3年間クローゼットで眠らせている着物と決着をつけたい

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着る機会がなく、眠らせ続けている着物。そろそろ決着のときだ。

本にならってリメイクし、いい感じのコートになりました。

かれこれ3年間、我が家のクローゼットで眠っているものがある。

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着物だ。
谷中あたりの古着市で買った、中古の着物。3,000円くらいだっただろうか。柄がシブくていいなと衝動買いした記憶がある。

それが、今のいままで一度も着られずにいた。それはなぜか。理由は3つある。

 

①着物を着る気持ちになれなかった

街中で和服の人を見ると、つい目で追ってしまう。そのときの気持ちは、尊敬と羨ましさが入り混じった何かだ。
大学生時代に就活をしていたとき、なんの間違いか銀座の呉服店に話を聞きにいったことがある。最近の若者は和服を着る機会が少ないように思いますが、どのようにお考えですか、と尋ねたら、店主である妙齢の女性はこう言った。
「このあいだ夏祭りを見に行ったんだけどね、若い人たちが浴衣に長靴を合わせていたの。そんな風に着るくらいなら着なくていいと思うわ。」
なぜですかとは訊けなかった。筆者は「足もとが泥で汚れるくらいなら長靴でもいいんじゃないか」と思うが、きっと和服とはそういうものなのだろう。
街中で見かける和服の人たちは、きっと筆者の目に見えないいくつものハードルをクリアして、その姿でいるのだろうなと思う。そう考えると、着物を着て外に出かける気持ちになれなかった。

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これに革のブーツなんかを合わせたらかわいいと思うのだが、そんなことをしていいかの判断がまだ筆者にはできない。

②部屋着にするには大層すぎた

買ったはいいけど着る機会がない服を、部屋着にすることがよくある。洗濯して一発で縮ませたセーターとか、なんとなく2軍落ちしてしまったTシャツとか。
部屋着が着物だったらかっこいいなと思う。実際あの着物を買ったとき、その場にいた友人と、これ着て部屋で過ごしてたら超イケてない?という会話をした記憶がある。実際イケてると思う。
しかし実際に部屋で着てみると、これがなかなか大層なことなのだ。皿を洗うのに袖を縛ったり、風呂場の掃除に裾をたくしあげたりしなければならない。いつものパーカーにジーンズじゃダメなのか?という自問自答がはじまる。

③なんかちょっと短い

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This is つんつるてん

これは買うときに気づけよという話である。

じゃあなんで買ったんだよ、と思われるかもしれないが、当初は勝算がなかったわけではない。
筆者は幼少期に日本舞踊を習っていて、かんたんな着付けなら自分でできる。浴衣を自作したこともある。
かつては「人から何を言われても自分が好きな服を着る」という気概があったため、知らない人から和服のマナーを注意されても、それが何か?と言い返せる自信があったが、いまはただ穏便に暮らしたい。「着るものに和服を選ぶ」というだけの行為に与えらえてしまう意味と、真正面から戦いたくない。

そんなわけで、かれこれ3年クローゼットで眠らせていた着物である。
こいつとそろそろ決着をつけなければならない。
 

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本にならって準備をしよう

買ったきり一度も着てない着物を売ってしまうのか、それとも捨てるのか…とまじまじ眺めたが、柄がいい。いい生地だ。

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そうだ、この着物は自分が買ったものなのだから、もう好きにしていいのだ。リメイクして着物以外の何かにしてみるのはどうだろう。

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『型紙いらずの着物リメイク 1枚の着物でセットアップ』松下順子著・河出書房新社、
『着るのが楽しい 着物リメイクのきほん 基本とアレンジで作る26の服と小物』藤岡幸子著・朝日新聞出版

ネットで「着物 リメイク」と検索してみたら、それ専門のソーイングの本がたくさん見つかった。一度分解して、別物にしてしまうという行為にある種の罪悪感を抱いていたが、案外一般的に行われているようだ。

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こちらの本は「型紙をつかわない」タイプ。指定の寸法の長方形をつくって縫い合わせるだけ。
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こちらの本は、一度洋裁のパターンを起こすタイプ。型紙の自由度が高いため、作れる服のバリエーションが豊富。

両方読んでみて、前者の本を参考にすることにした。
型紙がすべて単純な長方形や三角形だから、最悪失敗しても分解し直して、クッションカバーにでもしてやろうと思ったのだ。

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着物の裏を見たら「SILK WOOL」という文字があった。

厚手の丈夫な生地を生かして、コートを作ってみよう。

まず下準備として、着物の片袖をほどく。

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リッパーと呼ばれる裁縫用具で糸を切り、このような状態に。縦横の寸法を測っておく。
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ぬるま湯と中性洗剤で洗う。型紙の参考にしている本では重曹を使っているが、別の本では中性洗剤を使用していたため、そちらを採用。

洗っている最中、布端に「NISHIJIN」の文字を見つけて怯えた。私は今西陣織を丸洗いしているのか…?

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陰干ししたら軽くアイロンをかけ、開いて再度寸法をはかる。

この時点で5cm以上縮んでいたらこの着物はリメイクNGらしいが、数ミリほどしか縮んでいなかった。リメイクNGだったらこの袖どうするんだと考えて背筋が寒くなる。

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残りの生地もすべて分解していく。正直この作業が一番大変だった。
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細やかな手縫いの跡など、人の手がかかった痕跡をみるたびに「私はいま知らない誰かの作品をゼロに戻しているのだ」という責任感に押しつぶされそうになる。

それでも着ないよりはずっといいのだと念仏のように唱え、ついに着物をバラバラの生地に戻した。

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「着物」から「布」に戻ったすがた。またぬるま湯と中性洗剤で洗い、陰干しし、アイロンをあてたら準備完了。

いよいよ洋服づくりにとりかかろう。
 

まっすぐ縫うだけで、着物は洋服になっていく

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今回つかう道具たち。この他に、マチ針や手縫い針など、基本の裁縫用具も用意。

ロータリーカッター、生地の色に合わせた厚布用ミシン糸、L字定規などを新たに購入した。
ロータリーカッターとL字定規の組み合わせは、あっという間に生地の裁断が終わり楽だったが、濃色生地用の白いペンは買わなくてもよかったかもしれない。えんぴつ型のチャコペンの方が使い勝手がよかった。

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本の指定の寸法に線を引き、どんどん切り出していく。

本来繋がっているはずの箇所が繋がっていなかったり、一般的な着物のパーツの寸法として設定されている長さよりも短かったりとトラブルはあったが、微調整を繰り返してなんとか切り分けることができた。

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長方形の群れと化した着物。はたして服に戻ることはできるのか。

まずは、布の端がほつれてこないように処理をする。

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我が家にはロックミシンなどというものはないため、このようにジグザクのミシンをかける。
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が、正直市販のほつれ止めを使うのが楽だし綺麗な気がする。洗濯にも耐えるすぐれもの。
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あとはひたすら縫っていくだけ。まっすぐなパーツがほとんどだから、カーテンを縫うのと大差ない難易度。
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なんだか服らしい形になってきた!
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袖の構造はいまだによくわかっていない。何度裏返しに縫い合わせたことか。
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袖をつけたら服の形になった。服って長方形の組み合わせでできるものなんだ…。
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ボタンをつけたら完成だが、せっかくだからかわいい留めパーツを買ってきた。これならボタンホールを開けなくて済む。
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こんな感じで、手縫いで取り付けたらいよいよ完成。

ついに、3年放置した着物との決着のときだ。

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アレンジした着物を着て出かけよう

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完成したコートだ。いかがだろうか。

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柄と留め具のおかげか、ちょっと和服っぽいムードも残っていてうれしい。
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余った生地でポケットを作ってみた。ポケットがあるとiPhoneが入る。でかいポケットのこと大好きだ。

型紙をつかわない服作りは、思っていたよりずっと簡単だったし、少しだけ余った生地で何を作ろうかワクワクしている。
もしかすると、「和服を着るために中古の着物を買う」のではなく、「着物の生地を愛でるために中古の着物を買い、リメイクする」という楽しみ方でもいいのかもしれない。

筆者はいつか、本物の和服と和解できる日がくるだろうか。
着付け教室なんかに通って、きちんと小物まで揃えて和服を楽しむようになるかもしれないし、ご意見無用に着物を着崩すアバンギャルドなばあさんになるかもしれない。
きっとどちらも楽しいのだろうが、その時がくるまで、リメイクした着物と仲良くしていくつもりだ。

裏地、だいじ

さて、ウールとはいえ1枚生地のペラっとしたコートは寒い。真冬はちょっと無理。
「裏地があれば多少暖かくなる」という情報を入手したため、そのうち裏地用の生地を買い、再度分解してリ・リメイクをかけたいと思う。
実はクローゼットに眠っている着物は今回のものだけではなく、彼らとも今後の関係について考えなくてはならない。
まだまだ本とミシンをしまうわけにはいかなさそうだ。

参考図書:『型紙いらずの着物リメイク 1枚の着物でセットアップ』松下順子著・河出書房新社 2021年第9刷
型紙:「つばめコート」(元の着物の寸法の都合で、一部アレンジを加えております)

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