ドイツの極右政党「ドイツのための選択肢」(AfD)の共同党首イェルク・モイテン欧州議会議員(60)がAfD共同党首の地位を辞任するとともにAfDから脱党することを表明した。AfDはドイツ連邦議会(下院)で81議席を有する政党。その党首が突然、ポストから辞任を表明するということは通常の事ではない。
共同党首の突然の辞任表明を受け、AfD連邦幹部会は28日、公式のプレスリリースで、「AfDがドイツで唯一の野党として発展してきたうえでのモイテン氏の多くの功績に感謝する」と述べている。AfDでは2015年7月以来、モイテン氏とティノ・クルパラ氏の2人が共同党首を務めてきた。
AfDは2013年2月、創立された新党だ。連邦議会で81議席を有する一方、ドイツ16州の州議会で228議席、欧州議会では10議席を持つ政党だ。党員数は2020年5月の段階で3万4023人だ。AfDは2015年、中東・北アフリカから100万人の難民・移民がドイツに殺到した時、移民反対、外国人排斥運動を展開し、ドイツ国民の支持を得、17年秋に実施された連邦議会選で94議席を獲得して野党第一党(当時)となり、ドイツ政界に旋風を巻き起こした。
モイテン氏はドイツ公共放送ARDとのインタビューの中で、「正式には解散した右翼過激派のフリューゲルとの権力争いで敗北した」と語る一方、「AfDの中心は今日、非常に右に動いており、党の一部は基本的な自由民主主義の秩序に基づいていない。そこには全体主義の影がはっきりと見える。特にコロナ政策において、カルトのような主張を展開している。AfDはもはやせいぜい東ドイツの地方政党にすぎなくなっている」と批判している。独代表紙フランクフルターアルゲマイネ・ツァイトゥングは28日電子版で、「穏健派のモイテン氏は過去、党内の右翼過激派との戦いで敗北を重ねてきた」と指摘、モイテン氏のAfD離脱表明を「決して驚かない」と受け取っている。
モイテン氏は党内では穏健路線を主張することで右翼過激派から敵視されてきた。特に、政治ライバルともいうべきビョルン・ヘッケ氏(49)の仲間たちから嫌われてきた。ヘッケ氏はモイテン氏の党離脱表明を受け、「その決定を尊重する。党では見つけらなかった私的で専門的な分野で自分の道を見出すことを願っている」とツイッターで述べている。
ヘッケ氏はAfDのテューリンゲン州議会議員で党内では右翼過激派のリーダーだ。より保守的な政策を取るべきだと標榜した「エアフルト決議」(2015年5月)の推進者の一人だ。ドイツ連邦憲法擁護庁(BfV)はヘッケ氏を極右的人物とみなし、2020年以降、監視対象人物に指定している。その言動はファシズム、反ユダヤ主義的傾向がみられる。
モイテン氏を取り巻く政治的圧力は高まってきている、寄付行為に対する欧州議会の調査委員会は27日、モイテン氏の議員としての免責特権をはく奪したばかりだ。AfD連邦議会院内総務のアリス・ワイデル議員は独週刊誌シュピーゲルに対し、「モイテン氏は欧州議会で自身の議員としての免責を失った直後、AfDから脱党を表明したわけだ。そのタイミングは少なくとも意味深い」と述べている。ちなみに、モイテン氏はスイスのPR会社であるGoalAGから約9万ユーロの違法党献金を受け取り、偽造の党献金者リストを提出した疑いがもたれている。
モイテン氏は6年間AfDの責任者を務めてきた。同氏はAfDから脱党した後も2017年末から務める欧州議会議員としての任務を維持したいと述べている。同氏は欧州議会では「アイデンティティと民主主義グループ」の副議長を務めている。一方、ベルリンの検察庁は、違法な党献金容疑でモイテン氏を捜査する意向と言われている。
穏健派のモイテン氏の党離脱でAfDが今後より右翼過激派路線を邁進していくか否かは、フリードリヒ・メルツ氏(66)を新党首として党の刷新に乗り出す「キリスト教民主同盟」(CDU)の動きと共に注目される。CDUメンバーが多い保守勢力「価値の連合」(Wertunion)のリーダー、マックス・オッテ氏(57)をAfDが連邦大統領候補者に擁立する動きがみられるなど、CDU内の保守勢力とAfDの接近にも目を離せられない。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2021年1月30日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。