2度の北京五輪にみる中国の変化 – NEXT MEDIA “Japan In-depth”

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2022年北京冬季オリンピックの聖火リレーの一環として開催されたショー82022年2月2日、中国・北京市・首鋼公園) 出典:Photo by Kevin Frayer/Getty Images

澁谷司(アジア太平洋交流学会会長)

【まとめ】

・北京は夏季と冬季五輪が開催される初めての都市となった。

・今回は、「外交的ボイコット」が行われバイデン大統領らは訪問せず。

・前回から13年半、飛躍的経済発展を遂げた中国、人類全体に好影響をあたえたのか。

かつて夏季と冬季オリンピックが同じ都市で行われた例はない(温暖な都市と寒冷な都市とでは、状況が異なるからである)。北京は夏季と冬季五輪が開催される初めての都市となった。

ここでは、日本でほとんど議論されない、北京開催の二度の五輪を比較する。そして、中国がこの13年半でどのように変化したのか考えてみたい(2008年も2022年も、巨匠、チャン・イーモウ<張芸謀>が開閉会式の総指揮を務める。だが、2008年の時、北京国家体育場<鳥の巣>の設計に参加した艾未未 <アイ・ウェイウェイ。芸術コンサルタント>の姿を、今、中国で見ることはない)。

さて、2008年のオリンピックでは、中国がグローバルなソフトパワーとして台頭した事を世界に印象付けた。当時、大半の国々は中国を好意的に見ていたのではないか。ところが、後述するように、2022年、世界は中国にあまり親しみを抱いていない観がある。

前回の五輪は、胡錦濤政権の下で行われた。そのせいか、国内での圧政が目立っていない。また、2008年5月、北京五輪直前、四川省アバ・チベット族チャン族自治州汶川県で大地震が発生したが、汶川地震に対する国際的同情も集まっている。

けれども、今回の五輪は、 “マイナスの印象”が付きまとう。それは、習近平政権が、これまでの「韜光養晦」(能ある鷹は爪を隠す)政策をかなぐり捨て、世界制覇を目指すようになったからではないだろうか。

目下、中国国内では、習政権による少数民族への圧政が続く。チベット内モンゴルでは中国語教育の強制が行われ、新疆ウイグルでは、100万人を超えるウイグル人が強制収容所に入れられている。また、香港は「1国1制度」化され、事実上、同地域での民主主義が消滅した。

一方、習政権は、台湾に対し軍事的圧力をかけ、我が国の尖閣諸島への領海侵犯を繰り返し、南シナ海を自国の海にしようとしている。

なお、今度の2022年オリンピックで特筆すべきは「新型コロナ」(以下、コロナ)問題である。最初、コロナは武漢市で発症した。だから、依然、「コロナ中国起源説」(武漢ウイルス研究所からコロナが流出か)が有力視されている。

2021年夏に行われた東京オリンピックはコロナ禍にあり、五輪運営が困難を極めた。現在、中国共産党も、このコロナ対策に苦慮している。習政権は「ゼロコロナ」政策を採ったが、コロナ制圧に成功していない。そのため、北京市は戒厳体制下にある(西安市、天津市、深圳市等の大都市では、ロックダウンが実施された)。

そこで、習近平政権は、「バブル方式」(開催地を巨大な泡で包むように囲う。選手・競技関係者を隔離し、外部の人達と接触を遮断)で、選手や競技関係者が一般の北京市民と接触しないようにした。北京五輪では、東京五輪同様、ほとんどの会場では観客を入れず、競技が行われるという。

実は、2008年の北京オリンピックには、ジョージア・W・ブッシュ米大統領が訪中し、観戦した。その際、習近平副主席が、同大統領と会見している。

しかし、2022年のオリンピックでは、「バイデン大統領」が、習近平政権によるウイグル人への人権抑圧を理由に「外交的ボイコット」を行うと決めた。英国、カナダ、オーストラリア等がそれに呼応している。他方、ロシアのプーチン大統領をはじめ、一部の国々のリーダー達は、五輪に参加予定である。

一応、日本は「外交的ボイコット」に参加したが、若干、中途半端な対応(山下泰裕JOC会長や橋本聖子元東京五輪担当大臣等を派遣)となった。

ところで、『サウス・チャイナ・モーニング・ポスト(SCMP)』(編集部注:香港の英字紙)に掲載された「冬季オリンピック: 2008年の開催国としてこのゲームを学んだ中国は、今や独自のルールでプレーする」(2022年1月27日付)という記事は、中国の2008年と2022年(実際は、2021年及びそれ以前の年)の経済的・軍事的数字を比較している。興味深いので、取り上げたい。

第1に、2008年の中国GDPは、4.6兆米ドルだった。だが、2021年には、約4倍近くの18兆米ドルとなっている。

第2に、中国人インターネットユーザーは、2008年の全人口の22.6%から、2020年には、3倍以上の70.4%になった。

第3に、中国中間層が、2008年の3%から2018年の51%まで増加した。

第4に、中国の軍事費が、2008年の5.8億米ドルから、2021年は約3.6倍の20.9億米ドルに増えている。

第5に、中国の戦艦・潜水艦保有数が、2008年の235隻から、約1.5倍増の2021年の355隻となった。

第6に、中国高速鉄道の長さが、2008年の73マイル(約116.8km)から2万4900マイル(3万9840km)へと驚異の伸びを見せた。

第7に、中国にある492フィート(約150m)以上の高さの建物に関して、2008年には848棟しかなかったが、2020年には約3.2倍の2708棟まで増えている。

つまり、『SCMP』は、この13年半で、中国が飛躍的に発展したと主張したいのだろう。しかし、中国の経済発展が、人類全体に好影響を与えれば良いのだが、現実には、必ずしもそうとは言えないのではないか。

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