火星が生命に適さない星になってしまった「非常に単純な理由」とは?

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by Kevin Gill

火星は太陽系の中でも地球と近い環境を持つ惑星だと言われており、近年はアメリカ航空宇宙局(NASA)の火星探査機「パーサヴィアランス」が着陸して岩石サンプルを採取するなど、盛んに調査が行われています。はるか昔の火星は生命の維持に必要な「水」に覆われていたと考えられていますが、アメリカやチェコなどの国際的な研究チームは、「火星は非常に単純な理由によって水を失うことが決定づけられていた」との研究結果を発表しています。

Potassium isotope composition of Mars reveals a mechanism of planetary volatile retention | PNAS
https://www.pnas.org/content/118/39/e2101155118


Mars habitability limited by its small size, | EurekAlert!
https://www.eurekalert.org/news-releases/928771

There Could Be an Extremely Simple Reason Why Mars Isn’t as Suitable For Life
https://www.sciencealert.com/there-s-a-simple-reason-mars-might-have-limited-habitability-its-tiny-size

火星にはかつて水が存在していた証拠が複数見つかっていることから、何かしらの微生物が存在した可能性も指摘されており、人類の移住先としても注目を集めています。ところが、火星には氷が存在するということは報告されているものの、記事作成時点では火星表面において液体の水は発見されていません。

水の有無は生命の存在に関わる重要な条件であり、火星の居住性にも重要な影響を及ぼす要因です。火星から水がなくなった理由については、惑星の磁性が変化したことによって宇宙空間に放出されてしまったという説や、火星の南半球が夏になった時に蒸発して宇宙空間に流出したという説が提唱されています。

火星から水がなくなった理由について、研究チームは「火星の重力が小さいことが原因で水が揮発してしまったのではないか?」という仮説を立てました。火星の直径は地球のわずか53%であり、重力は地球の3分の1程度しかありません。重力が小さいと揮発性の物質を惑星にとどめておくことが難しいため、水がなくなってしまった可能性が考えられるとのこと。


仮説を検証するため、研究チームは適度な揮発性を持つカリウムの同位体を手がかりとして、火星における揮発性物質の推移を調査しました。カリウムの同位体は発火プロセスや衝撃によって気化しにくいため、惑星内部における揮発性物質の枯渇をよく示すことができるそうです。

研究チームは古い時代の火星におけるカリウム同位体比率を調べるため、火星から飛来した隕石(いんせき)をサンプルとして分析しました。ワシントン大学の惑星科学者であるKun Wang氏は、隕石は火星の化学構造を研究するために利用できる唯一のサンプルであり、40億年前~数億年前にかけての火星における揮発性物質の歴史を記録していると指摘しています。

今回の分析では20個の隕石中に含まれるカリウム同位体の組成を調べ、その後で地球・月・小惑星ベスタの組成と比較しました。その結果、火星は惑星の形成中に地球よりも多くの揮発性物質を失っていたものの、より小さい月やベスタと比較すると多くの揮発性物質を保持していることが示されました。これは、星の重力と揮発性物質を保持する量の間に関係があることを示唆する結果です。

ワシントン大学の惑星科学者であるKatharina Lodders氏は、「原始的で未分化の隕石よりも、分化した惑星における揮発性元素と化合物の量がはるかに小さい理由は、長年の疑問となっていました」「カリウム同位体組成と惑星重力の相関関係は、分化した惑星がいつ、どのようにして揮発性物質を受け取ったり失ったりしたのかについて、重要な定量的意味を持つ新発見です」と述べています。Wang氏は、「火星の運命は最初から決まっていました。岩石惑星が居住に十分な水を保持し、プレートテクトニクスを可能にするために必要な大きさには制限が存在し、火星の質量はそれを越えていると考えられます」と述べました。

by Kevin Gill

今回の研究結果は火星についてだけでなく、他の惑星における生命探査にも影響を及ぼす可能性があると研究チームは指摘。これまで、太陽系外惑星の生命探査で重要視されていたのは、恒星との距離によって左右される惑星温度でした。しかし、今回の研究結果を踏まえると、「小さすぎる惑星は生命に必要な水を保持できない可能性が高い」ことになり、生命が存在する可能性が高い星がさらに絞られます。

Wang氏は、「太陽系外惑星の大きさは、最も簡単に決定できるパラメーターの1つです。揮発性物質を保持する一次的要因はサイズであるため、サイズと質量に基づいて、太陽系外惑星が生命の候補であるかどうかを知ることができます」と述べました。

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