オミクロン感染爆発中での規制緩和

アゴラ 言論プラットフォーム

オーストリア政府は29日、記者会見で2月からコロナ規制の一部を緩和すると表明した。オミクロン株が爆発的に感染を広めている時期だけに、「この時期になぜ緩和するのか」という声と、「緩和処置は遅すぎた」という意見で国内は分かれてきている。

コロナ規制の緩和を発表するネハンマー首相(中央)オーストリア連邦首相府公式サイトから、2022年1月29日

政府が29日に発表したコロナ規制緩和の具体策は、2月5日から22時以降の夜間外出禁止令は深夜0時以降になり、その1週間後の12日からは小売業での2G(※注)の義務を廃止、その1週間後(2月19日)からは飲食店、観光業界では3Gのルールが適応されることになっている。そのほか、イベント業界でも5日から観客数は25人から50人まで認められる。ちなみに、ワクチン未接種者へのロックダウンは1月31日で終わる。

同国ではここ数日、新規感染者数は3万人台に突入している一方、入院患者数、集中治療患者数は微増に留まっていることから、ネハンマー首相はコロナ規制の一部の緩和を正当化している。ミュックシュタイン保健相(「緑の党」)は、「オミクロン株の感染では現時点で集中治療室への過負荷がかかるリスクはないことが今回の規制緩和となったが、警戒態勢は今後とも継続される」と説明している。

同国では首都ウィーン市(特別州)を除いては8州の関係者が政府の規制緩和を歓迎しているが、ウィーン市だけは批判的だ。規制緩和派は主に与党・国民党が州知事を務めている地域だ。チロル州、ザルツブルク州、オーバー・エステライヒ州、ニーダーエステライヒ州の知事たちは異口同音に、「規制緩和は少し遅すぎたが、正しい方向だ」と歓迎する。例えば、ニーダーエスターライヒ州ヨハンナミクルライトナー知事は、「緩和を前向きなものと受け取っている。多くの市民に生きる喜びをもたらす」と高く評価している。

それに対し、音楽の都ウィーン市のルドヴィック市長(社会民主党出身)はツイッターで、「我々は今、オミクロン株の感染爆発時にいる。毎日、新規感染者数の記録を更新している時だ。感染のピークはまだ来ていない時、コロナ規制を緩和することは間違っている。市としては専門家と協議をして対応をする考えだ」と述べている。

一方、政党の反応では、極右「自由党」のキックル党首は、「政府の規制緩和はジョークに過ぎない。全ての規制処置を即撤廃すべきだ」と強調、「政府の2G政策は成功しないだろう。小売業、ケータリング、ホテル業界は経営の危機に直面している」と指摘。リベラル政党「ネオス」は政府の規制緩和を歓迎するが、小売業と夜間外出禁止令での2Gは即時廃止されるべきだ」と述べている。

オミクロン株は現在、欧州で猛威を振るっている。欧州のウイルス学者は、「オミクロン株の感染のピークは2月上旬だろう」と予想しているが、欧州では英国やデンマークなどは早々とほぼ全てのコロナ規制を撤回してきた。オミクロン株は感染力が強いが重症化率が少なく、新規感染者が急増しても病院崩壊、ICU占有率が高まる恐れはない、という判断に基づいていることは明らかだ。

アルファ、デルタ株、オミクロンとコロナ変異株が出現してきたが、コロナ禍で3年目を迎えた欧州ではコロナ疲れが見えだした。だから、「コロナ感染はまもなく終焉する」という希望が先行し、ポスト・オミクロンについて余り関心がないのが現実だろう。人は希望なくして生きていけないから、政府関係者も国民のこの願いになんとか応じようとするのは当然かもしれない。ただ、コロナウイルスは感染症だから警戒心を緩めることは出来ない。希望と現実のバランスを取りながら、オミクロン株のソフトランディング(軟着陸)を迎えたいというわけだ。

なお、オーストリアでは来月からワクチン接種義務化が施行されるが、18歳以上の成人の約17%はまだワクチン未接種だ。しかし、保健省によると、過去2週間で8万5000人の成人が初めてワクチン接種を受けている。その結果、18歳以上の成人の83%が少なくとも1回の予防接種を受け、80%が2回予防接種を受けている。

※注:「3G」とは、ワクチン接種証明書(Impfzertifikat)、過去6カ月以内にコロナウイルスに感染し回復したことを証明する医者からの診断書(Genesenenzertifikat)、そしてコロナ検査での陰性証明書(Testzertifikat)だ。ドイツ語で「Geimpft」「Genessen」そして「Getestet」と呼ぶことから、その頭文字の「G」を取って「3G」と呼ばれている。2Gとは、ワクチン接種証明書か回復証明書を有する場合を意味し、陰性証明書ではレストラン等へ入れない。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2021年1月31日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。

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