「バッテリー式の電車」は現実的なのか?

GIGAZINE


日本政府が2021年11月22日に「電気自動車(EV)の購入者への補助金を現行の2倍にする」と決定したように、脱炭素社会に向けた動きが世界規模で進行しています。車と双璧を成す移動手段の「電車」について、アメリカの研究チームが「『バッテリー式電車』の実現は可能なのか?」というテーマの研究を発表しました。

Economic, environmental and grid-resilience benefits of converting diesel trains to battery-electric | Nature Energy
https://www.nature.com/articles/s41560-021-00915-5

Can we use big batteries to power our trains? | Ars Technica
https://arstechnica.com/science/2021/11/can-we-run-our-trains-using-big-batteries/

日本で一般的に乗ることができる列車は「電車」の名が示すとおり、屋根上のパンタグラフの架線から供給される電力で駆動しています。しかし、荷物を輸送する貨物車にはディーゼルエンジンなどの内燃機関で動くものも存在し、アメリカに至っては貨物車のほとんどがディーゼル機関車であり、年間3500万トンのCO2を排出して65億ドル(約7500億円)相当の健康被害を生み出していると推計されています。

脱炭素社会への移行が求められている昨今において、鉄道車両においても電化が求められるというのが当然の流れです。しかし、日本のようなパンタグラフを敷設するという方式は国土の広いアメリカにおいては膨大な初期費用と保守費用を伴うため、バークレー国立研究所のアモール・パードケー氏らのチームが検討しているのが「巨大バッテリーをくっつけた電車」です。アメリカにおける既存のディーゼル機関車はほとんどが「ディーゼルエンジンで発電機を回して電力を生み出し、その電力でモーターを動かす」という方式で駆動しているため、配線を切り替えるだけで「ディーゼルエンジンで発電機を回して電力を生み出す」という部分をバッテリーに置き換えられる可能性があるとのこと。


パードケー氏らはアメリカでは一般的な貨物列車が1日平均241km走行するという前提のもと、機関車4台と貨車100台で構成される積載量7000トンという大型貨物列車を駆動させられるバッテリーについての試算を行いました。その結果、リン酸鉄系リチウムバッテリーならば、この大型貨物列車を動かす機関車4台に十分な電力を供給できるという結果が得られたとのこと。仮にこの大型貨物列車をリン酸鉄系リチウムバッテリーで駆動させた場合、リン酸鉄系リチウムバッテリーの大きさは一般的な貨車1台の40%程度のサイズで済むそうです。

また、この試算によって現行のディーゼルエンジンからリン酸鉄系リチウムバッテリーに置き換えた場合のメリットも明らかになっています。リン酸鉄系リチウムバッテリーの場合はダイレクトに電力をモーターの動力に変換できるた、消費電力が半分にまで低下する上、さらにディーゼルエンジン時には必要だった燃料補給の時間まで短縮できるとのこと。これは燃料補給に比べてバッテリーの給電時間が早いことに加えて、給電に時間が掛かりすぎる場合は「バッテリー自体を交換する」手法が採れることも寄与しています。


一方、バッテリーに移行した場合には当然ながら多額の初期費用がかかります。パードケー氏らは費用面についても試算を行っており、その結果はガソリン価格やバッテリーの充電頻度などによって大きく変わり得るとされていますが、バッテリーに切り替える初期投資だけで150億ドル(約1兆7200億円)かかるものの、バッテリーによって軽減される大気汚染を考慮に入れると440億ドル(約5兆600億円)の節約になり、さらにCO2排出量の削減まで考慮に入れると940億ドル(約10兆8200億円)の節約になるとのこと。今後バッテリーはさらに効率的になるという見通しですが、2021年の試算においても内燃式よりも経済的だという結果です。

また、パードケー氏らは電車用大型バッテリーの転用性についても言及しています。鉄道会社がバッテリーへの移行を進めるというのは、鉄道会社が特大のバッテリーを多数所有するということを意味しています。従って、このバッテリー群を生かして災害時に被災地に電力を供給したり、「電力価格が安い時間帯に電力を買い入れ、高い時間帯に売る」という手段で収益をあげたりできる可能性があります。パードケー氏らの試算によると、テキサス市場で電力の転売事業を営んだ場合、1年でバッテリーの初期費用を回収できる利益をあげるかもしれないとのことです。

この記事のタイトルとURLをコピーする

・関連記事
数時間の充電で180km走行可能な電動自転車バッテリーを自作した男性が登場 – GIGAZINE

わずか6分で電気自動車を90%まで充電する可能性を秘めたバッテリー材料が開発される – GIGAZINE

テスラ車を時速113kmでけん引すればバッテリーを高速充電できるのか? – GIGAZINE

・関連コンテンツ

2021年11月27日 06時00分00秒 in 乗り物, Posted by log1k_iy

You can read the machine translated English article here.

Source