盛り上がらないアメリカ中間選挙:バイデン以上のトランプの存在感

アゴラ 言論プラットフォーム

11月8日にアメリカ中間選挙が行われます。思ったほど報道が盛り上がってきておらず、アメリカのサイトを見ていてもテンションはやや低いのかな、という気がします。

その中で日経が31日の社説で「米はウクライナ支援を政争の具にするな」と題して報じています。内容は私が1週間ぐらい前にこのブログでお知らせした内容とほぼ同じ。つまり、アメリカのウクライナ支援を巡り民主、共和両方から「バイデンさん、支援、支援の一方通行でよいのかね?」という声が出ているがそれがアメリカの足元を見られることになりやしないか、という懸念です。

メディケアの保護を訴えるバイデン大統領 同大統領Fbより

権威主義と民主主義の違いの一つに選挙をした時、結果がばらけるか、ばらけないか、があります。もちろん、権威主義の国家に於いて選挙が公正に行われていないという主張は常に付きまとうのですが、以前、私が指摘したようにそればかりでもないと考えています。つまり、「羊と羊飼いの関係」です。ある程度の生活が安定的に期待できるなら多少、不満があってもいちいち政治のことに構わなくなり国民全体が羊になりやすくなるのです。というより「決めること」を忘れ、指示に従いやすくなるのです。(スリランカのような独裁政権は「ある程度の生活の安定」がなかったから政権が不安定になります。)

これは日本にも言えるです。「上が決めたことでしょ」「私の一票じゃあねぇ」「政治、興味ないね。だって、何も変わらないじゃない」という街頭の言葉は無数に聞かれます。事実、無党派は長期的にはじわじわ増加し、現在、おおよそ3割とされます。よく、選挙の際に無党派を取り込む、と言いますが、無党派の人は結局選挙にはいかないのです。それは結果として羊と羊飼いの関係に近いのです。

アメリカで選挙に賭ける熱意が一部で非常に盛り上がるのは二大政党であり、いつも拮抗し、逆転劇が常日頃起きているからでしょう。これは自分たちのチカラで政治を変えられるという意識があるからです。ところが中間選挙の投票率は概ね4割程度で日本の選挙と大して変わりません。つまり、アメリカですら無党派が多いのは「誰がやっても同じ」「茶番」「ポピュリズムの結果、政策が似てきている」という割り切り層が増えていることを物語っています。

今回の選挙の争点は何なのでしょうか?一般に選挙は外交より国内政策とされます。前回の参議院選の時でしたか、自民党が外交政策を重要課題として指し示しましたが、国民の意識はそこにありませんでした。その点、自民党は外したのです。今回も同様、日経がウクライナを政争の具にするな、と主張していますが、政争の具になっていると考えているのは日経だけではないでしょうか?

表層的な争点は物価問題と妊娠中絶の権利、あとは移民政策だとみています。1-2年前ならコロナ対策が入りましたが、これは今はランク圏外でしょう。

では物価問題。議会でこれをどう扱うのでしょうか?国会で物価高を抑制できる法案が出来て、それが施行されたとしてどうなるのでしょうか?つまり、即効性がないのです。敢えて言うなら石油など一部業界が儲けすぎている批判をどう議会が捉えるか、ぐらいだと思います。日本のように次々とバラマキを伴う生活支援策が出ることは財政問題からもなし、ましてや共和党が下院をとったら絶対にないでしょう。つまり国民は物価高に高い関心があるけれど中間選挙のポイントになりにくいだろう考えています。

妊娠中絶の権利と移民政策は国民に直接的に影響しやすいのでこれは争点として理解できます。

では私が思う最大の争点は何か、と言えば間接的にバイデン氏の支持/不支持なのだとみています。大統領の職務は議会とは切り離されています。しかし、民主党選出の大統領である、ということに賛意を示すかどうか、その人身御供が中間選挙だろうと考えています。過去も中間選挙でねじれになるケースはしばしば発生しています。今回も下馬評では下院は共和党が奪取、上院がコイントスの状況とされます。なぜ、選挙民はねじれになるような選択をするのか、と言えば「非難は賛同の10倍の感性をもたらす」からです。

一般的には特殊な記事を除き、記事や投稿に対しては否定のコメントが過半、ひどい時には8-9割を占めることもあります。なぜなら人は褒めることはなかなかしないけれど文句と異論だけは異様に声高になるからです。これは世の常です。なぜ褒められないか、といえば賛意があれば当然だよね、と何もなかったごとくスルーするからです。「いいね」どころか「あたりまえ」なのです。ところが、異論があれば「ちょっと待て!」になります。これは仮に全体の8割を同意しても2割でダメなら全部だめなのです。更に反論を書くという行為に人は強く印象付けられます。80点じゃダメなのです、100点ではないと。これは心理学的なものですね。だからどうしてもだめなことばかりが目立つようになるわけで人間の性とも言えましょう。

アメリカの選挙は下院が全議席改選、上院は1/3のみ改選です。これは何を意味するか、と言えば下院は非常に目先のイシューに感性的に振り回され、世の中の雰囲気やトレンドがその結果を左右しやすくなるけれど、上院はそんな上っ面なことで振り回されないよう1/3しか改選せず、より長期的ビジョンでモノが見られるようにするわけです。

当地の国営メディアCBCに今回の選挙は2024年の前哨戦という記事があります。言い得て妙ですね。つまり次のリーダーを導くための土壌づくりだというわけです。とすれば本来では政党のあるべき主張がもっとなされるべきですが、耳を澄ましてもよく聞こえません。一つにはトランプ氏という意識がバイデン氏の可否以上に強いからでしょう。ならば民主党からももっと国民の注目を得られる人材を輩出すべきでしょう。アメリカはトランプ旋風に未だ振り回されていてそれがゆえに中間線選挙の本質を見失っている、そんな気がします。

イベント「セーブ・アメリカ・ラリー」の移動中のトランプ氏 同氏Fbより

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2022年11月1日の記事より転載させていただきました。

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