24時間・年中無休、自動販売機で「珍しいモノ」を買える便利な時代が来ている。様々な形に発展する自動販売機がある一方で、本来の機能である「飲み物を売る」点において発展しているものがあることをご存じだろうか。
今回ご紹介するのは、ボタンひとつで飲み物にとろみを加えることができる自動販売機だ。「なぜとろみ?」と不思議に思っていたのだが、若者から高齢者まで多様な人々が暮らす社会の中では重要なアイテムなのだそう。
実際にとろみ付き飲料のホット・アイスの試飲と、とろみアリ・ナシの飲み比べをしてみたぞ!
・「誰でも飲みたいものを」な自動販売機
筆者がやってきたのは近鉄百貨店 四日市店。
その自販機は1階休憩スペース(シャンデリア広場入口前)に設置されていた。
機体の上に設置してあるポップによると「誰でも、飲みたいものを。飲み込みが難しい方もご一緒に。とろみ付き飲料が選べます!」とのこと。
こちらは株式会社アペックスとニュートリー株式会社が共同開発した自動販売機。通常通りのサラサラな液体の飲み物の販売に加え、ボタンひとつですべての飲料に対してとろみを追加することができるというのだ。
とろみの強さは3段階から選択することができるというのだから、さらに驚きである。
この機能が何かというと、嚥下反射(えんげはんしゃ)に問題がある方が誤嚥(ごえん)を防ぐのに役立つものなのだそうだ。
嚥下反射とは食べ物・飲み物が喉に送り込まれた際、気管を閉じて食道を開く機能のこと。そして誤嚥とは、気管に食べ物・飲み物が入ってしまうことだ。身近な例では、読者の皆様もお茶が気管に入ってむせた経験があるのではないだろうか。
特に高齢者においては誤嚥が起きやすく、また気管から食べ物・飲み物を出すことができず、肺炎を起こす原因になってしまう。
飲み物にとろみをつけることで喉に送り込まれるのがゆっくりになり、嚥下反射に遅れが見られる方でも誤嚥が起きにくくなるということらしい。(ただしとろみのつけ過ぎによる誤嚥もあるということなので、気を付けてほしい)
・とろみ付けはボタンひとつでOK
ということで、実際にとろみ付きの飲み物を注文してみよう。といっても、手順はめちゃくちゃに簡単だ。
お金を入れた後、まず最初に「とろみありボタン」を押す。
とろみ付き自動販売機自体がまだ珍しいということもあり、かなり強調してお知らせしてくれていた。
次にとろみの強さを選ぶ。何もしない場合は中間のとろみ。それよりも薄いか濃いかの3段階から選ぶシステムだ。
大体の目安ではあるが、薄めはドレッシングぐらい、中間はとんかつソースぐらい、濃いめはケチャップぐらいの粘度。
最後に好きな飲み物を選べば、操作は以上だ! 今回はとろみ中間・ブラックコーヒーと、
とろみ強め・塩とライチを選んでみた。塩とライチに関しては、通常の飲み物と比較するためにとろみナシのものも購入してみたぞ。
・味に変化はほとんどナシ! ……そのハズが!?
さっそく取り出して見てみると……
気泡がいっぱい!
本当に、ボタンひとつ押しただけでダマなくトロトロの状態で出てくるのだから驚きだ。自動販売機なんだから当たり前のことに見えるかもしれないけど、これって革命的なことなんじゃないだろうか。
とろみ強めの塩とライチにはより強い表面張力を感じる。
ふたつを振って比べてみるとこんな感じ。明らかに粘度の差がついていることがわかる。
だが、なによりも大事なのは味と飲みやすさ。
筆者がまず心配していたのは、粘度の高い飲み物が冷めにくい点。一見有難いことにも思えるのだが、かなり猫舌な筆者としてはいつまで経っても飲めない気がして不安なのだ。テレビで芸人が罰ゲームでアツアツのあんかけを浴びているシーンが脳裏によぎる。
しかしすべては記事のため。「火傷も辞さないぞ」と覚悟を決めてホットコーヒーを飲んでみたところ、
熱くないじゃん。
それもそのはず。この自販機、とろみ付き飲料はホットが約45度、コールドが約20度になるように設定されているのだそう。そのため口内を火傷したり、歯がキーンとなることはなく安心して飲むことができるのだ。
あんかけよりもモッタリした舌触りがする液体は、香りも味もコーヒーそのもの。介護食に使われることが多いとろみ添加剤は糖類や食物繊維が主原料で、味やにおいに影響を与えにくいのだそうだ。
実は自販機内で豆を挽いて淹れている本格派のため、しっかり美味しくいただくことができたぞ。
続いてコールドの塩ライチをいただいてみた。
とろみを強めに設定しただけあり、飲み物を飲んでいるというよりはお粥を飲み込んでいるようなのど越し。冷たい飲み物を飲んだ時の「カーッ」という爽快感は得られないが、喉をゆったりと冷たさが通過していく不思議な感覚を覚えた。
しかし、とろみよりなにより筆者が気になったことがある。
なんか……マズくない?
味がしないっていうか、ただの水みたいな味っていうか。言われてみればライチの香りもするんだけど、かなりささやか。ふたつ隣の席の女の子がつけているハンドクリームの香りぐらい、うっすらとしか感じない。
……試飲後にアペックス社へ電話で確認したところ、筆者が注文した塩ライチが品切れになっていたのではないか、ということだった。
カップタイプの自販機は粉を水に溶かして作るのだが、粉が品切れになってしまった場合でも「売り切れ」表示が出せないのだという。
今回はとろみアリ・ナシの両方を注文していたため、どちらもほぼ同じ味がしたことから「さすがにおかしい」と気が付き、問い合わせをするに至った。
いつかはこの問題が改善されると嬉しいが しばらくは難しいようなので、味が極端に薄く感じた方は問い合わせをすることをオススメする。とても丁寧に対応していただき、筆者としてはなにひとつ不満は感じていない。
ということで、せっかくなのでとろみ弱め・コールド抹茶ラテを追加でいただいてみたが……
うまい!!!!
なお、近鉄百貨店 四日市店では2019年6月よりこの自販機を導入しているのだそう。開発から1年ほどとかなり早い段階から導入した理由を広報担当者にうかがったところ、お客様に安心してお過ごしいただくとともに、三重県四日市市に本社を置く地元企業であるニュートリー株式会社を応援したい気持ちからということであった。
この自動販売機が一般的になれば、世代を超えて同じ味のドリンクを外出先で飲むことができるようになるはずだ。
高齢化が進む日本の中で、多様性を認めつつ皆が暮らしやすくなるためには必要不可欠なアイテムなのかもしれない。明るい日本の未来が思い浮かび、将来が楽しみになってきた。
参考リンク:とろみサーバー、近鉄百貨店 四日市店
執筆:高木はるか
Photo:RocketNews24.