「少数派が世間一般の常識をひっくり返す」にはどれぐらいの割合が必要なのか?

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世の中にはさまざまな点において多数派と少数派が存在し、少数派の人々は常識や慣習に縛られて窮屈な思いをしがちですが、時には少数派が世の中を変革して従来の常識がひっくり返ることもあります。「少数派が世間一般の常識をひっくり返すにはどれぐらいの割合が必要なのか?」という疑問についての研究結果を、ハンガリーの中央ヨーロッパ大学で社会的ネットワークや都市システムの研究を行うIacopo Iacopini氏が解説しています。

Group interactions modulate critical mass dynamics in social convention
https://arxiv.org/abs/2103.10411

How can minorities of regular individuals overturn social conventions? | Iacopo Iacopini
https://iaciac.github.io/post/vanishing/

クリティカル・マスとは、マーケティング分野で商品やサービスの普及率が一気に跳ね上がるしきい値を表すほか、社会システムにおける存在が無視できない影響力を持つグループになるしきい値のことも指す言葉です。この理論に基づけば、少数派がクリティカル・マスに達すればその影響力は確固たるものとなり、安定していた社会的常識や慣習を覆すことが可能となります。

「一体どれほどの割合を少数派が占めればクリティカル・マスになるのか?」という点についてはいくつかの研究が行われており、企業のリーダーにおけるジェンダーギャップを解消するクリティカル・マスは30%との研究結果や、ジェンダーに関するクリティカル・マスは40%といった研究結果が報告されています。また、2018年の研究では「社会的変化に肯定的なマイノリティの規模が25%に達すると、職場やオンラインコミュニティなどの規範を変えることができる」との結果が示されました。

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少数派が社会を変革するダイナミズムに関する定量的な研究としては、「Naming Game(命名ゲーム)」のモデルを使用したものがあります。命名ゲームとは、その名の通りモノの名前を付け合って集団で言葉の意味を形成する過程をシミュレーションしたもので、中央制御がないネットワークにおいてエージェントを「Speaker(話者)」と「Hearer(聞き手)」に分け、コミュニケーションに基づいて集団で共通の意味を獲得することを目的としています。

命名ゲームを利用した2011年の研究では、少数派が10%に達すれば集団全体の「言葉の意味」を変えることができると示されました。その後も条件を一般化して同様の研究が行われた結果、クリティカル・マスはおよそ10~40%の間で変化するとされており、社会的な協調を組み込んだ2018年の研究では「人口の25%」というクリティカル・マスの理論的予測が得られたとのこと。

しかし、これらの理論モデルや実証研究は「完全にコミットされた個人」、つまりいかなる状況下でも多数派になびかない少数派を考慮してきたとのこと。そう考えると人口の10%でも少数派と見なすのは難しいものの、実際にはわずか数十人のグループから社会的および規範的変化が引き起こされた事例も存在します。そこでIacopini氏の研究チームは、「クリティカル・マスはどのように増えていくのか?」という点に着目した研究を行いました。

研究チームは以前の研究でも用いられた命名ゲームを採用し、さまざまな条件を変更してシナリオの多様性を調査しました。その結果、「非コミットなメンバーが新たな規則を受け入れた後に、社会的な影響によって意見を戻す可能性が低い」という条件であれば、クリティカル・マスが劇的に減少することが示されたとのこと。

以下の図は青色が多数派の規範、オレンジ色が少数派の規範を示しており、「A・B・C・D・E」は時間の経過に伴う少数派と多数派の変化を表しています。以下の図からは、ほんの少数でも時間をかければ集団全体の規範を変えていくことが可能であることがわかり、必要なクリティカル・マスはわずか0.3%だったそうです。


社会的規範の変化においては、非コミットなメンバーの意見が変わる度合いの他にもさまざまな要件が結果に影響します。Iacopini氏は、「今回の結果は、コミットメントしたマイノリティによって社会通念が急速に変化するという多数の観察記録と、大規模なマイノリティを確立することの明らかな困難さを調和させるものです」と述べました。

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