5つの図表で解説する、 ゲーム 業界の「軍拡」競争:「ほかのメディアカテゴリーに影響を与えている」

DIGIDAY

ゲーム業界は今、M&Aによる軍拡競争の真っただ中にあり、長引くパンデミックがそれをさらに後押ししている。

マイクロソフト(Microsoft)、テイクツー(Take Two)、ソニーなど、あらゆる企業がコンテンツ確保のために「取引」を行っている。各社による「取引」の数や規模は、ゲーム業界全体がどこに向かっているかを示唆している。つまり、ゲームの中核を成すビジネス、流通モデルに大きな変化が起きようとしているということだ。マイクロソフトが690億ドル(約7兆9700億円)を投じてアクティビジョン・ブリザード(Activision Blizzard)を買収すると発表したことが、それを物語っている。

690億ドルは目玉が飛び出るほどの大金だが、コール・オブ・デューティー(Call of Duty)、ウォークラフト(Warcraft)、キャンディクラッシュ(Candy Crush)、オーバーウォッチ(Overwatch)といったゲーム最大級のフランチャイズタイトルが手に入ることを考えれば、ほぼ間違いなく安い買い物であり、月間4億人のアクティブプレーヤーで構成されるコミュニティの存在を考えればなおさらだ。言い換えれば、この買収劇は、ゲーム機ではなくコンテンツがゲームの未来であることを示すこれまででもっとも明白な兆候だといえる。

それでは、この変化とそれに伴うM&Aのうねりが意味するものを5つの図表で解説しよう。

ゲーム業界はいまだかつてない統合の時代に

多くの(非ゲーム領域も含め)企業にとって、ゲーム業界の一角を占めることは当然のことになっている。テイクツー、ジンガ(Zynga)、EAなどのゲームパブリッシャーを中心とする戦略的投資家がけん引する形で、2021年には合わせて380億ドル(約4兆3900億円)規模のM&Aが行われた。一方、投資銀行のドレイク・スター(Drake Star)によれば、プライベートエクイティ企業、ベンチャーキャピタル、戦略的投資家ら全体では681の取引で130億ドル(約1兆5000億円)を非公開会社に投じているという。

これは市場にとっていまだかつてない統合の時代であり、2020年にメディア業界で吹き荒れた買収の嵐とよく似ている。これにはいくつかの根本的な要因がある。中央銀行が市場に資金を供給し、投資が過熱していること。コンテンツ獲得の圧力が高まり、その結果、強力なIPを確保する必要性が高まっていること。大手企業が資金と自信を手に入れ、M&A活動を強化していることだ。

エンターテインメントで最も浸透しているカテゴリーのひとつで、これらの買収が次世代の企業を生み出すことを考えると、マーケターは今後の展開に注目すべきだ。

ゲームは圧倒的に儲かるエンターテインメント産業

ゲームはほぼ間違いなく、もっとも幅広いエンターテインメント産業だ。人と人の関わり方が変わるだけでなく、ゲーム内で行われるデジタル上の活動も増えている。最近の見解が信頼できるとしたら、テクノロジーの秩序や権力構造までつくり変えようとしている。つまり一言で表すなら、特定の層にとって支配的なエンターテインメントメディアになりつつあるということだ。

その「支配力」をわかりやすく説明しよう。2021年のグローバルでの興行収入は214億ドル(約2兆4700億円)だった。一方、グローバルデータ(GlobalData)によれば、2021年のゲーム市場は1730億ドル(約19兆9800億円)規模で、2022年には2230億ドル(約25兆7600億円)規模に達する見通しだ。しかも、すぐに減速する気配はない。それどころか、プライスウォーターハウスクーパース(PricewaterhouseCoopers:以下、PwC)によれば、2025年まで年平均成長率4.4%で成長し続けると予測されている。

ただし、業界は「コアゲーマー」を抱えるゲーム機市場と、よりカジュアルなモバイルオーディエンスに分かれている。

ゲームはエンターテインメントの世界をゆっくり支配していくが、その資金源は広告主

当然ながら、広告主はゲームやeスポーツを社内に持ち込もうとしている。

この2年間、ゲームと無関係なブランドがゲーム市場への関心を高め、グッチ(Gucci)、ラルフ・ローレン(Ralph Lauren)といった主要ファッションブランドがロブロックス(Roblox)、フォートナイト(Fortnite)などのゲーム内で活動している。スピード、効率、そして、全体的なコントロールの必要性から、各社のマーケターがインハウスゲームチームを構築し、エージェンシーのサービスの一部またはすべてを代替しようと試みていることが、盛んに報じられている。

アドテクのインハウス化と同様、これを実現するための道はふたつある。クリエイターの手配からキャンペーンの企画、実行、測定まで、ゲームやeスポーツに関連するキャンペーンを単独で管理するチームを編成するか、ゲームマーケティングの指揮を執る社内アドバイザーを起用し、キャンペーンの実行はエージェンシーに任せるかのどちらかだ。どちらの道を歩むかを決断するのは難しい。以下の表を見ればわかる通り、意見が割れる可能性は十分ある。

板挟みで苦しむテレビ、恩恵を享受するゲーム

テレビ業界はこれまで混乱に耐えてきたが、循環的な成長と構造的な成長の板挟みになっている。確かに、欧州サッカー連盟(UEFA)欧州選手権のようなイベント、もっと広いところでは、個人消費のゆっくりした回復のおかげで、パンデミック中、テレビは一時的に成長した。しかし、サプライチェーンの問題もあり、テレビ広告費は減少している。その結果、次の展開を予測することがかつてないほど難しくなっている。しかし、まだ議論されていないことがある。テレビを見る時間の再配分というすでに進行していたことが、パンデミックによってさらに進行したことだ。

ゲームとそれに付随する活動は、この恩恵を享受する立場にある。ゲームを主なエンターテインメントとして選択する人が増えているためだ。ゲーム会社はこの動きを利用し始めており、物語のあるテレビ的なコンテンツを制作し、伝統的なエンターテインメントの世界に進出している。

PwCのパートナー、C・J・バンガ氏は次のように説明する。「ゲームは急成長している。ほかのメディアカテゴリーに影響を与え、変革をもたらし続けるか? 答えはイエス。テレビは無関係か? 答えはノーだ」。実際、それは数字が証明している。

「全世界のエンターテインメント、メディアの成長率に目を向けると、ビデオゲームとeスポーツ(2021~2025年の年平均成長率は5%)はほかの多くのカテゴリーより急速に成長することが見込まれる(テレビ広告は3%、従来型のテレビとホームビデオはマイナス1%、消費者向けの書籍は1.3%)。しかし、OTT(インターネット配信)動画(9.4%)、ポッドキャスト広告(15.6%)、VR動画(16.4%)に比べると、成長のペースは遅い見込みだ」。

ゲームはくつろぐ場所ではなく、皆で楽しむ場所

メディアの世界では、フォートナイトやロブロックスは未来のソーシャルネットワークだという物語が流布されている。確かに、エンゲージメントと交流がこれらのゲームの原動力ではあるものの、友達を増やしたり、「いいね」やフォロワーを集めたりするだけの場所ではない。むしろ、フォートナイトやロブロックスは未来のテーマパークに近い。バーチャルな人々が集まり、一緒にゲームをするだけでなく、ゲーム内のコンサートに参加したり、テレビ番組や映画の試写会を見たりと、いろいろなことができるようになっている。

ゲーム内の交流が当たり前になった今、ゲーム業界からリーダーが誕生することは明らかだ。マイクロソフトがアクティビジョン・ブリザードの買収をメタバースへの賭けと定義したことにも表れている。アクティベート(Activate)の調査によれば、パンデミックをきっかけに、この変化がより鮮明になっている。

[原文:In Graphic Detail: The great gaming consolidation

SEB JOSEPH(翻訳:米井香織/ガリレオ、編集:分島翔平)

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