中国と日本で「人」の字が違う?

デイリーポータルZ

どちらも漢字を使う、日本と中国で「人」の字をチェックしてみた。

「人という字は人と人が互いに支えあって人となる」

古くは武田鉄矢さん演じる金八先生、もっと古くは5000円札の顔にもなった新渡戸稲造さんの言葉だ。

なんでも武田鉄矢さんはその後、その名言はウソで人を横から見た形だと話しているらしい。中国の象形文字もまた人を横から見た形になっている。

この漢字の「人」について日本と中国の風景を思い出しながらいろいろ考えたことがあった。

ホが木になる謎を探る

関心を持ったのは、「人」の字と関係ないところがきっかけだった。

日本にある中国料理屋などで、よくホの字が木になっているのだ。

ツボと書きたかったのだが、ツ木゜になっている。

ずっと疑問に思っていたのだが、ある日たまたま中国のフォントを見たときに、あるフォントで木の字が「ホ」と表示されていることに気づいた。

つまりホが木になったという僕の解釈は違っていて、中国人にとってはホという形もまた木なので、単に書き手が区別していないというのが真相ではないかと思った。

「ホ」もまた「木」なのだ。

ホの気づき

ホが木ではなく木がホだった

人の字が気になりだす 

これに驚いた僕は、文字を入力すると色んなフォントで一覧表示してくれる中国語のサイトを探し出し、いろんな字を入れては各フォントでの表記一覧を眺めた。

日本語でも同じように漢字のフォントを一覧表示してくれるサイトがあり、そこと見比べた。

いろいろな漢字を入れてみると、「人」の字が目にとまった。

こちらが中国語フォントで……
こちらが日本語フォントだ。
フォントをろくに意識してなかったので衝撃の真実!だった

「人」の書き方が違うような気がする。

中国のフォントだと、上から左へとはらう1画目のあと、2画目は1画目の途中からスタートして右にはらうのが多数派。日本のフォントだと上から右に左右対称にはらうのが多数派だ。(例外もあるが)

小学校で学校で習ったのは、中国式の書き方だった。こちらの方が正しいのではないだろうか。

人の気づき(1)

中国のフォントのほうが、正しい書き方の「人」が多そうだ

中国の街で「人」の字を探す

本当に中国の「人」はいつもこの書き方だろうか。過去に撮った写真をいろいろ見てみる。

人民日報。正しい書き方だ。
ノスタルジーさを出す人民公社バーもこの書き方。
映画のチケットも正しい書き方だが、既にこれまでの「人」の字体全てが違っている。
昔ながらのスローガン「為人民服務」。子供も安心のフォントだ。
バーゲンセール会場にも人の字。
結婚記念写真撮影キャンペーン会場。「夫人」とか普段使わないよなあ。
中国人民保険。1949年設立だそうだ。光っても正しい書き方。
一方中国人民大学出版社は左右対称型の人。
個人商店だと左右対称型の人で印刷している店が多そうだ。
プロパガンダ系は左右対称型の人が多そうだ。

意識はしてなかったけど、人の字が入った写真のなんと多いことか。

中国語で「人」の字がつく言葉は結構ある。「人民」なんかはそれこそ結構見かけるもので、ひいては「人民路」とか「人民公園(駅)」とかある。

でもって、その道路や駅名を見ると左右対称型の「人」だ。調べると交通標識のフォントは左右対称型ときまっているのだとか。

人の気づき(2)

中国では昔からのものは正しい書き方の「人」が多く、最近のものは左右対称型の「人」が多そう 

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日本で「人」の字を探す

日本でも人の字のある写真を探してみた。しかし日本では人の字は探すのが難しかった。

名古屋で見つけた「名古屋人」。手書きなので正しい書き方通りだ。
塾の前に少人数授業とあった。なるほど少人数はよく使う。
新聞は誌面も広告も左右対称の人だった。
熊本県にある人吉市。こちらは左右対称形が多数派で手書きは正しい形だった。

中国に比べると「人」という字を見つけるのに苦労した。日本人とか何人とか強調するときくらいしか、あまり「人」という字は使わないのかもしれない。

熟語は「巨人」「悪人」「一人」など、確かに外だとあまり見る機会のない熟語ばかりだ。

駅名だと例えば東京の人形町駅。人の字は東京メトロの駅も都営地下鉄の駅もも左右対称だ。

人の気づき(3)

「人」の漢字は日本だとあまり見ないが中国だとすごく見る

フォントのシェア問題

ここまで見てきて気づいたことがある。

たしかに中国よりも日本のほうが左右対称の「人」が多いけど、そのほとんどが明朝体や、ゴシック体のような字体だ。

もしかして中国語と日本語という言語の違いよりも、フォントのシェアの問題かもしれない。中国では手書き風のフォントが今も大事に使われていて、日本では明朝体やゴシック体がより多く使われる、ということなのではないか。

雑誌や本は探すと「人」の字が出てくる。やはり明朝やゴシックは左右対称。
日本の社会の教科書は見出しと本文でフォントが別々だった。2種類混在という大人のルールが教科書に入っていた。

教科書での「人」の字が左右対称とそうでないフォントで混在しているのが新鮮だった。子供はめざといから気づいてる子もいるんだろうなあ。

知り合いにきいたところ、その話を聞いた小学校の先生がこんなことを教えてくれた。

「『ユニバーサルデザイン(UD)教科書体』というのがあって、それだとちゃんと書き方の授業で書いたような、1画目の途中から2画目が出てくる『人』の字になるんですよ」

「子供たちは、特に小学校低学年の子供たちは、習ったのと違う『人』の字の印刷を見つけて、結構フリーズしてしまうんです」

「高学年になると慣れていくんでまだいいんですけどねー。UD教科書体ができてだいぶ良くなりましたよ」

なるほどそんな事情があったのか。

人の気づき(4)

フォントにある左右対称の「人」の字が出ると、子供は内心不安になる

中国の教科書では

中国の教科書ではどう扱うのだろうか。

1年生教科書を開いてみると、さっそく1ページ目に人の漢字を紹介していた。

「天」「地」「人」。そしてあなた、わたし、かれの字が下段に。

1年生の最初に「天」「地」「人」。かっこよすぎる。

やはり中国も国語の教科書での「人」の記載は正しい書き方だ。

中国の子供も印刷物などで見る「人」の字の違いに内心不安を持っていてもおかしくない。

人の気づき(5)

小学生の教科書の1ページ目の「天地人」で「人」の字を学ぶ

小学生は「人」に日々もやっとする

日本と中国で小学校で習わない「人」の字があふれている。いや、日本では人の字はほんのちょっとしかない。しかし見つけると子供はその字の異形さにもやっとするかもしれない。

物心つき始めた子どもの世の中のお母さんやお父さんは、胸に秘めていきていただきたい。

 

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