【Hothotレビュー】「Alder LakeのEコアはSkylake級の性能」は本当?Pコアを使わずベンチマークで検証

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Alder Lake(右)のEコアは、Skylake(右)級の性能だという。これは本当だろうか?

 ハイブリッドアーキテクチャを導入したAlder Lake-Sこと第12世代Coreプロセッサには、「Pコア(Performanceコア)」と「Eコア(Efficientコア)」という異なる設計のCPUコアが存在する。

 デスクトップ向けCPUとしては、従来のメインストリーム向けCPUの流れを汲むPコアに、電力効率に優れたAtom系のコアをEコアとして加えた格好なのだが、このEコアとはどの程度の性能を持っているのだろうか。

 今回は、一説にはSkylake(第6世代Core)級とも言われるAlder Lake-SのEコアを、そのSkylakeの最上位モデルであった「Core i7-6700K」とベンチマークテストやゲームで比較。高効率コアと呼ばれるEコアの性能を確認してみた。

8基のEコアを備える「Core i9-12900K」を使ってテスト

 Alder Lake-SのEコアが持つ性能を確認すべく用意したのは、8基のEコアを備える最上位モデル「Core i9-12900K」だ。

 Core i9-12900Kは、8コア16スレッドのPコアと、8コア8スレッドのEコアを組み合わせることで、合計16コア24スレッドを実現したCPUで、通常、PコアとEコアは動作状況に応じて自動的に使い分けられている。Eコアだけの性能を計測しようとする場合は一工夫が必要だ。

 今回は可能な限りEコアのみの性能を計測するために、動作するPコアの数を最小の「1コア1スレッド」にまでBIOS設定で削減。さらに、アプリケーションへのCPU割り当てを設定するソフト「LimitCPU」を使って、ベンチマークを実行するコアをEコアのみに限定する。Pコアを完全に無効化できない現状では、これが「Eコアのみの性能」に近い結果を得るためのベストに近い条件であるはずだ。

動作するPコア数を最小の1コアに設定し、Hyper-Threadingを無効化することで、Pコアを1コア1スレッドとした

アプリケーションのCPU割り当てを設定できる「LimitCPU」。これを使ってテストを実行するCPUコアをEコアに限定する

 比較用のCore i7-6700Kは、Skylakeアーキテクチャベースの4コア8スレッドCPUだ。コア数は半分ながらスレッド数は同等というSkylakeベースのCPUと比較するにあたって、今回はもう1つの条件として実行コアを「4コア4スレッド」で揃えた条件でのテストも行なってみることにした。

 「4コア4スレッド」を実現するために、Alder Lake-Sは8基のEコアのうち4基をBIOS上で無効化し、Skylakeの方はHyper-Threadingを無効化している。

 また、なるべくEコアとSkylakeの性能差を比較できるよう、PCI Expressのリンク速度を「Gen 3(PCIe 3.0)」で統一したり、使用するメモリを「DDR4-2133」で揃えるなど細かい部分で設定を行なっている。機材や設定の詳細については以下の表に記載した。

【表1】テスト機材一覧
条件 Eコア 8C8T Eコア 4C4T Skylake 4C8T Skylake 4C4T
CPU Core i9-12900K Core i7-6700K
コア数/スレッド数 9/9 5/5 4/8 4/4
Hyper-Threading 無効 無効 有効 無効
Pコア 1 1
Eコア 8 4
ベースクロック 2.4GHz (Eコア) 4.0GHz
最大ブーストクロック 3.9GHz (Eコア) 4.2GHz
電力リミット PL1=PL2=Unlimited、Tau=56秒 PL1=PL2=Unlimited、Tau=8秒
CPUクーラー ASUS TUF GAMING LC 240 ARGB (ファンスピード=100%)
マザーボード ASUS TUF GAMING Z690-PLUS WIFI D4 [UEFI=0707] ASUS Z170-A [UEFI=3802]
メモリ DDR4-2133 (2ch、15-15-15-35、1.2v)
ビデオカード NVIDIA GeForce RTX 3080 Ti Founders Edition (PCIe 3.0 x16)
システム用SSD CORSAIR MP600 1TB (NVMe SSD/PCIe 3.0 x4)
電源 Thermaltake Toughpower Grand RGB 1050W Platinum
GPUドライバ GeForce Game Ready Drivers 497.09 (30.0.14.9709)
OS Windows 11 Pro 21H2 (build 22000.376、VBSオフ)
Resizable BAR 無効
電源プラン バランス
モニタリングソフト HWiNFO64 Pro v7.14
室温 約22℃

「Eコア 8C8T」のCPU-Z実行画面

「Eコア 4C4T」のCPU-Z実行画面

「Skylake 4C8T」のCPU-Z実行画面

「Skylake 4C4T」のCPU-Z実行画面

ベンチマーク結果

 実行したベンチマークテストは、「CINEBENCH R23」、「3DMark」、「TMPGEnc Video Mastering Works」、「ファイナルファンタジーXIV: 暁月のフィナーレ ベンチマーク」、「Forza Horizon 5」、「レインボーシックス シージ」、「アサシン クリード ヴァルハラ」、「Microsoft Flight Simulator」。

CINEBENCH R23

 CINEBENCH R23では、「Multi Core」と「Single Core」を実行した。最低実行時間は、いずれも標準の「10分間」に設定している。

 Multi Coreでは、8基のEコアが「7,692」を記録してトップに立っており、2番手で「5,449」だったSkylakeの4コア8スレッドを約41%上回っている。4コア4スレッド同士の比較では、EコアがSkylakeをやや下回った。

 一方、Single Coreのベストスコアは、4コア4スレッド設定のSkylakeが記録した「1,135」で、「1,064~1,071」のEコアだったSkylakeを5%前後下回っている。

【グラフ01】CINEBENCH R23「Multi Core」

【グラフ02】CINEBENCH R23「Single Core」

3DMark「CPU Profile」

 3DMarkのCPUテスト「CPU Profile」のスコアをグラフにまとめた。

 ここでは、8スレッド以上のテストにおいて、8基のEコアが全体ベストのスコアを記録しているものの、Skylakeの4コア8スレッドとの差は4~5%と僅差であり、4スレッド以下になると逆に29~35%も下回っている。

 4コア4スレッド同士の比較では、EコアがSkylakeを33~36%も下回っており、テストを実行するCPUコアの数が同等になる条件ではEコアが大差でSkylakeに敗北している。

【グラフ03】3DMark v2.22.7334「CPU Profile」

TMPGEnc Video Mastering Works 7

 TMPGEnc Video Mastering Works 7では、x264による 「H.264形式へのエンコード」と、x265による「H.265形式へのエンコード」を実行し、エンコード時間を比較した。

 H.264形式へのエンコードで最速を記録したのは8基のEコアで、そのエンコード速度はSkylakeの4コア8スレッドを36~40%上回った。4コア4スレッド同士の比較では、Eコアのエンコード速度はSkylakeを5~7%下回った。

 H.265形式へのエンコードでも最速は8基のEコアで、エンコード速度はSkylakeの4コア8スレッドを23~24%上回った。8スレッド同士の比較で差が縮まっていることからも察せられるところだが、4コア4スレッド同士ではEコアがSkylakeに大きく遅れをとっており、そのエンコード速度はSkylakeを19~21%も下回った。

【グラフ04】TMPGEnc Video Mastering Works 7 (v7.0.23.25) 「H.264形式へのエンコード」

【グラフ05】TMPGEnc Video Mastering Works 7 (v7.0.23.25) 「H.265形式へのエンコード」

3DMark

 3DMarkのGPUベンチマークからは、「Time Spy」、「Fire Strike」、「Wild Life」、「Port Royal」を実行した。

 8基のEコアは、全てのテストでSkylakeの4コア8スレッドに勝利している。Skylakeが正常に性能を計測できていないと思われるWild Lifeと同Extremeを除いても、EコアはSkylakeを4~15%上回っている。

 4コア4スレッド同士の比較では、Time Spyで約8%、Fire Strikeで約3%、それぞれEコアがSkylakeを下回っているが、逆にWild Lifeで約5~13%、Port Royalで約10%、EコアがSkylakeを上回った。

【グラフ06】3DMark v2.22.7334「Time Spy」

【グラフ07】3DMark v2.22.7334「Fire Strike」

【グラフ08】3DMark v2.22.7334「Wild Life/Wild Life Extreme」

【グラフ09】3DMark v2.22.7334「Port Royal」

ファイナルファンタジーXIV: 暁月のフィナーレ ベンチマーク

 ファイナルファンタジーXIV: 暁月のフィナーレ ベンチマークでは、描画品質を「最高品質」に設定して、フルHD~4Kでテストを実行した。

 ここではEコアが優勢で、8基のEコアはSkylakeの4コア16スレッドを7~17%上回り、4コア4スレッド同士の比較でもEコアがSkylakeを6~10%上回った。このベンチマークソフトは、メモリやキャッシュ速度が反映されやすいテストなので、Core i7-6700K(8MB)の3倍以上に達する、Core i9-12900KのL3キャッシュ容量(30MB)が効いているのかもしれない。

【グラフ10】ファイナルファンタジーXIV: 暁月のフィナーレ ベンチマーク

Forza Horizon 5

 Forza Horizon 5では、描画品質プリセットを「エクストリーム」に設定し、フルHD~4Kでベンチマークモードを実行した。

 8基のEコアは、1~2%という僅差でSkylakeの4コア8スレッドを上回った。一方、4コア4スレッド同士の比較では、Eコアが記録したフレームレートはSkylakeを9~17%も下回った。

【グラフ11】Forza Horizon 5 (v1.417.812.0.HV)

レインボーシックス シージ

 レインボーシックス シージでは、描画品質プリセットの「最高」を選択した上で、レンダリングのスケールを「100%」に設定し、フルHD~4Kでベンチマークモードを実行した。グラフィックスAPIは「Vulkan」。

 8基のEコアは、全ての条件でSkylakeの4コア8スレッドに勝利しており、平均フレームレートは5~17%上回った。4コア4スレッド同士の比較でもEコアが優勢で、Skylakeを5~8%上回った。

【グラフ12】レインボーシックス シージ (Build 7880956)

アサシン クリード ヴァルハラ

 アサシン クリード ヴァルハラでは、描画品質プリセットを「最高」にして、フルHD~4Kでベンチマークモードを実行した。

 8基のEコアは、フルHDで1fpsだけSkylakeの4コア8スレッドを下回る一方、WQHDと4Kでは僅差で上回っており、ほぼ同程度と言えるパフォーマンスを発揮した。

 4コア4スレッド同士の比較になると、GPU的に余裕のあるフルHDやWQHDにおいて、EコアがSkylakeを15~20%も下回った。4Kでは逆に3%上回っているが、CPUの処理が増える高フレームレートになるほど、Eコアが不利になっていることがみてとれる。

【グラフ13】アサシン クリード ヴァルハラ (v1.4.1.1)

Microsoft Flight Simulator

 Microsoft Flight Simulatorでは、描画品質プリセットを「ウルトラ」に設定して、離陸後3分間の平均フレームレートを計測した。使用した機体はエアバスA320neoで、飛行ルートは羽田空港から関西国際空港。グラフィックスAPIには「DirectX 12」を使用している。

 8基のEコアは、Skylakeの4コア8スレッドを5~9%上回る一方で、Skylakeの4コア4スレッドと僅かに下回るという結果になっている。4コア4スレッド同士の比較では、EコアがSkylakeを4~8%下回った。

 やや混沌とした結果にも見えるが、4スレッドではスレッド数が不足気味で、Hyper-Threadingではスレッド数不足を補えず逆効果となり、Eコアの物理コア増加は有効に作用したものの、Skylakeの4コア4スレッドには及ばなかったと言ったところだろう。また、フルHDから4Kまでフレームレートの変化が見られないことを考えれば、どのCPUもGPUの性能を十分に引き出せなかったようだ。

【グラフ14】Microsoft Flight Simulator (v1.21.13.0)

CPU消費電力とワットパフォーマンス

 CINEBENCH R23「Multi Core」を実行している際に取得したモニタリングデータから、CPUコアの消費電力である「IA Cores Power」の平均値と最大値をグラフ化した。なお、IA Cores Powerは「全てのCPUコア」の消費電力であり、Eコアの結果には無効化できていないPコア1基の消費電力が含まれている点に注意して欲しい。

 8基のEコアの消費電力は「平均50.1W(最大53.2W)」で、これは4コア8スレッドのSkylakeが記録した「平均71.8W(最大72.7W)」より20W以上低い数値だ。

 4コア4スレッド同士の比較では、「平均30.0W(最大34.1W)」を記録したEコアが、Skylakeの「平均58.0W(最大58.9W)」を30W近く下回っている。

【グラフ15】CPUの消費電力 (平均/最大)

 CINEBENCH R23「Multi Core」のスコアを平均消費電力で割ることで算出した、各CPUのワットパフォーマンス(1Wあたりのスコア)をまとめたものが以下のグフラだ。

 1Wあたりのスコアがもっとも高かったのは「153.4」を記録した8基のEコアで、これはSkylakeの4コア8スレッドが記録した「75.9」の倍以上に達している。4コア4スレッド同士の比較では、「132.7」を記録したEコアが、「70.6」のSkylakeを約88%も上回った。

【グラフ16】CINEBENCH R23「Multi Core」のワットパフォーマンス

確かに「Core i7-6700K」と同等以上の性能があるCore i9-12900KのEコア

 今回のテストでは、Core i9-12900Kが備える8基のEコアが、Skylakeの4コア8スレッドCPUであるCore i7-6700Kを相手に勝るとも劣らぬほどの性能を持っていることが確認できた。

 同じコア数で比較した場合はSkylakeに及ばない結果が多く、Core i7-6700Kを上回る性能はコア数で勝るからこそのものではあるが、2倍のコア数であるにも関わらず消費電力はCore i7-6700Kより低く、Efficientコアの名に違わぬ圧倒的な電力効率を実現している。

 今回の結果から単純に考えると、Alder Lake-SのEコア×4基が持つ性能は、2コア4スレッドのSkylakeと同等以上であると考えられる。現在はEコアを搭載しないAlder Lake-SベースのCPUも登場しているが、Eコアの持つ性能も決して小さなものではない。特に、マルチスレッド性能に期待しているのであれば、Eコアの有無に注目すべきだろう。

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