小さい子に人気のキャラクターは多数存在している。夢の国のネズミさんやアンパン顔のヒーロー、しましまの虎さんなど──今でこそ「可愛いキャラクター」と認識しているが、筆者は幼少期、こうした可愛らしいキャラクターたちが怖かった。溶けて襲いかかってくるからだ。
「何のこっちゃ」と思われた方は多いと思う。だが幼少期にのみ起こっていた現象なので、実は筆者自身も何だったのかよく分からない。ただ、もしかしたら似た現象に悩まされていた方もいるのでは? と思い、この現象について思い出せる限り書いてみたいと思う。
・ドロドロに溶けていく
2歳頃まで、一般的に「可愛い」とされるようなキャラクターたちを見ていると溶け出して、襲いかかってくるような気がして怖かった。こうして文字にしてみると改めて、筆者自身でも「何のこっちゃ」と思う。ただ、当時は真剣にこの現象に悩まされており、めちゃくちゃ怖かった。
具体的にどんな風に見えていたのかというと、見はじめは視覚的に見たそのままの姿で見えるが、見ているうちにだんだんと溶け出していってしまうのだ。視力に問題はなく、視点を変えるなどして見ないようにするとリセットされるが、見るとやっぱり溶けていってしまう。
おまけに、何故かこの溶け出したキャラクターの「成れの果て」が自分を呑み込もうと襲いかかってくるイメージが脳裏に浮かんでしまうため、余計に「恐怖」の対象でしかなかった。可愛らしいキャラクターを見てはガチ泣きするので、当時両親はどうすればいいかと困っていたらしい。
溶けずに「可愛い」と思えたのは絵本『コロちゃん(Spot)』シリーズに登場する犬のコロちゃんと『少年アシベ』のゴマちゃんのみ。
あとは軒並み、どんなに可愛らしかろうと他の小さい子たちから愛されていようと、筆者から見ると皆等しく「溶けていく」怖いキャラクターたちだった。
そのため、多くの小さい子が楽しんで見る幼児教育番組やアニメは全く見られなかった。『アンパンマン』のようにヒーローと悪役が登場する物語であっても、作中の役割に関係なくヒーロー側も悪役側も溶けてしまうため、行動の善悪に関係なく恐怖を感じた。
絵本も同様で、どんなに可愛らしいお話が描かれていても『コロちゃん』以外はキャラクターが溶けてしまうので読めなかった。幼児教育に用いられがちな『ノンタン』シリーズや、大人になっても好きな方が多い『バーバパパ』も怖かった。
ちなみにバーバパパは滑らかな形のせいか一段とよく溶け、幼児期の私にとって屈指の「恐怖」だった。「よく溶ける」キャラクターは何故か「勢いよく呑み込もうと襲いかかってくる」イメージが浮かぶため、めちゃくちゃ怖かったのだ。そのせいか、その現象に悩まされなくなった今でも、正直ちょっと怖い。
そして「溶けてしまう」現象は絵に限らず、実写でも「キャラクター」に対してはほぼ等しく起こった。たとえば『セサミストリート』は実写(人形劇)だが、やはりキャラクターたちが溶けていってしまうため、怖くて見ていることができなかった。
こうしたキャラクターたちは事情を知る両親以外の大人から良かれと思って見せられたり、贈り物として与えられて目にする機会が多かった。こちらからすると不意打ちをくらったようなものなので怖くて泣くこともあったが、善意で与えた大人側は困惑しただろうと思う。
教育関係の仕事をしている知人にも「ごく稀にキャラクターものを怖がる子がいる」と言われたことがあるので、もし幼児に良かれと思って与えたものにギャン泣きされたとしても、色々な子がいるんだな、と広い心で接してあげてほしい。
・溶けなくなった
人間を描いたものであっても、『サザエさん』や『ちびまる子ちゃん』のようにデフォルメが強く効いた人間キャラクターも軒並み溶けて怖かった。ゴマちゃんは溶けないのに、『少年アシベ』の他のキャラクターたちは他の作品同様、皆等しく溶けてしまうためやはり怖かった。
しかし、2歳のときに突然転機が訪れた。親戚の家で偶然見せられたアニメのみ、生まれて初めて一度も泣かずに見終えることが出来たのだ。このとき見せられたアニメは『美少女戦士セーラームーン』だったのだが、どのキャラクターも全く溶けていくことがなかった。
アニメ作品のため、当然『美少女戦士セーラームーン』にも人物などにデフォルメは効いているが、他の作品よりも頭身などが実際の人間に近いのが良かったのだろうか。自分でも何故なのかは一切分からないが、不思議とセーラームーンたちは全く溶けなかった。
そしてさらに不思議なのが、これ以降は他の作品のキャラクターを見ても「溶ける」ことはなくなっていた。これまで「恐怖」の対象だったキャラクターたちを積極的に見ることはなかった故に、具体的にいつ頃治ったのかは分からない。だが、『セーラームーン』に触れて以降なのは確かだ。
幼稚園へ通い出す3歳頃には無事、キャラクターが「溶ける」ことはなくなっていた。そのため「怖い」と思うものも「溶けるから」ではなく、アニメの中で暴力を振るっている者など、物語上での役割などのみを理由に判断するよう変化していった。
それからは可愛いキャラクターを見ても「可愛い」と思えるようになり、ふなっしーやシナモロールなど、キャラクターグッズを買い集めるほど好きになるキャラクターもあらわれた。人型のデフォルメも、今ではすっかり平気になった。
平気になっただけに「あれは何だったんだろう」と思い、『不思議の国のアリス症候群』のように幼少期特有の現象として名前がついているのでは? と調べたりもしたが、今のところ「これ」と思えるものに辿り着けていない。それどころか、似た現象にみまわれていた話すら聞いたことがない。
もし幼少期に似た現象に悩まされていた方、何かご存知の方がおられましたら、是非とも筆者のTwitterにでもご一報ください。
執筆・イラスト:伊達彩香
Photo:RocketNews24.