共同通信社
ちょっとNHKに言いたいんだよな。俺もよく見ていたおなじみの番組「ガッテン!」が終わっちゃったんだ(2/2最終回)。「ためしてガッテン」で始まったのが1995年だっていうから27年の長寿番組だよ。どういう番組かはご存知だと思うけど、腰が痛いだの膝が痛いだのっていう健康の問題、この食材はこうするとこんなすごい栄養が出るぞなんて食の情報、オレオレ詐欺の有効な撃退法とか社会問題の解決に役立つテーマもある。普段生活する上で知ってると役立つ情報を丁寧な解説を入れながら、毎週届けていた超優良な番組だよ。
最近のNHKを代表する指折りの看板番組だったよね。始まったものはいずれ終わるんだから仕方ないと思う面もあるけどさ、どうして「ガッテン!」のようないい番組が終わっちゃうんだろうねぇ…。それが納得いかないんだよ。
しかも最終回が2月の冒頭って、お別れの気分にもならなかった。長年続いた功績ある番組の幕引きじゃないよな。番組ファンは「えっ、これで終わりなの?」って感じだよ。終わるにしても3月に終わらせるのが普通だよな。内容だって最終回にふさわしい作り方がいくらでもあるよ。なのにさ、「ガッテン!」の最終回でやってたのなんだっけ?
編集部)――「目のぼやけ」に関する新しい病気を取り上げてました。
そうそう「目のぼやけ」だ。それが最終回だよ。ホントにこれで最終回なの?って、見ているこっちのほうが目がぼやけたよ。司会の立川志の輔だって干し柿みたいな顔してるけど、進行は達者だし、地に足が付いてるし、笑いのツボも押さえてるし、番組と共に歳を重ねていい熟年になって、健康の話題になると自分にも照らし合わせる共感もあって、まさに「ガッテン!」イコール志の輔だったよ。で、「ガッテン!」の後番組って何か決まってるの?
編集部)――はい、後継番組にあたるのが4月7日スタートの生活情報番組「あしたが変わるトリセツショー」です。「健康・食・生活などから選んだテーマを科学の力で深堀り」という内容で、司会は女優の石原さとみです。
BLOGOS編集部
ああ、そうなんだ。「健康・食・生活」って要するに「ガッテン!」と題材は同じだから、看板の掛け替えみたいなもんだな。志の輔が石原さとみさんに替わるのか…。だったらそっちのほうがキレイでいいか? 志の輔お疲れさん。あとは本業の落語でがんばってくれ。アハハハハ、そういうことじゃないか。
あのね、長寿番組って大きな財産だよ。おなじみになって多くの人が知ってるわけだ。そうなると、「昨日のガッテンでこう言ってたよ」って話も伝わりやすい。番組が長く続くことでそこに信用とか信頼が積み重なるんだよな。
スポンサーが付きにくい番組をやれるのはNHKの強み
俺もね、NHKのEテレで介護の番組に長く携わってきた。「ハートネットTV」の「介護百人一首」を担当してきたよ。17年程やったかな。NHKは「ハートネットTV」を始め、介護、福祉、健康、病気、障害…、家庭内暴力とか差別とか性の問題とか、社会にある様々な問題に取り組む番組を作っているよ。
これは商業放送の民放ではめったに成り立たない、スポンサーが付きにくいからね。受信料で成り立つ公共放送のNHKだからできるわけだ。
これらの番組って、自分が若かったり元気だったり、身近な問題に感じなければあまり見ないだろうよ。でもさ、いざ何かがあって、自分にとって切実なことになったとき、NHKが作っているそれらの番組は本当に必要になるんだ。
人生100年時代、超高齢化社会の日本が取り組まなきゃならないのは、少しでも健康なお年寄りを作ること。健康なお年寄りが増えれば介護保険料や健康保険料を使わないで済む。それが日本の医療費を救う。若い世代の負担を減らすわけだ。NHKの取り組みがお年寄りに役立つことは、回り回って若い世代につながってるんだ。
だから最近の風潮として、若者が見ない番組はやめる、若者が見る番組に変えていく、ってのがあるけど、ものごとは俯瞰して見ないと。今若くて元気な世代だって、生きてりゃ平等に歳をとるんだから。その時に、年寄りになった自分に必要な番組が無かったらどう思うかってことだよ。
NHKがチャンネルを減らすのはいいこと
BLOGOS編集部
NHKは日本国民にとって不可欠な存在。民放には民放の良さがあるけど、年間通してよりいい番組を量産しているのはやはりNHKだ。組織も予算規模も大きいしね。まあ、大きくなりすぎた感はあるけどな。テレビとラジオでいったい幾つチャンネル持ってるんだって思うもの。
編集部)――NHKのチャンネル数ですが、発表済みの経営計画によりますと、2024年3月までに現在放送中のBS1とBSプレミアムを一本化してBSを1チャンネル減らし、2025年度にはラジオのAMが2波あるのを1波に減らす方向で検討を進めるなど、チャンネル数のスリム化を目指しているようです。
ああ、そのほうがいいよ。日本は人口も減ってるんだからさ、身の丈にあった適正サイズでいいんだ。それであれか、膨らんだ組織を改革するために選ばれたのが今の前田会長ってことか。2020年にNHKの会長に就任か。この前田さんって、みずほ銀行の社長時代に赤字だった銀行を黒字にした、再建したってことで、とにもかくにもその道で名を成したエリートなんだろ。
大きな組織を改革しようとしたら、内側にいた人物に任せても進まないことが多い。いい意味でも悪い意味でもしがらみがあって、むやみに人事異動させたり、クビを切ったりできないもんな。だから外から来て辣腕を振るうトップは必要なんだろうけどね。
でも、銀行とNHKはそれこそ真逆の存在だと思わないか? 大胆に言えば、銀行は赤字を黒字にして「目に見える利益」をあげるのが目的だ。NHKは黒字を赤字にしても「目に見えない奉仕」をするのが目的だ。それぞれに目的が違う組織だよ。
それを踏まえて、NHKで前田会長がどんな改革をするのか…、そこで目に見えたのが「ガッテン!」のあの終わり方だったから、いやいやちょっと待ってくれよ前田さん、あれだけの看板番組をあんなふうに終わらせるのがあなたが率いるNHKなのかい、って言いたくなったんだよ。
NHKは土曜のお昼に笑福亭仁鶴さんが司会をしていた「生活笑百科」も3月いっぱいなんだよな。あれは37年続いたんだろ。昨年夏に仁鶴さんがお亡くなりになったからだけど、37年も続いたんだから、うまく看板を残して、のれんを守り老舗を育てていくような考えがあってもいいんじゃないかな…。
俺は「古都」のようなジジイになりたいと思ってる。古ければ古いほど魅力が出るような存在ってことだけど、京都や奈良の歴史的な名刹って「金」じゃ作れないんだよな。六本木に建てる高層タワーは「金」があれば数年で作れるけど、古都を彩る寺社仏閣は何百年の長い時間をかけて何世代にもわたって守ってきたから、今の姿がある。そうして日本が世界に誇れる宝になっている。ああいうものは「金」や「費用対効果」じゃ生まれないんだ。
NHKは民放とは違う。費用対効果を厳しく求められるわけじゃない。新しい番組を生み出すことも大事だけど、その一方で国民の財産になるような、京都奈良の「古都」のような長寿番組を残す理念を持ってほしいな。それを前田会長にお話ししたいよ。
ギャラが安くても出たくなるNHKの番組
BLOGOS編集部
あと、NHKって昔から言われてるけど公共放送だからギャラが安いんだよ。大御所のタレント達、例えばタモリ、所ジョージ、笑福亭鶴瓶…みんなNHKでは自分が出演したい内容の番組だから出ているんだろうし、ギャラよりも内容で仕事をしていると思う。NHKがそういう内容のある番組を作れるからだよ。
ちなみに最近の民放はテレビでもラジオでも、どこもかしこも制作予算が無いからって、ギャラの減額をあちこちでやってるよね。俺がよく知るTBSラジオでもそんな話をよく耳にするよ。ラジオなんて元からギャラが安いのにさらに減額なんだから、いかに財政が厳しいか…。それでも名のある人達が出演し続けるのはお金じゃないんだ、ラジオの仕事が好きだからなんだよな。
いずれにしても、受信料で制作予算が確保されて良質の番組を作れるNHKは民放とは違うんだってことをますます意識してほしい。NHKは公共放送だ。公共ってのは日本全国に全世代に放送を届けることができる放送局なんだよ。その為にみんな受信料を払ってるんだ。だからこそ、長く続く好評の番組をきちんと扱ってほしいよ。
繰り返すけど「ガッテン!」みたいな良質の長寿番組をあんなふうに半端に終わらせてしまうのは改革じゃなくて損失。組織の論理で看板のすげ替えをすることで、せっかく老舗や古都になれる番組を畳んでしまうのは、つくづくもったいないよ。もっと長い目を意識してね「みなさまのNHK」であり続けてほしいね。
(取材構成:松田健次)