高層ビルや通信塔、風力発電用のタービンなどと鳥が衝突する事例は想像以上に多く、アメリカだけでも年間最大10億羽が人工物と衝突して死んでいると推定されています。アメリカの研究チームは、ホワイトノイズを発する「音響灯台」が鳥と人工物の衝突を減らし、多くの命を救うことができると主張しています。
Field testing an “acoustic lighthouse”: Combined acoustic and visual cues provide a multimodal solution that reduces avian collision risk with tall human-made structures
https://journals.plos.org/plosone/article?id=10.1371/journal.pone.0249826
Acoustic Lighthouse field tests: Engineered noise to reduce bird-structure collisions | William & Mary
https://www.wm.edu/news/stories/2021/acoustic-lighthouse-field-tests-engineered-noise-to-reduce-bird-structure-collisions.php
We Could Harness White Noise to Save The Lives of Millions of Birds. Here’s How
https://www.sciencealert.com/sound-could-save-birds-from-slamming-into-tall-buildings-wind-turbines-here-s-how
研究チームを率いたウィリアム・アンド・メアリー大学の保全生物学者であるティモシー・ボイコット氏によると、毎年多数の鳥が人工物に衝突して命を落としており、近年環境への配慮から次々と建設されている風力発電用タービンは特に多くの鳥の命を奪っている構造物なのだそうです。
ボイコット氏は、「鳥は風の流れに沿って移動していますが、私たちも同じ風のエネルギーを利用したいため、鳥が移動するのと同じエリアに風力タービンを配置しがちです」と述べ、人間と鳥が同じ風の流れを利用しようとしているために衝突が起きやすいと指摘しています。
これまでにも自然保護活動家は、建造物の塗り分けやロープ、レーザーなどを利用して鳥と構造物の衝突を減らす試みを行ってきました。ところが、多くの鳥は目が頭の両サイドにあって真正面を見ていないことがあるほか、飛行中の鳥は解剖学的に「前方ではなく下方」に焦点を当てていることが多いため、これらの対策は必ずしも効果的とは言えないとのこと。そこでボイコット氏らの研究チームは、人間の構造物に近づいたことを鳥に伝えるには、視覚ではなく聴覚に訴える警告が有効なのではないかと考えて、「ホワイトノイズを発するスピーカー」を使って実験を行いました。
研究チームはホワイトノイズを発する「音響灯台」をテストする場所として、渡り鳥の通り道となっているアメリカ東海岸のデルマーバ半島にある2本の通信塔を選びました。ボイコット氏はこの場所を選定した理由について、「ここは非常に多くの鳥が移動する地理的エリアです。これらの鳥は大西洋側のルートを通って南に移動し、時には南米の端まで到達します」と述べています。
研究チームは通信塔の基部に上向きのスピーカーを設置して、南へ向かう鳥に向かって環境音とは違うホワイトノイズを発し、カメラで周囲を通過する鳥の反応を撮影しました。ホワイトノイズの発信は1日3時間で、6日間にわたってデータを収集したほか、比較としてホワイトノイズを出さない条件でもデータ収集を行いました。また、実験では鳥が日常的に聞いている音と一致する「4~6kHz」と、普段聞いている音よりも高い「6~8kHz」という2種類の周波数を用いて、それぞれの周波数によって反応に差があるかどうかも確かめたとのこと。
「4~6kHzの周波数」「6~8kHzの周波数」「ホワイトノイズなし」という3つの条件で収集した合計1500羽以上のデータを分析した結果、ホワイトノイズを発した場合は鳥が通信塔に近づきすぎる割合が12~16%減ることがわかりました。特に衝突の危険が高かったケースでも、ホワイトノイズを聞いた鳥は飛行速度を低下させ、飛行軌道も大きく偏向させたと研究チームは述べています。
また、ホワイトノイズの周波数による反応の違いを調べたところ、「4~6kHzの周波数」の方が「6~8kHzの周波数」より早く鳥を通信塔から遠ざけたとのこと。「4~6kHzの低周波音域で、鳥の動きが最も鈍くなることがわかりました。鳥は通信塔から遠く離れ、軌道をより塔から遠ざけるようになりました」と、ボイコット氏は述べました。
ボイコット氏は以前の研究について、「衝突に関するこれまでの研究の多くは、衝突死した鳥の数を数えて死亡率のデータを収集するものでした」と指摘。衝突死した鳥を数える研究はデータ収集に膨大な時間がかかる一方、今回の研究は「鳥の行動」に着目したため、短い実験期間でデータが得られる点が特徴です。将来的な研究では、飛行行動の違いが実際の死亡率をどれほど変えるのかを調べることが重要だと研究チームは主張しています。
なお、ボイコット氏らはホワイトノイズを発する音響灯台について、他の野生動物に対する影響やストレスの増加といった新しい課題が出てくる可能性があるとしつつも、「音による警告は正しい方向に向かう一歩になり得ます。このテストを他の期間、他の場所、他の衝突を起こす可能性がある建造物に拡張することには大きな価値があるでしょう」と述べました。
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