脊髄損傷患者に電気刺激を与えることで再び歩くことができるようになるメカニズムが判明、腰髄の神経細胞のはたらきが不可欠

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スイスの研究グループが、脊髄の損傷により重度のまひを患い歩行が困難な患者を調査した結果、これまで未発見だった脊髄損傷後の回復に必要な組織を発見したと発表しました。

The neurons that restore walking after paralysis | Nature
https://doi.org/10.1038/s41586-022-05385-7

People With Complete Paralysis Walk Again After Nerve Stimulation Breakthrough : ScienceAlert
https://www.sciencealert.com/people-with-complete-paralysis-walk-again-after-nerve-stimulation-breakthrough

歩行に必要な神経細胞は脊髄の部分に存在しており、脊髄を損傷すると脳からの信号が遮断され、歩行ができなくなります。その結果、たとえ足に問題がなかったとしても足の永久まひを引き起こすことがあります。

これまでの研究では脊髄を電気的に刺激することでまひを回復できることが示されていましたが、そのメカニズムは明らかにされていませんでした。そこでスイス連邦工科大学ローザンヌ校(EPFL)の神経科学者であるクラウディア・キャシー氏らが、脊髄の「硬膜」と呼ばれる部分に電気刺激を与える硬膜外電気刺激という技術を、重度の脊髄損傷を受けた9人の患者とマウスで検証しました。

患者たちが週に4~5回の刺激とリハビリを5カ月間続けたところ、全員が歩行器の助けを借りて歩くことができるようになったとのこと。

また、回復した患者たちは歩行の際に腰の脊髄の神経活動が低下していたとされています。そこでキャシー氏らはこの過程をマウスで検証し、どの細胞がどのような働きをしているかについて把握しました。その結果、これまで知られていなかった神経細胞の集団が腰の脊髄の中間層という組織に存在することが判明しました。以下の画像は刺激された神経細胞を可視化したものです。


この組織は一見すると健康な動物の歩行には不必要ですが、脊髄損傷後の歩行の回復には不可欠とされており、この組織を破壊するとマウスの回復が阻害されたそう。また、この組織は脳幹からの情報を実際の歩行につなげる神経へと伝達する働きがあるとされています。

研究グループが発見した組織の詳細や、実際に脊髄損傷により歩行が困難だった患者が歩く様子は、以下のムービーを見ると確認できます。

Scientists identify neurons that restore walking after paralysis – YouTube
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キャシー氏らはこの発見を「細胞の情報伝達に関する一要素に過ぎず、まだ解明されていないことが複数あります」と述べる一方で、「この発見はやがて治療法の選択肢を増やすことにつながり、他の脊髄損傷患者にとってもよりよい生活の質を提供できるようになるかもしれません」と推測しています。

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