1960年代に一世を風靡した“スーパーマリオネーション”作品「サンダーバード」の日本上陸から55年に合わせるようにして、日本語劇場版『サンダーバード55/GOGO』の劇場上映が行われます。
この作品はサンダーバードの大ファンであるスティーブン・ラリビエー氏が、サウンドドラマの音源をベースに制作したもので、人形劇部分は放送当時のバンクシーンと新作で構成されています。しかし「新作カットを追加」といっても、どこが新たに作られたのかまったく見分けがつかないものだったので、どのように作ったのかを本人に直接聞いてみました。
リモートでインタビューに応じてくれたラリビエー氏。
GIGAZINE(以下、G):
そもそも、という話になるのですが、「サンダーバード」のファンになったきっかけはどういったところからでしたか?
スティーブン・ラリビエー氏(以下、ラリビエー):
1990年代、母が「サンダーバード」シリーズのビデオを買ってくれたのがきっかけでした。ちょうどその頃、テレビの全国放送でも「サンダーバード」の再放送があって、当時6~7歳ぐらいの子どもの間で大ヒットしたんです。その後、2000年代にも再放送があって、そのときもヒットしていました。最初に放送された1960年代ももちろんヒット番組だったと思いますけれど、1990年代、2000年代のヒットは、ひょっとすると放送当時以上のものだったんじゃないかと思っていて、おもちゃや本などがいろいろ発売されました。特に、「トレーシーアイランド」のおもちゃは入手が困難で、ニュースになるほどでした。だから、もう子どものころからのサンダーバードファンです。
G:
ご自身でも、オモチャは買いそろえていましたか?
ラリビエー:
「マッチボックス」のシリーズは全部買いました。1号、2号……いったい、いくつぐらい持っていたかな(笑) いま、自分の目の前にもデアゴスティーニのキットの箱が20個ぐらい並んでいます。
実際にラリビエー氏がカメラを動かして箱を見せてくれました。
G:
おお、そんな感じに並んでいるとは(笑)
ラリビエー:
数でいうと、今の方がたくさん持っているかもしれません(笑)
G:
YouTubeでメイキング映像が配信されていて、サンダーバードとしては当たり前のことだと思うのですが「本当にCGではないんだ」と驚きました。プロデューサーとして、本作を手がけたプレッシャー、そして楽しかった部分はどういったところでしたか?
ラリビエー:
一番のプレッシャーは、何よりも「1960年代に作った作品であるように見せる」という点です。とにかく作品をダメにしてはいけないというプレッシャーがありました。オリジナルと同等のものを、リスペクトを持ってきちんと作らないといけないと感じていました。
ラリビエー:
実際に、自分よりも前に「サンダーバード」シリーズをリメイクした映像はいくつかあって、私も見ましたが、ひどいんです。人形の作りも、塗りも、動きも、撮影も……。これでは、「サンダーバード」のイメージが悪くなってしまいます。そういうものに対して、自分は怒りを感じていました。自分が作るものは、そうなってはいけないなと思っていました。リメイクの場合、オリジナルへのリスペクトを強く持つのが大事なことだと思います。なので、実際に映画を作っている間は「楽しい」よりもプレッシャーが大きかったです。
楽しかったことは、子どものころから見ていたものが目の前にあるという点です。もちろん、それぞれオモチャは持っていて、撮影用のモデルも置いてあるうちは同じ見た目なのですが、いざ糸で吊って目の前で動かすとおもちゃとは別物になって、魅了されます。それでいいショットが撮れれば天国、悪いショットなら地獄です(笑)
スーパーマリオネーションは、とにかく「うまく撮る」ということがすごく難しくて、他人にはとてもオススメできません。やっていること自体は、はたから見ると変な姿で、たとえば、サンダーバード2号は振り回すようにして撮影することになります。ところが、これがうまくいくと、ものすごくかっこいい映像になったりするんです。
G:
今回、庵野秀明監督から「当時の映像の再現に徹底的に固執する制作コンセプトに、オリジナルに対する半端ない敬愛を感じ、素直に痺れます。」とのコメントが寄せられていました。この「再現」で、難しかった部分はどういった点でしょうか。
ラリビエー:
(庵野監督が褒めてくれたのは)オタクの世界の仕事であるという面もあると思います。
「サンダーバード」の再現においては、人形とレンズとの関係が何よりも重要で、これを間違えるといいものが撮れません。正しい方法を知っているという人に、私はまだ出会ったことがなくて、本作でも試行錯誤でなんとかたどりついたやり方でやっています。
たとえば、銀行のCMでペネローペを出演させたいという話をもらったのですが、先方が「自分たちの国で作る」といって聞かなかったことがあります。「このレンズを使って、この距離で、この照明を使って」と伝えたのですが、それも聞いてくれなくて、彼らは普通の人間を撮影するのと同じようなやり方をしようとしたんです。人形には照明を直接当てないとダメなんですが、天井に跳ね返った光で撮ろうとするんです。人形にフォーカスをしっかり合わせるためにも多くの光が必要なのですが、できていないとフォーカスが人形に合わず、ひどい映像になってしまうんです。それがスーパーマリオネーションの難しさです。
『サンダーバード55/GOGO』は、1960年代に作ったオリジナルのもののように見せるというのがとても大変でした。当時からそうですが、人形は手作りなので、同じキャラクターでもまったく同じものは作れず、微妙に違いが出ます。その細かいところに、気を遣いました。
G:
本作は、人形劇らしさと実写っぽさがうまく融合しているように思います。発進シーンの中で、特に2号と4号はこうして高画質な状態で見てもまったく見劣りしないものでした。オリジナル版は昔の映像ということでここまでクリアな映像ではないから大丈夫だったのかと思ったのですが、そうではないことを感じました。これが実現しているのは、撮影技法のおかげなのでしょうか。
ラリビエー:
そう言ってもらえるのは、とてもうれしいです。なぜかというと、いま挙げていただいた2号と4号の発進シーンは私が新しく撮ったものではなく、1960年代のオリジナルのものをそのまま使っているからなんです。当時テレビシリーズを作るにあたり、1度作った映像は使い回していたわけですが、今回も同じように映像があるものはそのまま使いました。それを、新たに撮った部分と合わせて見ていただいた上で「まったく同じように見える」と言ってもらえるのは、私たちにとってなによりの褒め言葉です。
実際に、映像を公開したときに一番うれしかったコメントは「よくできたリメイクだったけれど、1号の発射はイマイチだったね」というものでした。それは私が作ったリメイク部分ではなく、オリジナルのところだったわけですから(笑)
G:
オリジナル部分とリメイク部分が見分けられないぐらい溶け込んでいるということですね、すさまじい……。
今回、メイキングで人形を動かすシーンを見て、サンダーバードといえばまさにこの動きだなと感じました。操演において、「こうするとサンダーバードになる」という動き、あるいはコツがあるのですか?
ラリビエー:
そうですね……「サンダーバード」的な動きというのもあると思いますが、大きいのは人形の作りなのではないかと思います。関節の位置と重さのバランスが「サンダーバード」特有で、それを動かすことで「サンダーバード」らしい動きになるのでは内でしょうか。
もちろん、操演の仕方というのもあると思います。他の作品で人形の操演をしている人がサンダーバードの人形を動かそうとしても、うまくできないことが多いんです。それは、サンダーバードは大きな動きを小さなスペースで行わなければならないからです。海外の人に比べて、日本の人はあまり身ぶり手ぶりが大きくなくて、こぢんまりとした動きになりますが、そういうイメージです。サンダーバードは、洗練されつつも、注意しながら動かさなければならない部分があるということだと思います。
G:
映像もさることながら、音楽の合わせ方が「実に『サンダーバード』」だと感じました。この雰囲気を生み出しているのは、どういった要素なのでしょうか。
ラリビエー:
私はサンダーバードで育っていますから、子どもが言語を身につけるのと同じようにサンダーバードを身につけています。つまり、どんな見た目なのか、どんな動きなのかが感覚的にわかっている状態なんです。正しい英語がすぐわかるように、「正しいサンダーバード」は見れば一瞬でわかります。それをどう再現するかというところは、試行錯誤を繰り返してたどりつきましたが、目指すところ自体は明確でした。
たとえば、自分は「スター・ウォーズ」はそこまでのファンではないので、リメイクを担当したら失敗するかもしれません(笑) でも、フィルムメーカーとしていろいろな技術は学んできましたし、どういう人たちがどう作ってきたかを研究したり試したりするのは好きなタイプなので、技術を駆使して、目指す映像を作るのは得意だといえます。
本作の場合「1960年代に作ったような映像を見せたい」というのが目標ですから、編集においてはデジタル機材も使っていますし、カメラだってヴィンテージものだけではなく新しいものも使っています。キャプションについても、昔は今のような技術がなかったのでオプティカルプリンティングで、フィルムに文字をのっけていたので、フィルムのガタが見るとわかる状態なんです。デジタルならキャプションはきれいにピシッと入れることができます。そこを本作では、1960年代に作ったような映像に見せるために、デジタルテロップだけれどオプティカルプリンティング風のブレを入れたりしています。フォントはもちろん、「これが正しいフォント」というのがわかっていますから、それを使っています。こういうことの積み重ねで、当時と同じ「サンダーバード」らしさを感じてもらったのではないかと思います。
G:
なるほど。詳しいお話をありがとうございました。
日本語劇場版『サンダーバード55/GOGO』は2022年1月7日(金)から劇場上映開始、2022年1月8日(土)からはオンライン上映も行われます。
日本語劇場版『サンダーバード55/GOGO』予告解禁!2022.1.7公開【STAR CHANNEL MOVIES】 – YouTube
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・作品情報
プロデューサー:スティーブン・ラリビエー
監督:スティーブン・ラリビエー、ジャスティン・T・リー、デヴィッド・エリオット
脚本:アラン・フェネル、デヴィッド・グラハム、デスモンド・サンダース
特殊効果監督:ジャスティン・T・リー、スティーブン・ラリビエー、デレク・メディングス
音楽:バリー・グレイ スーパーバイザー:デヴィッド・エリオット
オリジナル製作:ジェリー・アンダーソン、シルヴィア・アンダーソン
原題:THUNDERBIRDS THE ANNIVERSARY EPISODES(「INTRODUCING THUNDERBIRDS」「THE ABOMINABLE SNOWMAN」「THE STATELY HOMES ROBBERIES」)
製作国:英
配給:東北新社/STAR CHANNEL MOVIES
コピーライト:Thunderbirds ™ and © ITC Entertainment Group Limited 1964, 1999 and 2021. Licensed by ITV Studios Limited. All rights reserved.
55周年特設サイト:https://www.tbjapan.com/
公式SNS:https://twitter.com/thunderbirds_jp
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