こちらは、小売業界の最前線を伝えるメディア「モダンリテール[日本版]」の記事です
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ファストファッションはこの数年において困難な時期を経験したが、最近の収益には明るい見通しがある。
いくつかのアパレル小売業者が報告している財務決算はあまり好ましくないが(多くの場合、サプライチェーンの困難が原因として挙げられている)、H&M(エイチ・アンド・エム)、ZARA(ザラ)、ユニクロ(Uniqlo)などほかの大手ファストファッションは、パンデミック前の水準を超えて成長しつつある。これは、シーイン(Shein)などのデジタルディスラプターがこの1年間をとおして勢いを増しているなかで起きたことだ。
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この移行の引き金となったのは、多くの国々が2021年に、程度の差こそあれ閉鎖を解除し、多くの人々が新しい衣服を必要とするようになったことであるのは間違いない。しかし、最近の売上増加を支えているのはそれだけではなく、これらのアパレルビジネスがより大きなeコマース戦略をはるか以前に取り入れているべきだったことに業界全体が気づいたことも、その理由だ。この業界でeコマースにおけるプレゼンスを拡大し、自社のウェブサイトをクリーンアップする企業が増え続けている。さらに、一部の企業はサステナビリティなどのトレンドを重視するようになり、NFTなどの新しいデジタルテクノロジーにも手を伸ばしている。
決算の改善を伝える企業たち
多くのファストファッション小売業者は、2021年に決算の改善を報告した。ZARAの親会社であるインディテックス(Inditex)は2021年9月、第2四半期の売上がパンデミック前の収益を超え、2019年よりも7%増加したと語った。この傾向は、その次の四半期にも続き、2019年と比べて恒常通貨ベースで売上が10%増加した。
インディテックスのエグゼクティブチェアマンを務めるパブロ・イスラ氏は、投資家向けの決算発表で次のように述べている。「最近数カ月間に見られた現象、すなわち当グループがいくつかの非常に困難な市場状況を乗り切ったこと、そして当社はすでにパンデミック前の水準を上回っていること、これらがすべてを語っている」。
H&Mの最近の決算発表も、同様に肯定的なものだ。同社は第2四半期にパンデミック前の売上を上回ることこそできなかったものの、2021年の9月から11月までの売上額は2019年の額に匹敵すると、2021年12月に発表した。
同社はプレスリリースで次のように述べている。「H&Mグループは力強い回復を続けている。顧客はコレクションと、いつどこからでも好きな方法でショッピングできることを評価する姿勢を見せている」。
一方で、ユニクロの親会社であるファーストリテイリング(Fast Retailing)も全体として良好な決算を報告しており、これはおもに北米、欧州、東南アジアなどの地域における成長によるものだ(同社は中華圏と日本では売上の減少を報告している)。それでも、同社の総合的な収益と純益は、2019年の同じ四半期より増加している。
DXは戦略の根底となるもの
これらの小売業者の多くにとって、デジタルトランスフォーメーションは戦略の根底となるものだ。ジェーン・ハリ・アンド・アソシエイツ(Jane Hali and Associates)の調査アナリストであるジェシカ・ラミレス氏は、店舗に行ってどのような商品があるかを調べることで多くの調査を行っていた。しかし、パンデミックによってすべてが変化した。今日では、同氏はほとんどの調査をオンラインで行い、小売業者のウェブサイトを閲覧してセレクションとエクスペリエンスを確認している。「私は過去6カ月間に、ほとんどのウェブサイトが従来よりもはるかに的確にマーチャンダイジングされていることを確認した」と同氏は述べている。
一部の小売業者は、実店舗と比較してデジタルでの売上がどの程度の割合を占めるかを明らかにしていないが、多くの業者はオンラインの増加が続いていると指摘している。インディテックスのパブロ・イスラ氏は、「我々が昨年目にしたオンライン売上の強い増加傾向は、2021年にも当然継続した」と述べている。これに対してファーストリテイリングは、今四半期におけるeコマースの具体的な売上額を明かしていないが、前四半期に北米でのデジタル売上額が70%増加したと語っている。
「eコマースに関していえば、当社はデジタルとフィジカルな店舗を融合し、顧客が望むだけの多くの商品と情報を、顧客が望むときに提供できるようにすることで、自社のおもなビジネスをプロモーションする枠組みの構築を推進している」と、ファーストリテイリングは最新の決算発表で言及している。
H&Mも同様に、最新のリリースでeコマースの売上額を明らかにしていないが、2021年前半の6カ月にeコマースの売上が前年比で40%増加したことを、2021年7月に公表した。
新興企業による競合の激化
新興企業による競合の激化も、この動きに関係していると思われる。衣服を安価に販売するアプリは巨大なものとなった。たとえばシーインは2021年にAmazonを打ち破り、米国でもっとも多くダウンロードされたアプリになった。
しかし、旧来からの業者のいくつかは、これに追随しようとしている。センサータワー(Sensor Tower)のデータによれば、H&Mは米国のファストファッションアプリのうち、2020年の第4四半期にはダウンロード数で7位だったが、2021年の同期間には5位に上昇した。さらに、これらアプリのすべては2021年の第4四半期に前年比でダウンロード数が、ZARAは4%、H&Mは3%増加した(ユニクロも、同じ期間にダウンロード数が前年比で6%増加した)。
もちろん、これらのブランドのダウンロード数が増加しても、依然としてシーインが上回っている。同社のアプリは2021年の第4四半期に490万件ダウンロードされ、これに対してH&Mは77万2000件にすぎない。
迅速な対応が大きな要因に
デジタルへの注力が増大し続けるなかで、「多くのファストファッション小売業者が非常に良い業績を挙げているのには各種の理由がある」とラミレス氏は述べる。大きな理由のひとつは、2021年に全世界で閉鎖の解除がはじまったことだ。「消費者は自宅から外に出はじめた」と同氏は述べている。その結果、ほぼすべての小売業者は「蓄積されていた需要の恩恵を受けることになった」。
しかし、ここにはほかのいくつかの要因も関係している。ひとつは、大手ファストファッションの多くが顧客の需要に対して迅速に対応していることだ。ラミレス氏は次のように述べている。「我々はリセール、サステナビリティ、そして今ではNFTの台頭を目にしている。そしてファストファッションはそれらを実際に採用してきた」。
たとえばH&Mは今年、リサイクルされた材料から作られた商品の新しいラインナップを公表した。ZARAには「クローズ・ザ・ループ(Close The Loop)」というリサイクルプログラムがある。ファーストリテイリングは最新の決算発表で、「2030年までに持続可能な社会とビジネスの成長を達成するための」新しい取り組みを強調した。
これらの活動の多くは、純粋なマーケティングと読み取ることもできる。多くの監視機関が、これらの小売業者の業務を依然として理想的ではないとみなしているからだ。それでもラミレス氏は、「現在これらの活動は、より大きく、より広い推進力になっているようだ」と述べている。
サステナビリティに関してプレッシャーを感じているファストファッション小売業者はこれだけではない。最近のレポートでは、シーインの衣服の多くが製造されている工場における労働条件が劣悪なものであるという申し立てが注目されている。その結果、これまでプレスへの発言が非常に少なかった同社が、この問題について調査を開始するという声明を発表することになった。
新しい世界にも飛び出す
さらに、これらの小売業者のなかには、新しい種類のデジタルプログラミングへの参入を開始した企業もいる。ZARAは昨年後半にNFTのコレクションをリリースし、H&Mはメイジー・ウィリアムズ氏を起用したバーチャル・ファッションのコレクションを立ち上げたばかりだ。
これらの例のほとんどは小規模で、おそらくはマーケティングでのアピールがおもな目的だろう。しかし、ファストファッション小売業者が今日のプレッシャーに対してどのような対応を試みているかについて、多少の状況をうかがうことができる。
ラミレス氏は次のように述べている。「小売業者の大半はこの期間、自社のデジタルチャネルをどのように機能させるかという部分について改善を行ってきた」。
[原文:How fast fashion players like Zara and H&M are staying relevant in 2022]
著者:Cale Guthrie Weissman(翻訳:ジェスコーポレーション、編集:戸田美子)
Image via Inditex