうものがなかなか無いのかもしれないですね。いや、あるんだけど、たとえば粉ものとかだと……
ヤマコ:
何年か前に「たこ焼き弁当」というのが販売されていた時期があったんですよ。お好み焼きとご飯という組み合わせはあっても、たこ焼きとご飯ってあんまりなくないですか?でもそこを無理矢理弁当にしていた
スズキ:
しかも冷たいたこ焼きなわけですもんね。なかなかハードルが高い
ヤマコ:
その点、ハヤトさんの「なにわホルモン焼肉弁当」はかなり頑張ってると思います
ハヤト:
うん。うまい。久々に肉食べましたよー!
ヤマコ:
これ、ある年の阪神駅弁大会のデータを都道府県別にまとめたものなんですけど、大阪って一種類しか出てない。それが「なにわホルモン焼肉弁当」で、たとえば滋賀や兵庫はたくさんあるわけです
スズキ:
京都もあまりないんだ
ヤマコ:
まあもちろんこれは駅弁のイベントに並んだものなので、これに限るわけではないんですけどね。たとえば最近、阪神百貨店が「イカ焼き弁当」っていうのを始めたんですよ。イカ焼きとご飯っていう組み合わせがどうなのか、一回食べてみたいんです
ガキ:
コナモンがうまく使えたら色々できそうなのにな
スズキ:
ね。お好み焼きなんか、いけそうだけどね。でもあれか、「お好み焼き弁当」ってドーンって売られていてもちょっと買うのをためらうのかな
ハヤト:
お好み焼き単体で満足だよね。わざわざ弁当にしなくても
スズキ:
じゃあ、理想の大阪駅弁を作るとしたらどんなのがいいと思いますか?みなさん!
ハヤト:
なんすか急に
ヤマコ:
天満の但馬屋の「キムチ天(※文字通りキムチを天ぷらにしたもの)」が入ってたらいいと思うんですよね。ご飯に合いそう。あと紅しょうが天とか
ガキ:
湯豆腐は?紐を引っ張るとあったかくなるやつで
ハヤト:
今食べたいっすよ
スズキ:
湯豆腐か!あえて汁っ気たっぷりのものに挑むと。そしたらもう、てっちりとかは?ふぐ
ハヤト:
僕らが買える値段じゃなくなるよ
スズキ:
じゃあ、タイガース弁当はどうだろう。玉子と海苔を交互に並べて
ガキ:
ちょっと大阪をバカにしてるやろ
スズキ:
ははは。してないです!だってこの私が食べた弁当の箱もほら、タイガースカラー!
ガキ:
本当だ!
ヤマコ:
油かす弁当とかあってもいいかもしれないですね。最近かすうどんのお店が東京にできたりもしているそうですから
ハヤト:
それこそ、スパイスカレー弁当とかどうですか?
スズキ:
あ!それすごくいいですね
ハヤト:
カレー弁当っていうか、まあカレーだよね
スズキ:
いや、あまりルーがしゃばしゃばしてないような、キーマっぽい感じでスパイス感があって、大きなチキンとかも入っていたらかなりいいんじゃないでしょうか。
ガキ:
冷たくても美味しいかな
スズキ:
あー。どうだろう、いや、キーマ的なものならいける!
ヤマコ:
大阪らしい駅弁、もっと増えて欲しいですね。まだまだ余地がありそうだなと、今回いい勉強になりました
スズキ:
大阪には名物グルメがたくさんあるんだから、もっとグイグイ行って欲しい
大阪らしい駅弁を探していたつもりが、大阪らしい食べ物とはなんなのか、と問われることになった。
たこ焼きとか、紅しょうが天とか、うどんのダシとか、甘い油揚げとか、思いつくものはあっても、それを弁当化することの難しさの前で途方に暮れる。
きっとメーカー各社は色々と苦心して新しい弁当を生み出そうとしているのだろう。今はただ、新たな大阪駅弁が誕生するのを心待ちにしたい。
ちなみに駅弁の買い出しをしていた時、豚まんで有名な「551蓬莱」のお弁当があるのを知った。
これ、駅弁でこそないけど、かなり大阪らしい弁当なんじゃないか!? 今度食べてみよう。